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【童話】妖精のお仕事

靴の妖精

作者: 貫雪
掲載日:2014/09/09

 なあ、人間さんよ。靴の妖精の話、知ってるかい?

 

 そうそう。夜中にこっそり靴を作って人間を喜ばせる小人の話さ。実はあの小人は俺のことなんだ。昔は大勢いた靴屋の小人だが、その中の一人が俺ってわけだ。


 あのころは靴はほとんど職人の手作りしかなかったんだ。だから一足の靴を作るにも大変な手間がかかって、出来上がるまでにそりゃあ時間がかかったもんさ。

 そんな職人の苦労を目にすると、俺たち妖精は手伝わずにはいられなくなる。人間の手助けをしたくなるのは、なんでも妖精の本能とかいうものらしい。

 それをあんたがた人間は勝手に、


「その職人は真面目で善良だから、神様が小人を呼んでくださったんだ」


 とか言ったりするが、別に俺は相手が善人だから手伝いたくなるわけじゃない。

 ただ俺自身が靴作りが大好きで、作る靴に自信があって、おんなじ思いで靴を作る人間の気持ちがわかるから、その妖精の本能とかいうやつに背中を押されて、楽しく手伝わせてもらっていたのさ。


 だけど、時代は変わったねえ。

 靴はほとんどが機械でいっぺんにたくさん作れるようになっちまった。


 手間暇かけて作った靴を一生かけて履きつぶすようなこともない。作る方も履く方も使い捨てることが初めから決まってる。

 そんな靴、俺にはまったく魅力を感じられない。だから俺は、そんなものを作る人間を手伝いたいという気にもあまりなれなくなってしまっていた。


 それでもやっぱり、妖精は人間のために手を尽くしたいもんなのかねえ。

 機械で大量に作っていると、時々目も当てられないようなひどいものが出来ることがある。人間は職人の仕事はせずにそういうものが出来ないように、機械の面倒を見るようになった。

 機械がたくさん作るのだから仕事が楽になったのかと思いきや、わずかな人数でとんでもない数の靴を作ろうと必死になっている。だから昔と変わらず人間は忙しそうだ。

 あんまり忙しすぎて人間は時々出来の悪いものが混じっても見逃してしまったりする。材料が切れそうになっているのに、次の用意が間に合わなくなったりもする。そんな時は俺も放ってはおけなくて、そっと悪いものをどけておいたり、こっそり次の準備をしておいてやる。でも人間は忙しいからそんなことをされても、


「あれ? 不良品が床に落ちている。運が良かった」


 とか、


「俺、いつの間にこの準備をしたんだっけ?」


 と、多少不思議に思っても、次の仕事に追われて大して気にとめたりはしない。

 だけど俺はそんなこと構わない。俺がやりたくてやっていることなんだから。


 でもこの仕事、若い奴らに人気のない仕事になっちまった。それはそうだ。人間は靴を作らず機械の面倒を見ているし、俺はなぜだかそんな人間の面倒を見ているんだから。職人が寝ている夜中にこっそり靴を作るなんて、遠い昔話になっちまった。


 そんな俺のところに、一人の若い妖精がやってきた。俺と同じ仕事がしたいという。


「変わったやつだな。人の面倒が見たいのならば、そういう仕事をしている人間を手伝う仕事をすればいいのに」


「いいんですよ。僕、靴作りの機械、好きなんです」


 そういって面白そうに靴作りの機械を眺めている。本当にその機械が好きなようだ。俺にとっては何の面白みもない機械で、作られる靴もつまらないものなのだが、そいつにとっては、


「僕ね、知ってるんです。たとえたくさん作られた安い靴でも、大切に履いてくれる人間がいるってことを。そんな靴をたくさん作るこの機械は、本当にすごいと思うんです」


 そんなことを言うやつに釣られちまって、俺までその機械がなんとなく好きになっちまった。そして、そんな風に思えるやつのことがうらやましく、そいつや人間に大事にされる機械のことは、もっとうらやましく思えた。



 だが、ある日その機械は機嫌を損ねちまったらしい。突然動かなくなっちまった。人間は必死にどこかに電話をかけたが、


「ダメだ。修理に来てもらえるのは明日になる。納期には間に合わない」


 と言って頭を抱えた。


「でも、うちのような小さい工場、やっと頼んだ受注の納期を守れなければ、すぐに行き詰まります」


「金がなくて整備や修理を先延ばしにしてきたのが悪かったんだ。限界だったんだろう。この工場は閉鎖するしかない。もう、小さな靴屋の時代じゃないんだ。潮時だろう」


 人間はそういってがっくりとうなだれていた。


 そうか。ここは靴作りをやめるのか。こういう辛さは昔の靴屋の頃と変わらんな。

 昔だったら俺たちが良い靴を一晩がかりで作って、人間を助けることが出来たんだが、今の時代ではそれすらできない。俺は自分の無力さにがっかりしていた。


 俺もこの仕事、そろそろやめようか……。


 そう思っていると、若い妖精が俺に声をかけた。


「大丈夫です! この機械、僕たちの魔法で動かせそうです!」


「なんだって? お前、この機械の動かし方がわかるのか?」


 人間でさえ動かせずにいるのに。


「人間が『電気』って呼んでるエネルギーでこの機械は動いてます。僕、この機械に流れるエネルギーを魔法を使って毎日見るのが好きだったんです。さっき機械が止まる時、機械の奥で急にそのエネルギーのつながりが切れちゃったのに気づいたんです。これを僕らの魔法でつなげれば、きっとまた機械は動くと思います」


「本当か?」


「本当です。ずっと動かすのは無理だけど、僕らが二人で頑張れば今日一日ぐらいは動かせると思います」


「それならさっそく……」


「でも、さっき人間が電気のスイッチを切ってしまったんです。スイッチを入れてくれないと電気は流れないし、機械が動いても面倒を見てくれる人間がいないと、靴は作り続けられません」


 俺は大急ぎで姿を消したまま人間に近づいた。人間はすっかりあきらめてうなだれている。俺は必死に人間に念を送った。


 あきらめるな! まだこの仕事は続けられる!

 世の中にはお前の機械が作った靴を、待っている人がいるんだ!


「……こんな安い靴でも、世の中には必要としている人がいるんだよな。無駄かもしれないが、もう一度だけ機械を動かしてみようか」


 やった! 通じたらしい。俺は喜んで若い奴に人間がやる気を取り戻したことを伝えた。すると人間は小さな刷毛や布切れと、てらてらと光る油を手に機械に近寄った。そして中に首を突っ込むと軽く叩いてみたり、丁寧にあちこち拭き取っていった。


「これでダメなら、あきらめよう」


 そういいながらスイッチを入れる。俺たちはありったけの魔法を電気の流れが途切れている場所に注ぎ込んだ。ウイーンとうなる音がして機械がいつものように動き出す。


「おお、動いた!」


 人間は嬉しそうにそう叫ぶと、他の人間たちも呼んでいつものように機械の面倒を見始めた。その目の輝きを見ながら、俺たちも必死で魔法を注ぎ続ける。機械はどんどん靴を作り続けていた。



 ついに、最後の一つまで靴を作り終えた。人間は機械のスイッチを切り、俺たちも魔法を止めた。正直、くたくただった。

 だが俺は思い出していた。遠いあの日に一晩中靴を作り続けていたあの頃を。なんだか胸がいっぱいになった。俺は若い妖精に言う。


「ありがとう。お前のおかげで久しぶりに思いっきり仕事ができた」


「僕もうれしいです。靴を作る人間に喜んでもらえて」


 時代は変わったが、靴の妖精の心意気は変わらないんだな。


 そんなことを考えていたら、人間が機械を優しくなでながら言った。


「よく頑張ってくれたな。おかげで私も、もう少しこの仕事を続ける気になったよ」


 俺と、おんなじこと考えていやがる。俺ももう少し、この仕事を続けよう。靴の妖精の心意気を、この若い奴に伝えきるまでは。



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― 新着の感想 ―
[一言] 拝読致しました。 妖精さんが頑張り過ぎて消えてしまうのではないかと心配になりましたが、ハッピーエンドでよかったです。 温かいお話をありがとうございました。
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