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2 初来店の客
からん、と。
戸の鈴が、控えめに鳴った。
「いらっしゃいませ―――」
振り向いた瞬間、言葉が喉で止まる。
灰青の髪。
光を受けると、銀色にも薄紫にも見える。
白衣でも和装でもないのに、どちらよりも整いすぎた佇まい。
眼鏡の奥の瞳は澄んでいて、こちらを“測る”みたいに静かだ。
「一人。
静かな席でいいかな」
声は低く、やわらかい。
なのに、耳の奥に残る。
(……店に、合わない)
理由は分からない。
ただ、千の実の空気と、ほんの一歩だけずれている。
「こちらへどうぞ」
窓際の席へ案内しながら、背中に薄い緊張が走る。
その瞬間―――
影が、すっと動いた。
カウンターの奥。
朧が、いつの間にか立っている。
声はない。
けれど、影が静かに濃くなる。
(朧さん……警戒してる)
私は何も言わず、席へ案内した。




