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遠野の薬膳カフェは妖客歓迎です。なお、店主の身柄は妖界で高値らしい。  作者: 兎月 なごみ
プロローグ―――借金取りは氷色の瞳をしていた
8/24

プロローグ8

話は、最初に戻る。


白銀の髪の男――朧は、カウンター越しにじっと私を見下ろしている。


その瞳は、氷みたいに冷たいのに、どこか疲れているようにも見えた。


「……確認ですけど」


私は震えそうな声をどうにか押さえながら、言った。


「父が妖だって話は、祖父から聞いています。

でも、借金のことなんて一言も―――」


「妖界で借金など珍しくもないだろう」


朧は、ため息まじりに肩をすくめる。


「放浪癖のある妖は特にな。

お前の父もその類だ」


「放浪癖……」


なんとなく、納得してしまう単語だった。


「本来なら、本人を拘束するところだが」


朧の声が、ほんの少しだけ低くなる。


「貸主は言った。

“あいつには娘がいるだろう。代わりにその子を身請けすればいい”とな」


「最低ですねその貸主」


思わず口から出た。


朧は、微妙に困ったような顔になる。


「……全面的に否定はしないが、妖界の貸し借りというのは、そういうものだ」


「“そういうもの”で済ませないでもらっていいですか」


私は胸の前で両手を組む。


「第一、“身請け”って具体的に何するつもりなんですか。

こき使うとか、売り飛ばすとか、妖の生贄とか、そういう物騒なやつなら全力でお断りなんですけど」


「何を想像している」


朧が小さく眉をひそめた。


「……安心しろ」


「その“安心しろ”の使い方、ぜったい間違ってますよね」


「借金のかたにお前の身柄を預かるが、乱暴はしない。

“連れていくまでの間は”な」


「期限付き安心やめて!!」


思わずカウンターに突っ伏したくなる。


妖界の借金取り。

影狼。

父の借金。

身請け。


情報量が多すぎて頭が追いつかない。


朧は、そんな私をじっと見つめてから、ふと視線を外した。


「……店の匂いは悪くない」


「え?」


「霊気も、人の気配も、丁寧に整えてある。

お前と、老人のやり方だな」


一瞬だけ、祖父の姿が脳裏によみがえる。


「ここは“境”として、よく機能している。

引き払うには惜しい」


「引き払うってさらっと言わないでください」


「だが――」


朧は言葉を区切り、私を見据えた。


「借金は、待っても勝手には減らん。

お前の父が消えてしまった以上、“かた”の話は無視できない」


「……じゃあ、どうするつもりなんですか」


問いかけると、朧は、ごく事務的な口調で言った。


「半年だ」


「半年?」


「妖界にお前を連れていくまでの猶予だ。

六か月。

そのあいだに、店のことも、人間界での生活も整理しておけ」


半年。


あまりにも具体的な数字に、喉がひゅっと鳴った。


半年あったら、できることもあれば、どうやってもできないこともある。


常連さんたちへの挨拶。

妖たちへの引継ぎ。

祖父と過ごしたこの場所との、別れの準備。


「……勝手に決めないでください」


やっとの思いで、そう言った。


「ここは、私の居場所なんです。

祖父と一緒に作った、やっと見つけた居場所で」


「知っている」


朧の瞳が、少しだけ細くなった。


「だからこそ、半年の猶予を取った」


「最初から半年だったみたいに言わないでください」


「最初からだ」


さらっと言われて、思わずカウンターを叩きそうになる。


「……逃げたらどうします」


自分でも驚くほど、低い声が出た。


「半年のあいだに、どこか別の場所に行って、この店も名前を変えて――」


「追う」


朧は一拍の迷いもなく言った。


「影から影へ、お前の気配を追い続ける」


「楽しそうに言わないでください」


「楽しんではいない。面倒だ」


言いながらも、その口調には、妙な確信がこもっていた。


(本当に、どこまででも追ってきそうだ……)


逃げる、という選択肢が一つ静かに消える。


代わりに残ったのは、現実味のない言葉だった。

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