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7 夜仕込みと、甘い白
閉店の札を裏返すと、千の実の空気が、すっと内向きになる。
外の冷えが、戸の向こうで音を立てる。
中は、灯りと湯気だけが残った。
「……甘いの、仕込みますね」
私はエプロンを締め直し、小鍋を出した。
今晩の主役は、
《月のしずく杏仁》。
杏仁霜を少なめに、ミルクを多めに。
甘さは控え、舌に残るのは“静かな白”。
鍋に火を入れると、ふわり、と柔らかい匂いが立つ。
「ぎょ」
足元で、玉兎が短く鳴いた。
前足で鍋の縁をちょん、と叩く。
「手伝ってくれるの?」
「ぎょ」
肯定なのか、ただの可愛さなのか。
私は笑って、小さなスプーンで鍋を混ぜた。
すると、ミルクの表面に、淡い光が一滴、落ちる。
月明かりみたいな、静かな輝き。
(……きれい)
玉兎の耳が、ぴん、と立つ。
その光が、店内の影を少しだけ薄めた。
「効いてるな」
背後で、朧の声。
「この子、すごいですね」
「月の気を“整える”。
お前のざわつきも、少し落ちてる」
言われて気づく。
胸の奥にあった、ざらついた不安が、今は角を失っている。
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