第12話 厄災戦争
朝起きて、魔力が昨日よりも増えていることを確認した俺は、朝食を食べに向かった。
黙々と朝食を食べて食事を終えた俺は、家庭教師の時間までまだ1時間ほど余裕があるので中庭に行く事にした。
「あ、やっぱりいた」
中庭へ来た俺は、目的の人物が予想通り居ることを確認した。
彼女は、花壇の前に立って花をいじっている。静かに近づいて、声をかけた。
「毎日丁寧に育てているのが伝わってくるよ。花がとても生き生きしてるんだもの」
俺が声をかけると、彼女はその綺麗な金髪を翻してこちらを振り向いた。
「あら、リオンじゃない。どうしたの?何か私に用事があるのかしら」
「家庭教師の準備が終わって暇だったからね。姉様と話そうと思って来たんだ」
そこで花いじりをしていたのは俺の三つ上の姉、ヘラだ。彼女は花いじりが趣味で、中庭に自分専用の花壇を持っており、隙を見つけてはここに入り浸っている。
「そう。それなら、私の手伝いをしてくれないかしら。今から花に水やりをするのだけれど、数が多いからあなたに手伝って欲しいの」
水やりか。まあ、別に暇を潰すために来たんだから構わない。
「うん、手伝うよ。どの花からあげたら良い?」
「そうね、向こうからこっちにかけて水をあげて。この如雨露は魔道具だから、この魔石で魔力を与え続ければ、水は無限に出てくるわ」
そう言って、姉上はいくつかの魔石と如雨露を渡してくれた。
指示された通り、奥の方から順に水を注いでいった。
15分ほど経って、水やりを終えた俺は姉様と菓子を食べていた。
「このクッキー美味しいわね。ほら、リオンも食べなさい」
そう言って、姉様がクッキーを口に押し込んできた。
クッキーは確かに美味しいが、無理やり食べさせられるせいでうまく味わえない。
なんとか紅茶で流し込んで飲み込み、姉様に文句を呈した。
「ちょっと、やめてよ姉様。確かにクッキーは美味しかったけど、それどころじゃなかったんだから」
「ごめんなさいね。美味しかったものだから、つい」
素直に謝ってくれたから怒るにも怒れず、そのまま姉様が話しかけてきた。
「リオンは、最近どうかしら。最近は、魔法をよく練習しているけれど、魔法は上達できているのかしら」
魔法か。練習ばかているからな、上達できているか気になるんだろう。
「うん。どんどん魔法の腕が上がっているのを実感できるから、さらに練習に注ぎ込めるんだ」
返事すると、姉様は微笑んだ。
「そうなの、良かったわね。それはそうと、そろそろ時間なのじゃないかしら」
姉様の言葉を聞いて時間を確認すると、家庭教師が始まるまで後20分ほど。
移動に少し時間がかかるので、今のうちに行ったほうが良いだろう。
「ありがとう姉様。じゃあ、ここで失礼するね」
礼を言ってから、俺は授業の行われる部屋へ移動し始めた。
◆◇◆◇◆◇
「リオン様、それでは授業を始めましょうか」
移動が終わり、時間もちょうど時間もちょうど良かったのでそのまま授業が始まった。
教養の授業の内容は、この国の歴史だったり簡単な四則演算等で、高校生をやっていた俺としては歴史以外はお茶の子さいさいだ。
「天暦2463年、今からおよそ100年前ですね。この年、我が国だけでなく世界中に厄災が訪れました。この時のことはとても詳細に歴史書に書き連ねられており、どうしてもこの事件は未来に残しておかなければならなかったのだと思います。厄災の襲来する数年前から、世界中で魔物が活発に活動するようになり、人々の手では押さえ込むのがやっとだったと書かれています。当時の国王、ヘラルド王は、そんな状態を怪しく思ったのか、周囲の国々と同盟を結びました。その内容は、同盟を結んでいる国のうちどれか一つでも大量、もしくは強大な魔物に襲撃された場合、同盟を結んだ国々はその国へ戦力を援助する。と言うものでした。同盟を持ちかけられた国々も、魔物との対応でかなり疲弊している状態で、援助してもらえるのなら喜んでとばかりに同盟を結んだそうです。この同盟は大陸同盟と呼ばれ、最後の国家が加盟した年が天暦2460年です。それから数年経ち、来る天暦2463年に、厄災は我が国を襲ってきました。それは神話に記されているドラゴンのような姿で、暴虐の限りを尽くしました。ヘラルド王の先見の明が当たったのか、今も我が国と仲の良いリューン共和国をはじめ、沢山の同盟国が戦力を援助してくれたお陰で、多大な犠牲を払いましたが遂に厄災を討伐することができたそうです。厄災討伐後、ヘラルド王は厄災の身体の一部を各同盟国へ、戦力を援助したことの例として送ったそうです。いくつかの国は100年の間に滅びてしまいましたが、それ以外の国は未だに厄災の体を国宝として保存しているそうです。この一連の流れが厄災戦争と呼ばれ、ヘラルド王は今でも賢王として崇められています」
ほえー、すごいドラマが100年も昔にあったんだな。
当時のヘラルド王はその鋭い勘で厄災の襲撃を察知し、そのために結んだ同盟が厄災討伐の一助となったとのこと。
まるで未来が見えていたのだろうか。彼の行動はそうとしか思えないほど素早く、正確だ。
一体過去に何があったのだろうかと想像しつつ、ドールの話を聞いた。
「通説では厄災戦争はこの約3年間のことを指しますが、学者によっては厄災が実際に襲撃してから討伐するまでの半年間を指す人もいます。学園の入試では厄災戦争に関して問うとき、主にこちらの通説を前提として出題されるので間違えて覚えないようにしてくださいね」
ふぅん。入試だと3年間を纏めて厄災戦争と呼ぶのね。戦争と言われると、どうしても争いが起こっていた期間を指すように感じるが、文化の違いみたいなものだろう。
ノートに要所要所をメモしながら、俺は授業に集中した。




