第21話 不意打ち
もう時間がなさそうなので、急いで馬車を降りよう。
荷台を覆っている幌は、挙げようとすると時間もかかるし、大きな音が立つ。
それだと脱走しているのがバレてしまうので、燃やして俺が通れるサイズの穴を開けて出る事にした。
『着火』で幌に火を着けて、穴が開くまでしばらく待っていると、いつもと様子の違う声が聞こえてきた。
「おい、なんか変な匂いがしないか?焦げ臭いような」
「言われてみれば、そんな気がするな。何かが燃えているのか?」
え、もしかしたらまずいんじゃないか?この調子だと気づかれてしまうかもしれないぞ。
「一度、馬車を止めて確認してみるか」
「そうだな」
やばいやばいやばいやばい。
穴が俺が通れるほどになるには、まだ少し時間がかかりそうだ。それまでに声達がこちらへきたら、一巻の終わりになってしまう。
なんとか気を逸らすなりなんなりして時間を稼げないだろうか。
必死になって頭をこねくり回していると、いい案を思いついた。
『炎水』を穴から飛ばし、着弾地点で燃え広がらせてそこに意識を誘導する。その隙に俺は逃げ去ると言う寸法だ。
穴から見た感じ、馬車は街道を走っていて外側には草原が広がっているのが見える。
草原に向かって打てば、大炎上してそちらに気を逸らせるはずだ。
『炎水』が通れるほどの穴はすでに開いており、後は実践するだけ。
魔法を発動して『炎水』を出し、外に向けて射出した。
魔法は狙い通り草原に着弾し、飛び散って周囲を燃やし始めた。
「なんだ!おい、やべえぞ。草原が燃えてやがる」
「本当じゃねえか。このままだと馬車にも火がつきかねん、急いで消化するぞ!」
誘導が成功したらしく、声達はドタバタと忙しく火を消しに向かっていった。
「よし、今だ。早く逃げよう」
穴も俺が通れるくらいに広がったので、このチャンスを逃さないよう急いで幌馬車を出た。
「こんにちわ、リオン・ヒュード。抜け出して、何をしようとしているのかな?」
馬車を脱出した俺を待っていたのは、意外なものだった。
「えっ、なんで・・・二人とも火を消しに向かったはずじゃ」
そこには黒いコートを着た男が立っていて、俺を待ち構えていた。
「どうしてここに俺がいるのか、不思議そうにしてるね。いいだろう、教えてあげるよ。答えは単純明快、あの二人の他に俺も居た、と言うことだけさ。喋っていたのはあの二人だけだったからね、君には二人しかいないように聞こえていた事だろう。君は見事、あの二人を出し抜いたが、僕には敵わなかったのさ」
そういうことか、会話をしている二つの声だけで俺を攫ったのはあの二人だけかと思っていたが、他にもいたとは。
いつから二人しかいないと錯覚していた?他にもいる可能性があったのに、見落としてしまっていた。
「君じゃぁ僕に勝てっこない。乱暴なことはしないから、大人しくもう一度捕まりな」
フードの男は、俺に勧告をしてきた。
乱暴をしないとは言ったが、それがいつまで続くかも、そもそもその言葉が守られるかも分からない。
それに、頑張って抜け出したのにわざわざ捕まってやるだなんて御免だ。
勇気を振り絞って、真正面から喧嘩を売った。
「大人しく捕まるなんて、御免だね。最後まで抵抗させてもらうよ」
そういうと、フードの男はガックリと首を項垂れて言った。
「そうか、俺の言うことを聞いてくれないんだね。本当は避けたかったんだが、強行手段に出させてもらうよ」
言い終わると同時に、男は殴りかかってきた。
一度でも攻撃が当たったら終わる。それを防ぐには避けるか、何かで防ぐしかない。子供の身体能力で大の大人に勝てるわけがないので、攻撃を防ぐべく魔法を使った。
「『土壁』!そして『火弾』!」
周囲の土を集めて壁を作る魔法、『土壁』によって攻撃を防ぎ、『火球』の火の強さ、勢いを高めた『火弾』で相手を攻撃した。
相手は突然目の前に現れた土の壁に驚き、一瞬動きを止め、『火弾』が綺麗に命中した。
「アッツっ!なんだこれ、魔法か?魔法がこんだけ使えるなんて、知らねえよ!使えても二級魔法までだって聞いてたのによ!」
どうやら男は、俺の実力を誤認していたらしく、一人で文句を言っている。
再び襲いかかってきたが、魔法でうまく対処することができた。
「あーもう、強すぎるって。そういえば、アレを貰ったな。ここが使いどきってやつか」
そう言うと、男は黒い拳銃のような形のものを懐から取り出してこちらに向けた。
その瞬間、俺は自分の魔力が動かせなくなった事を感じ取った。
「どうだ?効いただろう。これは魔力を封じる魔道具だ。これでもう抵抗できまい」
魔力を封じる?そんな危険な魔道具があるとは、なんで小物のコイツがそんなものを持っているんだ?
とにかく、魔法が使えなくなってしまった以上、抵抗はしても無駄だと判断して、俺は大人しく捕まった。
「やっと捕まってくれたか。もう脱走を図らないよう、俺が見張っているからな」
終いにはフードの男が俺の監視について、ここから逃げるのはもう不可能と言ってもいいだろう。
火を消しに向かっていた人達も戻ってきて、馬車は再び目的地に向かって走り出した




