プロローグ1
「――お前の父が作った借金のかたに、お前を引き取りに来た」
その一言で、私の、そこそこ平和だった半妖ライフは派手にひっくり返された。
岩手県・遠野。
妖怪文化が根強く残り、霊気に満ちた土地。
その山あいにひっそりと建つ古民家の一角で、私は今日も薬膳茶を淹れていた……はずなのだ。
「……え?」
間抜けな声が出た。
カウンターの前に立つ男は、どう見ても一般的な「借金取り」ではない。
白銀の髪は月の光を溶かしたみたいに淡く、氷を溶かしきらない空の色をした瞳は、わずかな霊の揺らぎも見逃さなさそうに鋭い。
黒い羽織の裾には、人のものではない影がまとわりついている。
床に落ちた影が、生き物のようにゆらりと膨らんだ気がした。
「ちょ、ちょっと待ってください。
父の借金?かた?引き取りって何ですか」
「そのままだ」
男は淡々と言う。
「俺は朧。影狼の妖だ。
妖界でお前の父が作った借金の取り立てに来た。
“娘を身請けしろ”というのが、貸主の条件だ」
「身請けって言い方やめてもらえます!?」
わたしの名前は、美千流。
見た目は二十代前半くらい、でも中身の年齢は本人にもよく分からない。
鏡に映る自分の顔は、いつも少しだけちぐはぐだ。
若いはずなのに、目だけが落ち着きすぎている、と言われることがある。
父が妖で、母が人間。
いわゆる「ハーフ」だが、そんな言い方をしてくれる人はほとんどいなかった。
――少なくとも、子供の頃の私は。
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