第19話 王都
ユバル公爵家の開いたパーティーに参加した翌々日、俺は父に連れられて王都へ来ていた。
王都は流石国の中心地なだけあって、ヒュード伯爵領とは比べ物にならないほど発展している。
特に市場では、数えきれないほど沢山の人で賑わっており、いつか写真で見たスクランブル交差点のようだ。
しばらく王都を観光して、王都の中央にある王城へ入った。
エントランスロビーの受付に居た女性に、父は二言、三言言ったかと思うと歩き出した。
城の中は迷路のようで、沢山の道を曲がったり階段を登ったりして、とある塔に来た。
そこは役所のような雰囲気をしていて、カウンターには一人のおっさんと、その横には山積みの書類が両側に置かれていた。
「ヒュード伯爵家が当主、ボデ・ヒュードだ。我が息子、リオン・ヒュードとユバル公爵家の御息女ミュレイ・ユバル嬢の婚約を登録しに来た。公爵家の承認は、この書類に書かれている」
父がそう言うと、カウンターに突っ伏していたおっさんはゆっくりと上体を起こして書類に書き込み始めた。
「ええと、リオン・ヒュードとミュレイ・ユバルが、婚約なさるのね。お二人はおいくつ?公爵の承認は魔力印と一緒に確認したからもう返すよ」
呆れ返るほどフランクな態度で語った彼は、もの凄いスピードで書類に書き込んでいった。
「ああ、すまない。二人とも、13歳だ。返してくれて、どうもありがとう。処理は何時ごろに終わるかな?」
父が聞くと、彼は書類を見つめながら返事をした。
「あー、大体1時間ぐらいっすかね。そこに掛けて待ってて下さい」
そう言っておっさんはソファを指差した。
「お言葉に甘えてそこで待つとしようか」
父はそう俺に呼びかけてソファに腰掛けた。
観光していた時に見た王都の街並みを思い出したり、魔法の構想案を考えているうちに、1時間という時間は一瞬で過ぎ去っていった。
「終わりましたよ。伯爵サマ、確認します?」
「いや、大丈夫だ。では寄りたいところがあるからね、失礼するよ」
父とおっさんが少し会話してから、俺たちは塔を出た。
このまま城を出るのかと思っていたら、父は何故か塔に来た時とは別の道を歩き始めた。
訳もわからず黙ってついていくと、王都全体を見下ろして展望できる場所に出た。
「うわぁ、すごい景色・・・・・・」
王都の街並みや、その奥に広がる豊かな自然。丁度今が夕方ということもあってか、その先の地平線に沈みゆく太陽。その光を反射する沢山の屋根が、眩いほどにこちらを照らしている。
あまりにも幻想的で、不思議な魔力をまとったそれに、俺は完全に魅入ってしまった。
しかし、その時間はあまり長くは続かなかった。
しばらくすると太陽が沈みきってしまい、夜になることでその景色は一旦の終わりを迎えてしまった。
「ああ、終わっちゃった」
終わりがあるから美しい、という言葉があるが、せめて満足するまで見させてほしい。
今日はもう見られないことを惜しんでいると、父が声をかけてきた。
「どうだ?綺麗だろう。王城に予定がある時は、終わった後に必ずこの光景を見に来ててな。お前にも教えておこうと思って来たんだ」
「ありがとうございます、父上。こんなに素敵な景色を見せてもらえるなんて思っても見ませんでした」
父が教えてくれなかったら、俺は一生この美しさを知らずに生きていただろう。これを知らないなんて、人生を半分損していると言っても過言では無い(過言)。
心の中で何度も父に感謝を言っていると、父はとある方角を指さした。
「あちらの、大きな建物が見えるか?あれは、今度お前が入学するローレル王立学園だ。あの学園には、全国から貴族だけでなく、平民まで四学年、各学年は5クラスのおよそ600名が在籍している。教育の質も、他国と比較すると高いほうだ。」
学園について解説をしてくれた。四学年で600人ということは、1学年あたり150人か。
たしかドールは入試の倍率が6倍と言っていたか。
およそ900人の中から、白金クラスの30人が選ばれる。白金クラスに入るには険しい道だが、その分燃えてくる。
「帰宅は明日にする。今日は貴族街の屋敷に泊まって明日の早朝に王都を出る馬車に乗るから、なるべく早めに寝て疲れを癒しておけ。初めての王都で緊張もしているだろう、使用人達が準備しているはずだからもう向かうぞ」
王都にも屋敷があったのか。
まあ1日で王都と領地を往復できるのはここから近いところぐらいしか無理だろう。それなら、屋敷があっても不思議では無い。
王城を出てしばらく歩くと、それまでとは雰囲気が違う場所にでた。
豪華な屋敷が沢山並んでいて、通りには様々な貴族の紋章が入った馬車が幾つも行き交っている。
無事、父の持っている屋敷に到着した。
「2階の、そこの階段を上ってすぐ右手にある部屋がお前の寝る場所だからな」
父に俺が寝る部屋を教えてもらって、夕飯を食べた後、早速その部屋に入った。
「ウチの屋敷とそんなに変わらないな。でも、窓から見える景色は新鮮でいいな」
もっと景色を見ようと窓に近づくと、窓が開いていることに気が付いた。
今は夏で、夜も暑いので風が入ってくる分にはいいのだが、防犯上大丈夫だろうか。
念の為使用人に窓が開いていることを伝えておいて、俺はベッドに転がって寝た。
どうやら疲れが溜まっていたようで、俺は一瞬で意識が落ちていった。




