第25話 出立
良くも悪くも、時間というものは変わらずに進み続ける。
朝起きて、授業を受けて、日課をこなして、それらを繰り返しているうちにいつの間にか入試の行われる1週間前となった。
俺は、試験を受けるため、馬車に乗って王都へ向かっている。
今日からそちらの屋敷に泊まって、試験までに王都の空気に慣れるためだ。
「久しぶりだなぁ、流石に2年の間で大きく変わったりはしないだろうし、そもそもそんなに景色を覚えてないからなあ」
2年前に誘拐された時以来、王都には行っていなかったため、2度目の王都なのだ。
今回の遠征に父上は付いてきていないので、馬車の中で俺が一人で独り言ちている状態だ。
暇つぶしに窓から外を眺めていると、遠くの山に爆発のようなものが見えた。
「ん⁈⁈何が起こったんだ?」
突然のことに驚いて二度見すると、爆発は消えて見えなくなっていた。
しかし、あれは見間違いなどでは無いはずだ。
異世界とはいえ、山が爆発することが日常であるわけがない。あってはならない。
その正体は何だったのだろうと考えたが、答えなんて出るわけもなかった。
しかし、それがよい暇つぶしとなって気付いたら王都に到着していた。
「お待たせしました。降りて、どうぞ」
今日は王都に入った後、予定は入っていない。このまま屋敷へ向かってもいいのだが、折角なので久し振りに王都を観光することにした。
最初は市場に来た。予想していた通り人混みで周囲は喧騒に包まれている。
「テーマパークに来たみたいだぜ。テンション上がるなぁ〜」
陳列棚などを眺めてウィンドウショッピングしていると、何やら周囲の空気が変わった。
通行客達の視線は、皆同じ場所へ集まっている。その異様な雰囲気に釣られた俺も、そちらへ意識を向けた。
そこには、俺と同い年くらいの少年が衛兵に押さえつけられていた。様子を見るに、どうやら彼はパンを万引きしたようで、衛兵の手にはそれらしきパンがあった。
「またお前か!何度捕まれば懲りるんだ。いつも食べるものが無いと言っているが、真面目に働けばいいだろう!」
衛兵は彼に向かって説教を始めた。その言葉を聞く限り彼は万引きの常習犯の様で、周囲の人達からの視線にも、‘またか’と呆れたような感情が込められているように感じた。
「お願いだから、見逃してくれ。後1週間、後1週間食べられればいいんだよ・・・・・・」
その言葉に、衛兵は首を傾げた。
「1週間?何があると言うんだ?・・・・・・ああ!学園の入試か!もしかしてお前、学園へ入学するつもりなのか?」
少し考えて、彼が言っていることを理解した衛兵はその考えが合ってるか確認した。
「そうだよ、俺は魔法だけはできるからな。魔法さえできれば入学できるって聞くし、入学さえできればただで飯食えるらしいしよ」
衛兵は、納得したようで大きく手を打ち鳴らし、彼にとある提案をした。
「全く、そういうことだったのか。しかし、学園に入るには魔法だけでは一筋縄にいかないぞ?個人的にも、お前には更生して欲しいと思っていたんだ。入試までは俺が世話を見てやる、俺も学園は卒業しているからな、勉強も見てやろう」
「いいのか!?おっちゃん、ありがとう!」
彼の感謝に気をよくしたのか、衛兵は豪快に笑ってこう言った。
「ガハハ、俺はおっちゃんじゃ無い、兄ちゃんだ。ほら、着いて来い」
彼らはしばらく話してからその場を去り、人々は再び歩き始めた。
俺も、屋台の冷やかしをすべく、散策を再開した。
それから、しばらく歩いて市場を抜けると、教会のようなものが目に付いた。
最後に教会を見たのは5年前なので、ここが本当に教会なのかは正直分からないが、気になるので中に入ってみることにした。
そっと扉を開けて中に入ると、そこでは一人の少女がいた。何をしているのかと思うと、どうやら説教をしているようだ。
「我らが主は、いつでも、昼も夜も私たちの事をご覧になっているのです。ですので、来世で罰を受けないよう、主に敬虔に、謙虚に生きましょう。では、これで今日は終わります」
どうやら説教はもう終わってしまったようで、少女は教会の奥の方へ行き、姿を消してしまった。
少しして、説教を聞いていた人達は椅子から立ち上がり、教会から出ていった。
「最後の少ししか聞けなかったな。聞こえた限りでは、他人に迷惑をかけるな、とかの一般常識を説いていただけだったし、内容が気になるな。お願いしたら聞かせてもらえないかな?」
早速俺は教会の中を進んだ。内装は、ステンドグラスが散りばめられていて幻想的な雰囲気を醸し出している。天井は高く、10m程だろうか。
先ほどの少女が消えていった場所に行けば見つけられるはずだと踏んだ俺は、さらに奥へ踏み込んだ。
その先には部屋があり、予想通りさっきの少女はそこにいた。
「おや、貴方は誰です?私に何か用が?」
彼女はすぐに俺の存在に気付き、声を掛けてきた。
「実は・・・・・・・・・」
「なるほど、そう言うことですね。興味を持っていただけて、嬉しいです。喜んで聞かせてあげましょう」
正直に事情を説明すると、幸運なことに彼女は快諾してくれた。
ということで、俺達はさっきまでいた空間へ戻って俺は椅子に座った。
「では、始めますね。リオンさんは陽教について知らないとのことなので、先ずは教書の一章を読んで私達の崇める主について知りましょうか」
ついに始まった。この教会は陽教という宗教のものらしい。名前的に太陽が神なのだろうか。まあ、話を聞いていけば分かることか。
「神代の時代、世は闇に包まれていた。そこは生き物が住むには余りにも難き場所。ある時、気まぐれな陽神が世に現れた。陽神は、そこでか細く生きていた我々を見つけた。陽神はそれを哀れに思い、我々を見守る事とし世に留まった。陽神の加護により我々は栄え、不自由することは無くなった。陽神は我々を見守るため、その身を太陽とした。今日に至るその時まで、陽神は我々を見つめている」
なるほど、太陽は陽神と呼ばれる神が人類を見守る為に姿を変えたもので、そのお陰で人類は発展出来たのだと言うことか。
その教えも、陽神に感謝して生きろと言うような内容で、この世界の宗教観を15歳にして知ることができた。
「一章はこれで終わりです。私はこの後に用事があるので、それではさようなら」
彼女は説教を終えて、去っていった。
外の景色を見ると、いい感じに時間を潰せたようで日が暮れ出していた。
俺は教会から出て、貴族街にある屋敷へ向かった。流石に日が落ち切るまでに行かないと心配させるだろうし、俺は駆け足で屋敷へ向かった。




