謎の少年、あらわる
プロローグ。主役の引き継ぎ
読者諸君は知っているだろうか? この地球には最強の勇者がいることを。その少年の名はフェニックス。火を扱う戦士で、その力は神をも凌駕する。
……だが、そのフェニックスにも勝てない相手が現れたとしたら。
「ギガフレア!」
「効かないよーん」
大空でその死闘は繰り広げられていた。片方はフェニックス。背中から火炎の翼を生やし、飛びながら敵を攻撃する。
しかし、もう片方である鳥人間は、フェニックスの炎をその身に受けてもびくともしない。
「くそっ、コケにしやがって! 滅世禁炎之舞!」
「あーらよっと!」
フェニックスの右手から赤い光線が放たれるが、鳥人間はひらりとかわす。光線は、空の彼方に消えた。
「なっ……! 俺の最強の技をいとも簡単に避けるなんて!」
「残念だなフェニックスちゃん! あくまでお前は地球最強! いわゆる井の中の蛙なんだよ!」
「なんだと……?」
「くらえ! 羽毛バレット!」
鳥人間の翼から白い羽毛が幾千と発射される。それは全てフェニックスに直撃し、爆発を起こした。
「ぐあああああ!」
「あーばよっ! ボスから『フェニックスにだけ気を付けろ』って言われてたが、大したことねーな! この調子だと、地球が我らの手に落ちるのは明日かもな!」
「く……そ……!」
満身創痍のフェニックス、その背中から火炎の翼が消える。フェニックスは、地上へと落下を始めた。
……だが、その体を風が受け止めた。
「な、何だ……?」
死を覚悟したフェニックスだったが、自分が空に浮いている事に戸惑う。地上を見ると、自分に向けて手の平を向ける同年代の少年がいた。
きっと彼が、風を操っているのだ。
当然、鳥人間もそれに気付いていた。
「何だ何だ? おいお前! 今更フェニックスを助けたところでどうしようもないぜぇ? どうせ地球は……ぬおっ!?」
地上にいた少年がいきなり消え、鳥人間の目の前に現れる。だが翼も何もない……フェニックスにしたように、やはり彼は風の力を使っているらしい。
そして少年は、口を開いた。
「どうせ地球は……何だって?」
「ど、どうせ地球は俺達が支配するんだよ! だから雑魚は引っ込んでろ!」
「ほう? その雑魚を前にして貴様は……冷や汗をかいているのか?」
ドヤ顔で呟く少年。鳥人間が慌てて自分の顔に触れると、濡れていた。無論それは……汗。
「ち、違う! これは違う! ち、地球は俺が住んでいる星より暑いからな!」
「そうか……ならば涼しくしてやろうか……?」
少年が、右手を鳥人間の顔のまえにかざす。そして、叫んだ。
「ブリザード!」
絶対零度の強風が鳥人間を襲う。
「ぬおあああ!?」
鳥人間は後方へ飛ばされながら、氷漬けとなる。だが、何とか持ちこたえる。鳥人間は少年と一定の距離を取ると、息を落ち着かせ……られなかった。
またしても、いきなり目の前に現れる少年。
「ひぃい!?」
「どうした、震えているぞ? 恐いのか? ……俺が」
「ち、違う! これは違う! 氷漬けにあって寒いだけだ!」
「そうか……ならば暖かくしてやろうか……?」
「や、やめ……!」
鳥人間の静止も聞かず、少年は右手から全てを熱し溶かす風を放った。
「超熱風!」
「ぐぎゃあああああああ!」
鳥人間はドロドロに溶け、最終的に蒸発し、消えた。
「他愛もない。果たして井の中の蛙は誰だったかな、鳥人間」
少年が空中から一瞬にして消え、そして地上に一瞬にして現れる。
そしてどこかへ歩き出そうとしたとき、フェニックスが追い付いた。
「……何か用か? フェニックス」
「あ、いや……。取り敢えず、助けてくれてありがとな」
「鳥人間が俺と貴様にとって共通の敵だった。それだけの事だ」
「そ、そうか。良かったら名前教えてくれよ。悔しいけどアンタ、俺より強いらしいし、また力を借りたい時が……」
少年がため息でフェニックスの話を遮った。
「悪いが、俺に名前などない。いや、覚えていないと言う方が正しいか」
「記憶喪失……なのか?」
「そんなところだ。まぁ、俺を呼ぶ時は風人と呼べ」
「風人?」
「あぁ。俺は風を操っているのではない……俺こそが風だ。風の人で、風人だ」
「わ、分かった。宜しくな、風……」
フェニックスが手を差し出す。しかし、風人はそれを払いのけた。
「言っただろう。俺は風だ。風を掴むことなど誰にも出来ない」
「あ、握手くらい……」
「またいつか、会おう」
風人は、その場から一瞬にして消えた。