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遠野の薬膳カフェは妖客歓迎です。なお、店主の身柄は妖界で高値らしい。  作者: 兎月 なごみ
第1章 薬膳カフェ『千の実』は今日もにぎやか
11/22

2 人間も妖も、お腹は空く

十時半。

開店と同時に、最初のお客が来た。


「美千流ちゃん、今日のランチは?」


「《炉端香る和スパイスキーマ》と、《朝凪あさなぎの白とろ粥》、

副菜に《黒胡麻と山芋の養生和え》です!」


「それ!絶対それ!」


地元のおばあちゃん。

冷え性と関節痛持ちなので、生姜と陳皮を少し多めにブレンドする。


一方で、続けて入ってきたのは――

水音をぱしゃぱしゃ立てながら現れた、川の妖。


「美千流~~!今日の飯はなんだ!」


「河童さん、タオルで拭いてから入ってくださいって毎回言ってますよね!」


「おう!わりい!」


頭の皿からぽたりぽたり水をたらしながら、ちゃっかり定食の席に座る。


本来、妖が人の店に入るのは危険だ。

気取られれば、祓われる。

恐れられれば、縛られる。


それでもこの店には、

「腹が減ったから来る」妖がいる。


「河童さんは?」


「《痺れ祓い麻婆》だろ!?

今日は水に浸かりすぎて、芯まで冷えてんだ!」


「自覚あるなら入るの控えてください!」


《痺れ祓い麻婆》は、山椒と味噌、生姜を効かせた和風仕立て。

“滞り”を流す料理で、妖の常連が多い。






次に来たのは、人間の女子高生二人。

その後ろに――獣の影をまとった見知らぬ若い妖。


(あれ、新規妖だ)


とっさに舌の奥で“味”を探る。


……甘い。

いや、甘すぎる。


“願い”に似た匂いだ。


これは、誰にでも分かる感覚じゃない。

妖が感じ取るのは、もっと荒くて、獰猛な匂いだ。

この“甘さ”を、ここまで細かく拾えるのは――――私だけ。


(気になるな……)


カウンター奥では、すでに朧が腕を組んで見ていた。


氷色の瞳は人間には見えない圧をまとっているが、妖には明らかに効く。


新規妖は、朧に気づくと「うわっ、やべ」みたいな顔をして去って行った。


朧はため息をつく。


「……朝から、あんな“甘ったるい気配”の妖を寄せるな」


「寄せてませんよ。あっちから勝手に来たんです」


「お前の“霊気”が甘いから寄ってくる」


「それ褒めてます?」


「褒めてない」


相変わらずぶっきらぼう。


でも、座る場所がいつも祖父の定位置なのは気づいている。

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