第3話 予定外
「リオン様、魔力操作の練習ですが、先ずは魔力を感知してもらいます。コツとしては、才能を見てもらう時に神官から流れてきたものをイメージしてもらったら良いと思います」
あの老人から流れてきたもの、か。
あの暖かい流れを思い出しながら体の中に意識を向けて集中していると、しばらく経ってから、それらしきものの存在に気付いた。
「これかな?見つけたかも」
ドールに報告すると、彼は次にする事を教えてくれた。
「魔力の流れを見つけましたら、次はそこから意識を離さずに、ゆっくりと流れを整えてみてください。イメージとしては、送風の魔道具の風量を調整する感じです」
魔道具というのは、魔石という物を電池の代わりにして動く機械の様な物である。送風の魔道具とは、現代で言う手持ち扇風機のようなもので、それについている絞りを回すと風量を調整でき、うまく使いこなせれば一年中快適に過ごすことが出来る。
ドールの例えを参考にして、魔力の流れの調整をしてみた。
すると、ある程度まで流れを細くした段階で、急に体が軽くなった気がした。
突然の感覚に驚いていると、ドールが話しかけてきた。
「どうやら魔力操作が出来たみたいですね。我々は、普段から意識せずとも魔力を身に纏って体を強化しているのですが、魔力操作を鍛えると、それに追従して体の強化も強くなるのです。魔力の流れの勢いを弱めれば強化を弱めることが出来るので物を壊す心配はありません。勢いを弱めることも、魔力操作を鍛えれば一緒にできる様になるので、弱めることができなくて物を壊してしまったというのはほとんど聞きませんね」
今更だが、ドールは魔法関連の話題を話す時、かなり口数が多い。普段の授業ではそこまで気になることはないのだが、今日の彼はいつも以上に喋っている。
なんだと思ったらあれだ、オタクだ。
自分もそうだが、オタクは自分の好きなことに関して話す時口数が多くなって早口になってしまうことが多い。ドールもその口だろう。
彼が話す内容は、たまに逸れることもあるが、全てとても興味深い内容ばかりだ。そのせいで耳を逸らす事ができないから、聞き取るのが大変だ。
「次はなにをしたらいいの?」
ドールに問いかけると、少し悩んでから返してくれた。
「そうですね。実は、リオン様が私が想像していたよりも早く魔力操作が出来てしまっているので、今日やる予定だったことはもう全て終わってしまったんですよ。しかし、時間が余り過ぎていてここで切り上げるのは少々もったいない気がするので、明日の内容をスムーズに進める様にする為に少し予習をしましょうか。少し待っていてくださいね。ちょっと時間がかかるので。」
そう言うと、ドールはなにやら紙とペンを持ってゴソゴソ何かを書き始めた。
彼が作業している間、暇なので魔力操作を練習することにした。
実は、ドールの話を聞いている途中で魔力操作について、こうしてみるのはどうだろうか?と思う様な事を思い付いたのだ。
内容は、魔力の流れを流れやすくする、と言う事だ。具体的に言うと、魔力の流れを細い糸の束で出来た紐だと仮定して、糸の絡まりだったりほつれを直していく感じだ。
ドールに教えてもらってやってみた魔力操作では、川の流れを護岸工事で無理矢理押さえつけようとしてる気がする。
それに対して俺が考えたものは、川の流れを邪魔してる石や草などを取り除いて、ストレスなく水が流れる様にする。というものだ。
それが実際効果があるかはわからないが、試してみる価値はあると思う。
ということで早速俺の仮説を検証してみることにした。
魔力の流れ自体は、さっき魔力操作をした時のまま見失っていないので、先ずはそれをなんとかほぐしていく方法を探すべく、魔力の流れをいかにしてあやつるかを模索し始めた。
「リオン様、お待たせしました。今日はこれを覚えて終わりましょうか」
ドールが作業を終えて声をかけてくるまでに15分ほどかかった。
その間に、俺は魔力の流れを整えるきっかけを掴むことが出来て、自説の証明に王手をかけるまでに至った。
「覚えるって、何を?」
「魔法陣です。これは、各属性の第一級魔法の魔法陣で、これを今日はリオン様に覚えて貰います」
そう言ってドールは五枚の魔法陣が描かれた紙をこちらに持ってきた。
「どうして五枚しかないの?属性は七つじゃなかった?」
「ああ、すいません。実は、白属性魔法と黒属性魔法には第一級魔法がないのです。この二つは他の属性よりも難易度が高く、必要な魔力量も多いため、第三級からしかありません。」
「そうなんだ」
説明に納得していると、ドールはたくさんの何も書かれていない紙と、魔法陣の描かれた紙を持ってきて、そこに書き写すよう言った。
「明日テストで確認するので、それまでには覚えてくださいね。」
彼はそう言ってその場を離れた。
俺は昔から物を暗記するのが苦手だったのだが、どうしても魔法を使ってみたいので何時間もかけて練習した。五つも覚えないといけないものがあって大変だったが、寝る間も惜しんで勉強して、これで完璧だと思えるまで繰り返した。




