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9 月のしずく杏仁

器に注いだ杏仁は、白く、静か。


上に、薄切りの杏を一枚。


仕上げに、玉兎が落とした“月のしずく”。


「お待たせしました」


医者は、器を見下ろし、微笑んだ。


「……綺麗だ」


一口。


間。


「冷たいのに、

胸があたたかい」


それは、昼の火伏せ辣湯と、正反対の効き方。


(……効いてる)


玉兎が、医者をじっと見つめる。


「ぎょ……」


警戒の鳴き。


医者は、その視線に気づいて、笑みを深めた。


「君、

面白いものを飼ってるね」


「飼ってません。

相棒です」


言い切ると、玉兎が誇らしげに胸を張る。


「……相棒、か」


医者は、器を置いた。


「美千流。

君、最近――

夜、眠れてる?」


その問いは、診察みたいで、でも、踏み込みすぎ。


「……普通です」


「嘘だ」


やわらかい声。


でも、断定。


「半分、起きてる夜がある。

胸が冷えて、

理由のない不安が来る」


図星。


私が答える前に、影が鳴った。


「そこまでだ」


朧の声は、氷みたいに低い。


「診察は頼んでいない」


「頼まれなくても、

見えることはある」


医者は、肩をすくめる。


「……君、彼女を囲いすぎだ」


「囲ってない」


即答。


「守っている」


言い切らない。


でも、距離が、はっきりする。

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