2 人間も妖も、お腹は空く
十時半。
開店と同時に、最初のお客が来た。
「美千流ちゃん、今日のランチは?」
「《炉端香る和スパイスキーマ》と、《朝凪の白とろ粥》、
副菜に《黒胡麻と山芋の養生和え》です!」
「それ!絶対それ!」
地元のおばあちゃん。
冷え性と関節痛持ちなので、生姜と陳皮を少し多めにブレンドする。
一方で、続けて入ってきたのは――
水音をぱしゃぱしゃ立てながら現れた、川の妖。
「美千流~~!今日の飯はなんだ!」
「河童さん、タオルで拭いてから入ってくださいって毎回言ってますよね!」
「おう!わりい!」
頭の皿からぽたりぽたり水をたらしながら、ちゃっかり定食の席に座る。
本来、妖が人の店に入るのは危険だ。
気取られれば、祓われる。
恐れられれば、縛られる。
それでもこの店には、
「腹が減ったから来る」妖がいる。
「河童さんは?」
「《痺れ祓い麻婆》だろ!?
今日は水に浸かりすぎて、芯まで冷えてんだ!」
「自覚あるなら入るの控えてください!」
《痺れ祓い麻婆》は、山椒と味噌、生姜を効かせた和風仕立て。
“滞り”を流す料理で、妖の常連が多い。
次に来たのは、人間の女子高生二人。
その後ろに――獣の影をまとった見知らぬ若い妖。
(あれ、新規妖だ)
とっさに舌の奥で“味”を探る。
……甘い。
いや、甘すぎる。
“願い”に似た匂いだ。
これは、誰にでも分かる感覚じゃない。
妖が感じ取るのは、もっと荒くて、獰猛な匂いだ。
この“甘さ”を、ここまで細かく拾えるのは――――私だけ。
(気になるな……)
カウンター奥では、すでに朧が腕を組んで見ていた。
氷色の瞳は人間には見えない圧をまとっているが、妖には明らかに効く。
新規妖は、朧に気づくと「うわっ、やべ」みたいな顔をして去って行った。
朧はため息をつく。
「……朝から、あんな“甘ったるい気配”の妖を寄せるな」
「寄せてませんよ。あっちから勝手に来たんです」
「お前の“霊気”が甘いから寄ってくる」
「それ褒めてます?」
「褒めてない」
相変わらずぶっきらぼう。
でも、座る場所がいつも祖父の定位置なのは気づいている。
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