はつこい
はつこい
保育園の遠足の帰り、二人で手を繋いで帰る写真…
幼い時の彼との記録はそれしかない。ただ、保育園での大切な思い出だった。
「おいでよ」
「これ、次使っていいよ」
「はい」と泣いている私にハンカチを差し出してくれた。
私は、嬉しかった。優しい気持ちになった。
そして、私は確信した。これがいわゆる「はつこい」なんだな、と。
そして、卒園式。保育園だから、みんな全然違う小学校に行く。せっかく仲良くなったおともだちとも、おわかれ。
みんなとはもうおわかれ…またいつか、会えるかな…
そして、意外なところから、再会のチャンスがやってきた。
「将一? それって、奥野将一? 北小?いま北部中?」
中学校の同級生からの一言が、私の過去をゆるりと蘇らせる。
「そうそう、今一緒の塾だよ」
思わぬ情報を手にいれて、私は興奮状態だった。
その日の夜、私はアルバムに大切にしまっていた思い出の写真を取り出した。その子に確認をとってもらうために、明日持っていくつもりで。
「小さいなあ、自分…」
彼も、きっと成長していることだろう。今の自分より、一回りも二回りも、体も心も大きくなっているに違いない。
翌日、情報をくれた子に確認してもらった。「うん、こういう顔だよ。多分小さい頃こうだったんだろうね。間違いないと思うよ。」
「会う、ってことはできそうにない?」
「うーん、何とかやろうと思えばできなくもなさそうだけど、北部中のバスケ部って強いから結構練習忙しいみたいだし、彼女いるみたいだよ」
やんわりと、会うことに対して牽制をかけられた。そして、一輪の「はつこい」という花の花びらが散った。
その後、私とは別の高校に入ったという情報を聞いた。それからは何も聞いていない。
ただ、この写真だけは、「はつこい」の花の輝きとして、アルバムの隅っこで、いつまでも輝き続ける。