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一章② 初陣

すこし時間を遡る。

(はじめ)とセラーナはベリジア社会主義連邦とツァイホン民主主義国の国境近くの軍用空港に到着した。

 「ついたぁ〜。暑〜い!」

 セラーナが灼熱の太陽に向かって叫ぶ。

 ベリジア社会主義連邦とツァイホン民主主義国の国境はミザナギ国よりも北側、つまり赤道に近い所にある。当然気温も上がるため、もし戦闘となったら厳しい暑さとも戦わなければならないだろう。

 「ここ、随分寂れてますね」

 「この国の空軍力はかなり低いからな。MIGの航空部隊が来るまで、滑走路に草が生えてるような状況だったと聞いている」

 教官の話が本当なら、由々しき事態だ。現代戦では陸空、海があれば海との連携が必要だ。たとえどれかが最強だとしても、戦いに勝つことはできない。

 「この状態でツァイホンの軍事力とぶつかろうとしてたんですか」

 「だから我々を頼ってきたんだろ。独力ではね返せる災厄なら誰だって自分で片付ける」

 教官が言うのももっともだった。そのために我々がいる。

 と、滑走路に場違いな飛行機が姿を現した。単発のエンジンにどこか近未来的なフォルム。

 ステルス機、F─35Aだ。翼にはアリタMIGのエンブレムが描いてある。

 「今ここはアリタMIGの専用空港だ」

 教官が事に言う。

 F─35Aは全部で3機出てきた。ゆっくりとタキシングし、滑走路へ侵入する。

 そして、出力を最大まで上げ滑走路を疾走する。3機はそのまま空へ飛び立っていった。

 「何のために飛んだんですかね?」

 はじめが教官に聞く。

 「おおかた、早期警戒管制機のレーダーに敵機が引っ掛かったんだろう。それより、お前らはこれからのことに集中しておけ」

 「はい」

 言われずともそのつもりだ、とは言わなかった。

 「ねぇねぇはじめ。私たちどういう扱いなのかな」

 「どういう扱いって、普通に新兵だろ。軍隊で言えば二等兵だ」

 「そういうことじゃなくて、私たちは実戦に出るのかなっていうこと」

 「それは…難しいんじゃないか?」

 まだ新兵の段階で実戦に出るのは危険だ。ある程度配属部隊で訓練を積んでから実戦へと赴くことになる。普通はそうだ。

 「それだがな…、お前らは特別優秀だからおそらく今回の作戦には駆り出されると思うぞ」

 教官が顎をかきながら言う。

 「え、それって…」

 「連隊長がな、お前らの成績をいたく気に入ってな。本当なら本国待機の所をここまで呼び出したんだ。まあ簡単な任務だと思うが」

 「よっし」

 はじめはぐっとガッツポーズをする。それを見て肩をすくめるセラーナ。

 「はいはい、死にたがり死にたがり」

 「だから、そう言うなって」

 教官の案内で、空港の外へと向かう。空港の入り口にはAMV装甲兵員輸送車が待機していた。

 「VIP待遇だな」

 教官が笑う。だが、エアコンがあるジープなどを期待していた二人は落胆した。

 「まぁまぁ、これも訓練だと思え。この暑さに慣れておくことが今後のためになるぞ」

 「…はい」

 乗り込むと、装甲兵員輸送車は出発した。舗装されていない道なので乗り心地は最悪だ。

 「で、俺たちはどこに向かっているんですか?」

 教官に聞くと、予想通りの答えが返ってきた。

 「国境に一番近い村のガオザイという村だ。そこにトローン連隊は進駐している」

 そこは既にアリタMIG地上部隊の一大基地になっていると教官が教えてくれた。ほとんどの兵種がその村に展開しているのだろう。

 空港から二時間ほど車に揺られて、ガオザイに着いた。

 輸送車から出ると、そこには様々な車種が止まっていた。今乗ってきた装甲兵員輸送車から歩兵戦闘車、自走砲から、レーダー搭載車両、自走式対空砲、SAM(地対空ミサイル)搭載車両、戦車まで止まっている。

 来た道を見ると、そこには鉄製の即席ゲートが作られており、村を見渡すとカセトカ装甲で囲まれているのが分かった。

 「こっちだ」

 教官の案内でたどり着いたのは、民家の地下だった。そこだけコンクリートで造られている。どうやらかなり前からアリタMIGにベリジア国軍が頼ってきたらしい。準備が行き届いている。

 そこにいたのはドラーギの男性とフリダートとイリ―エルの女性二人だった。

 「現着しました」

 教官が敬礼する。それに合わせて二人も敬礼する。

 「うむ、遠路はるばるご苦労だった」

 ドラーギの男性が頷く。

 「では私はこれで」

 教官がそう言って退出する。残された二人はまじまじとドラーギの男性に見つめられることとなった。

 「君たちが噂の新兵君かね」

 「はい、遠藤肇です!」

 「同じく、セラーナ・レイトバックです!」

 「うむ、二人とも休め」

 サッと安めの姿勢をとる二人。その動きに目を細めるドラーギの男性。 

 「私はトローン連隊を束ねる十鳥啓そとりけいという。こっちのフリダートは連隊付きの第一中隊長のエルシア・ガブリエル。イリ―エルの方は第一偵察小隊長のアゼル・フォレスターだ」

 二人がにっこりと微笑んだ。

 「さて、早速だが君たちには分隊に合流してもらう。君たちの所属は第一偵察小隊チームエコーだ。仲良くしてくれ」

 「「はい!」」

 十鳥に続きアゼルが話し始める。

 「君たちの分隊には任務を与える。まずは工兵の道の整備の警護を行ってくれ。君たちの最初の任務はこの指令を分隊長に届けることだ。いいね」

 「「了解しました!」」

 「うむ、いい返事だ。では…駆け足!!」

 「「はっ!」」

 二人で地下室を飛び出す。だが、E分隊がどこにいるのか分からない。

 「…まずは誰かに聞こうか」

 「そうだな…」

 といっても、外にいる人は皆忙しそうに動き回っている。誰かに聞くにも聞きづらい状況だった。

 と。

 「お、そこにいるのは新兵ちゃんかな?」

 声をかけられた方を見るとそこにはエリシアの男女が立っていた。二人とも武装している。

 男性の方は金髪を短く刈り上げていて、身長は180くらいの細く引き締まった体を持っている。女性の方は身長175センチくらいか。エリシアには珍しい黒髪を肩までで切りそろえている。

 「君たちがチームEに配属された新兵だよね」

 男の方が優しそうに笑う。

 「は、はい!そうです」

 セラーナと肇が敬礼する。

 「おいおい、ここは軍隊じゃないんだぜ。上官ならともかく、同じ分隊の奴にはそういうのは抜きでいいよ」

 「は、はい」

 セラーナが気が抜けた声を出す。

 「俺はデルビン・ハフナー。こっちの美人が…」

 「トロイ・エンハンスだ。よろしく」

 女性の方はニコリともしない。

 「遠藤肇です!」

 「セラーナ・レイトバックです!」

 「よろしく肇、セラーナ」

 デルビンがにこやかに言う。

「さて、みんなの所に案内しよう。ついておいで」

 デルビンが歩き出す。

 「どうやら最初の任務は無事終わりそうね」

 セラーナが小声で肇に話しかけた。

 「まあ、そうみたいだな」

 肇も素直に答える。

 「そうそう」

 先頭を歩いていたデルビンが振り向いた。

 「この分隊には生き残るためのルールがある」

 「はい」

 セラーナが返事を返す。

 「たった一つだけだ。必ず守ってくれ」

 そういうと、デルビンはトロイの方を向いた。

 「常に気を配れ、だ」

 トロイが仏頂面のまま言う。

 「そう、何事にも常に気を配れ、ね。覚えておいて」

 「「はい!」」

 二人で同時に返事をする。

 「さあついた。ここだ」

 そこはコンテナがいくつも並んだ場所だった。どうやら隊員はこの場所で寝泊まりしているらしい。

 その中の一つの大きいコンテナの扉をごんごんと叩く。

 扉が内側から開き、中からフリダートとデラザリエルの男性が顔を見せた。奥にも何人かいる。

 「隊長、今新兵を連れてきました」

 「おう、ご苦労さん」

 フリダートの屈強な男性はにっこりと微笑んだ。こっちも人がよさそうだ。

 「おれはケント・ハッフルヤード。一応このチームEの分隊長だ。よろしくな肇、セラーナ」

 「はい」

 「よろしくお願いします」

 二人で挨拶する。

 「分隊の面子を紹介しよう。俺含めて5人だ。二人は知ってるな?デルビン・ハフナーとトロイ・エンハンス」

 「改めて、よろしく」

 「…よろしく」

 「で、奥の二人のうちメガネのフリダートが安藤翼あんどうつばさ

 「よろしく、新兵さん」

 「もう一方の伊達男のドラーギは瀬川徹せがわとおる

 「よっろしく~」

 紹介された二人が手を上げる。

「以上の五人だ。よろしくな、新兵」

 「はい。それで早速なんですが、これを渡せと言われました」

 「ん?どれどれ」

 肇が渡されていた指令を渡す。中に何が書いてあるかはこちらからでは分からない。

 「…なるほど。これから1時間後に工兵が道に障害物を仕掛ける。今回の任務はそれの警護だそうだ」

 ケントが全員を見渡した。

 「さあ、仕事だ諸君。準備にかかれ!」

 「了解!」

 全員がどたばたと動き出す。

 「あの、私たちの武装はありますか?」

 「ああ、あるぜ。武器科に言ってこのペラ紙を見せるんだ」

 そういって渡された二枚の黄色い紙には遠藤肇、セラーナ・レイトバックの二名の氏名とアリタMIG内での階級が描いてあった。

 「武器科の位置は分かるか?」

 「調べます」

 「うし、じゃあ一時間後に」

 手を上げてケントが二人を送り出す。

 慌ただしい1時間が始まった。


 「あら、いらっしゃい」

 数分後、武器科の看板を見つけた二人は無事に武器科があるコンテナにたどり着いた。

 「新しく配属された新兵さんね。私はフォルゲン・グレイハウンド、よろしく」

 メガネをかけたフリダートの女性が手を差し出す。

 「よろしくお願いします。あの、私たちの装備があるって聞いたんですけど」

 彼女の手を握ったセラーナが早速紙を見せながら本題を切り出す。

 「はいはい、こっち来て」

 コンテナの奥を指さす。コンテナは3つが縦に連なっており、奥行きがある。一番奥には様々な箱が並んでいるのを見ると、おそらく奥は弾薬庫であろう。

 「あの、怖くないですか?」

 「ん?何が?」

 「こんなに近くに弾薬があって」

 肇の質問に、フォルゲンは笑って答えた。

 「そりゃ怖いわよ。管理が悪かったら爆発するかもしれないかもしれないからね。だけどね」

 フォルゲンは胸を張って応える。

 「この仕事がなきゃ誰も戦えないじゃない?だから細心の注意を払いつつも、誇りを持ってやってるわよ」

 「なるほど…。勉強になります」

 「珍しい。肇が学んでいるなんて!」

 「俺だって何かに感動することだってあるんだからな?」

 「はいはい」

 そうこうしているうちに、武器が並んでいる区画に着いた。様々な銃が並んでいる。

 「君たちの武器はこれ。まず肇君から」

 そう言って渡されたのはM416だった。フォアグリップとフラッシュライト、ACOGサイトがついている。

 「ありがとうございます」

 「次にセラーナちゃんね。セラーナちゃんは…これ」

 そう言って渡したのはM14EBRだ。8倍率のスコープとパイポッドがついている。

 「ありがとうございます」

 「扱いづらかったら言ってね。かわりの銃も何丁かあるから」

 「分かりました。ありがとうございます」

 「あなたがチームE初めてのスナイパーよ。しっかりよろしくね」

 「あ、そうなんですか。頑張ります!」

 「ふふふ、その意気よ」

 フォルゲンが奥へと向かう。二人ともフォルゲンについていく。

 「さて、武器があっても弾が無ければ戦えないわよね」

 そう言われ肇に渡されたのはSTANAGマガジンだ。中身は入っていない。

 「これを5個ね。計150発がうちの基準よ」

 「覚えておきます」

 「それと、セラーナちゃんにはこれ」

 セラーナに渡したのは7.62mm専用マガジンだ。

 「あなたは50発ね。それも覚えておいて」

 「はい」

 「次に、はいこれ。自分で入れてね」

 そう言って取り出したのは5.56×45mm弾と7.62×54mm弾だ。それぞれ油紙に包まれてはいっている。

 「最後に、マガジンを入れるポーチ類とアーマーとかね。サイズに合うのがあるかしら」

 彼女が取り出したのはチェストリグやアーマーべストなどだ。これにマガジンポーチなどをMOLLEで付けることになる。

 「二人とも多少重くても防弾性能がある方がうれしい?それとも身軽に動きたい?」

 「俺は身軽に動きたいです」

 「私はどっちでも」

 「そう。でもセラーナちゃんは胸が大きいからチェストリグはお勧めできないかな。肇君はチェストリグがいいよね…うん、これだ」

 そういって二人の前に出されたのはデジタル迷彩柄のチェストリグとゲール合衆国軍が使用しているSPCSだ。

 「セラーナちゃんにはワンサイズ大きいのを選んでみたんだけど、ブカブカだったら言ってね」

 二人で着用してみる。肇は調節する必要もなくぴったりフィットし、セラーナも少しの調節で済んだ。

 「良かった。二人とも大丈夫なようね」 

 その後、フォルゲンからポーチ類、医療キット、フラッシュライト、コンバットナイフ、水筒と、装備一式を渡してもらった。

 「さてと、これで装備の方はおしまい。気を付けていって来てね」

 「はい、ありがとうございます」

 「必ず帰ってきます!」

 フォルゲンと別れ、集合場所に行く。すでにチームEの面子は集まっていた。既にAMV装甲兵員輸送車まで準備されている。

 「ちょっと早いが行くか。先に安全を確保しておいて損はない」

 ケントの号令で、全員が車の中に乗り込んだ

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