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5 守るための沈黙と閉店前の静けさ、残る気配

厨房に戻ると、

朧の影は、はっきりと濃かった。


「……何か言われました?」


「変なことを」


「そうか」


それ以上、聞かない。


聞かせない。


(理由、教えてくれないんだ)


でも、その沈黙は突き放しじゃない。


守ろうとしている沈黙だと、分かる。


「今日は、あまり客と長話するな」


「……分かりました」


その一言だけで、十分だった。






夕方。


雪が降りそうな空の色になり、店内の灯りが一段あたたかく見える。


客は少なく、時間はゆっくり流れる。


私は洗い物をしながら、ふと戸口を見る。


(……来ない)


“来るはずだった何か”は、まだ来ない。


そのとき、

床に、ぽとん、と柔らかい音。


白い毛玉が、ころんと転がっていた。


「……?」


「きゅ……」


赤い目。


耳先としっぽだけ、淡く金色。


「玉兎だ」


朧が淡々と言う。


玉兎は、私の足元でぴょん、と跳ねた。


触れると、ふわっと温かい。


胸のざわつきが、少しだけ落ち着く。


「……癒しですね」


「お前と相性がいい」


理由は言わない。


でも、それでよかった。






夜。


店を閉める直前、戸の向こうに―――冷たい気配。


昼の客とは、違う。


もっと、鋭い。


「……今日は閉店です」


返事はない。


気配だけが、しばらくそこにあって、消えた。


朧が、私の前に立つ。


近いけれど、触れない。


「無理するな」


「……はい」


それだけのやり取りなのに、胸が静かに温かくなる。


千の実の夜は静かだ。


でも、嘘はもう――――入り口まで来ている。

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