27/37
1 昼下がりの千の実
昼の光が、千の実の床板に斜めに伸びる。
ランチの山を越えた時間帯は、店が一番“呼吸を取り戻す”ときだ。
私はカウンターの内側で、湯のみを一つひとつ布巾で拭きながら、深く息を吸った。
スパイスと出汁が混ざった匂いは、朝よりも丸くなっている。
(今日は、静か……)
この前の朝から続く、あの“気配”は今のところ顔を出していない。
何も起きていないことが、かえって落ち着かないのは―――
慣れてしまったからだろうか。
黒板のおすすめを、もう一度確認する。
本日のランチ
・火伏せ辣湯
・柚子とクコの小さな薬膳ピクルス
・蒸し根菜の黒胡麻だれ
・棗はちみつラテ
(よし)
千の実の料理は、派手じゃない。
でも、“いま必要なもの”だけを、静かに差し出す。




