第11話 練習あるのみ
『火球』の弾道を操作して狙いを定めるべく、魔力操作による試行錯誤が始まった。
最初は魔力の安定を目指し、全意識を魔力に向け、ただひたすらに魔法を真っ直ぐ飛ばす事に専念した。
ある程度回数を経て、いくらかコツを掴めてきた気がする。最初はメチャクチャに動いて全く制御できていなかった魔法が、次第に落ち着きを手に入れていき、ある程度真っ直ぐ飛ぶようになってきた。
その成果から自分の魔力操作の腕が上達してきたことを実感できた俺は、時間を忘れるほど練習に没頭した。
最初に魔法を発動する際に魔力を消費する時以外、魔力操作では魔力を消費しなかったため、時間を忘れるほど練習に没頭していた。
その後、しばらくして使用人に夕飯の時間になったことを伝えられた。
夕飯の為流石に練習を中断せねばならなくなるその時まで、俺は休憩もせずにずっと練習を続けていた事に気付き驚いた俺は、大人しく食卓へ向かった。
「リオン、貴方とても疲れているように見えるわよ?大丈夫かしら、今日はぐっすり休みなさい」
食事を摂っていると、母上が俺を心配して声をかけてくれた。
母上はとても優しい人で、事あるごとに我々兄弟に目を配ってくれて、褒めてくれたり心配してくれたりする。
今回も、その優しさから俺が疲れているのを読み取ったのだろう。
まさに聖母と言うべき母上に感謝しながら、俺は返事をした。
「はい、母上。今日は魔力操作を一日中練習していて、自分でも気づかないうちに疲れていたようです。母上のお言葉通り、この後はしっかり休もうかと思います」
「ええ、そうしなさい。今日はこの後何も無かったわよね?使用人達にもリオンの事は伝えておいてあげるから、その疲れを癒しておきなさいね」
やっぱり優しいな。母上が伝えてくれるのなら、使用人も俺が早く寝られるように部屋を整えてくれるだろう。
「ありがとうございます。母上のおかげで、今夜は疲れを全て取ることができそうです」
母上に感謝を伝え、その後は兄様や父上、姉上とも雑談をして、夕飯が終わった後は部屋に戻ってぐっすり眠りについた。
◆◇◆◇◆◇
翌日、疲れが回復してスッキリ起きられて、授業の準備をした俺はドールの所へ授業を受けに行った。
「おや、リオン様は準備万端なようですね。それでは、時間を前倒しして少し早いですが授業を始めましょうか。そこに座ってください」
いつも通り教養の座学を終え、魔法の授業に入った。
「昨日は魔力操作で『火球』を真っ直ぐ飛ばす事の練習をしましたね?本日は、練習を始める前に一度、私に魔法を見せてください。それを見て今日は何をするか決めますから」
ドールに魔法を見せれば良いのか。
昨日練習していた時の最終的な魔法の軌道は、多少のブレがあったものの、かなり真っ直ぐ飛んでいた。
今日はまだ確認していないので昨日の最後と同じように魔法を使えるか分からないが、試してみる他ない。
昨日散々『火球』を使って体が魔法陣を覚えていたので、スラスラと魔法を発動するまではできた。
魔力を安定させる事に集中して、魔法を打ち出した。
『火球』は始めこそゆっくり進んでいたものの、加速していって綺麗に真っ直ぐ飛ばす事に成功した。
「リオン様、成長が凄まじいですね。ここまで飛ばせられるのなら、次のステップへ進んでも良さそうですね」
次のステップ、か。魔法を真っ直ぐ飛ばすだけでも、丸一日使ってやっと習得できたと言うのに今度は何をするのだろう。
「次はですね、魔法の軌道を曲げてみましょうか。魔力の質を曲げたい方向、右に曲げる時は右側の魔力の質をわざと低くする事で、操る事ができます」
へぇ〜。曲げたい方向を意識しながら魔力の質を操作するのは、難しそうだ。
例えるなら左手で四角を描きながら右手で円を描く感じだろうか。
何度も繰り返して魔力操作と曲がる方向を体に染み付けられれば一度に複数のことを考えずに魔法を操れそうだが、そこに至るまでもかなりの期間を要するだろう。
とにかくは試行回数を重ねるのみだな。
次の目標を確認した俺は、魔法の技術を高めるべく黙々と練習を始めた。
◆◇◆◇◆◇
「疲れたぁ〜。早めに寝ようかな。それとも、魔法の練習をするか?」
今日も丸一日魔法の練習に使い、夕飯を食べ終わって部屋に戻ってきた俺は、今から何をするか迷い始めた。
「魔力は全然あるし、二日連続で日課の魔力を増やす作業をサボるのは嫌だな。そうだ、適性のない属性で魔法を使って魔力を減らしながら魔力の質を高めよう」
名案を思いついた俺は、早速魔法を使い始めた。
適性の無い属性は魔力の変換効率が悪いので、『火球』や『着火』などを使うよりも早く魔力を使い切る事が出来る。
雷属性は実験の際にかなり使って二級魔法程度までは使えるぐらい魔力の質が上がっている。
それなら、他の属性も試してみよう。候補は風属性と水属性だが、ここは部屋なので周りを水浸しにすることはできない。
消去法で風属性を使う事になったのだが、案外良い選択なのかもしれない。
この魔法は風を起こすだけなので、近くに物を置かなければ被害は全く出ることはないし、邪魔になるということもない。便利だな。
俺が知っている風属性の一級魔法は『風鳴』だけなので、しばらくはこればかり使う事になるだろうな。
早速、魔法陣を描いて魔法を発動させる。
「これで、良いのか?」
確かに魔法を発動した筈なのだが、魔法がそこにあることを確認できない。
『風鳴』は便利だと言ったが、この欠点を見落としていた。
魔法が発動できたと信じて、魔法を解除した後もう一度『風鳴』を使う。
何も見えないので、人から見ると俺はただ魔法陣を描いて消してを繰り返してる狂人に映るんじゃないか?
そんなことを思いながら、魔力が尽きるまで俺はその作業を繰り返した。




