プロローグ6
祖父は、山の薬草や漢方に詳しい人だった。
昔は行商をしていたらしく、家の土間には、乾燥させた草根木皮がぎっしりと吊られていた。
私はそこで、自分の“変さ”が、少しだけ役に立つことを知る。
相手の疲れや不安、痛みなんかが、舌の奥で“味”になって分かるのだ。
眠れていない人は苦い。
不安でいっぱいの妖は、砂糖を焦がしすぎたみたいなざらついた甘さがする。
祖父は、それを聞いて笑った。
「便利な舌を持って生まれたのう。
妖の血も、なかなか捨てたものではない」
そうして、祖父と私は、古民家を少しだけ改装して小さな薬膳カフェを始めることになった。
山で採れた薬草と、東北の旬の食材。
温かい茶と、素朴な甘味。
店の名は『千の実』。
人も妖も、疲れた心と体をそっと休められる場所にしたい――
そんな祖父の願いが込められている。
口コミでじわじわと評判になり、やがて店には、人間だけでなく、座敷童子や河童、山の主まで顔を出すようになった。
千の実では、姿を隠したい妖は人間のふりをするし、正体を隠さない客も、遠野ではそう珍しくない。
「美千流、湯の温度が少し低いぞ」
「はーい。
今日のお客さんは“冷え”と“心配性”の味がしたので、ちょっとだけ生姜多めにしてます」
そんなふうに、祖父と二人で過ごす季節は、私にとってやっと手に入れた“普通の幸せ”だった。
――ほんの数年で終わるとは、そのときは思ってもいなかったけれど。
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