6.『無限の魔女と収集の魔導書』
一瞬の沈黙
さっきまで泣き叫んでいたマリーゴールドの鳴き声がぴたりと止まる。
この落果のあるこの世界に熊という生物は存在しない。
熊、その単語は、何度もマリーゴールドが歌っていた歌詞に出てきた。
アオケシは最初、熊というか食う生物だと思っていたが、ライオネルベアーを見て、熊と答えたマリーゴールド。
アオケシは自分の推測が正しいか確かめる。
「マリーゴールドって、異世界から来たでしょ……ぐふ!」
「……いやですわー。正確には、異世界からこっちの世界に転生してきた魔導書、グリモワールですの、私」
マリーゴールドは、そう言うと腹部から大きな銃剣が生え、アオケシの腹部を貫いた。
「ああ、やっぱり私の想像通りだ!」
「あー、折角、異世界からきた同じ境遇のお仲間とお友達になれたと思いましたのに……そんなに殺意目で見られたら、私、恥ずかしくて。弾けてしまいそうですわ」
アオケシを突き飛ばしたマリーゴールドは、優雅に宙に浮くと、手に持ったスターターピストルを空中に打ち上げるとぱ案という音と共に、正気を失った動く死体、ゾンビがわらわらとアオケシの周りから這い出てきた。
「なに? 戦わないの? 一緒にやりあいましょうよぉぉ!」
「いやですわ。ここは、優雅じゃないので。お互いに自己紹介でもして、ダンスは後日ということで……」
マリーゴールドが、優雅にそう言い頭を下げると、アオケシは、吐き捨てるような乱暴な自己紹介をした。
「私はアオケシ! 落果で育った不死の魔女! 転生とか異世界とかは、調べてもよく分かんないからどーでもいいかな! 興味があるのはあなただけだよ! 異世界転生者!」
「私は、マリーゴールド。あなたのその不死を『収集』したいもの。日本からこの世界に転生してきたグリモワール、生きた魔導書の一冊『収集の魔導書』マリーゴールドでございます。以後お見知りおきを」
「へえ、収集の魔導書ね。気になるけど……」
「ええ、秘密は本番で! それではごきげんよう。コレクションはちょっとずつ見せるものですので……という訳で、死なないと思いますが、あいさつ代わりに」
マリーは虚空から機関銃を取り出すとアオケシに一斉掃射する。
アオケシは瞬く間に、肉塊になり、また蘇る。
「ああもう! あの何もない所から武器を取り出す魔法! 良いな! 気になるな! 待ていてねー! 絶対読みつくしてあげるから!」
「いやですわー。死んでいるか生きているかもわからない魔女。まるでゾンビみたいで怖いですわー。それじゃあ、アオケシお姉ちゃん。そこで永遠に死に続けてくださいまし」
マリーゴールドは、アオケシを無視して、北の方へ飛んでいく。
アオケシも追おうとするが、周りのゾンビがその道を阻んだ。
「さて、ゾンビときましたか……。死んでいるけど、読めるモノはあるのかしら」
そう言いアオケシは、ゾンビの大軍に鉈を持ち襲い掛かっていったのであった。
「つまんない! つまんない! つまんない! あーつまんないよ、クソ!」
アオケシは、襲い掛かるゾンビを何度も何度も首を飛ばし、死体を蹴飛ばすが、首を切った時、体を裂いても記憶が流れず、アオケシの『識欲』を満たすものではなかった。
今は、ただただショーケースのおもちゃを欲しがり暴れる子どものようにゾンビを殺している。殺しても、元々死んでいるゾンビから、アオケシが得られる情報は、何もない。
早く、マリーゴールドを追いたいのに追えないストレスをゾンビにアオケシは吐き出していた。
「ゾンビには美しさが無い! なんで湧き出てくる! 墓なんてどこにもないじゃない!」
「死ね! 死ね!」
アオケシは、湧き出てくるゾンビの首を飛ばし、内臓を引きずり出し、蹴飛ばす。
だがゾンビは湧き続け、アオケシを襲う。
血にまみれるアオケシは、どこかイライラしていた。
「アイツ……、マジで何やっているんだ。加速! 停止指定、拳!」
そんな乱戦状態にアオケシを見つけたメハジキは、クロノワールの力を使い、ゾンビの乱戦の中に混じっていく。
「メハジキぃー! ちょっとヘルプ―! こいつら殺しても何も楽しくないよぉ!」
「殺すに楽しいもクソもあるか! どうしてお前はこうやって……こうやってトラブルばかり起すかね!」
わらわら湧くゾンビ。
グリモワールの保有する魔法の中に死体をゾンビにする魔法があるらしいが、魔法を自分で使える存在自体、グリモワールか魔女、一部の転生者のみという非常に少ない技術体系ゆえか、ほとんど発展していない技術。
しかしこの無限に沸き続けるゾンビは、まごうことなき魔法。
「ああ、ずっと、ずっと! こいつら湧き出てくるし! 顔も何も全員一緒じゃん!」
「一緒……なあ、アオケシ!」
「なに! 冗談言っているほど私は、悠長じゃないけど!」
ゾンビを殺しながらアオケシは、メハジキに目を向けると、メハジキは、大事なことだと言い、一点アオケシに聞いた。
「お前! この中で殺してないゾンビとかいねえか!」
「ゾンビは……うん! いる! 一匹だけ! 小さい子供! そこ!」
「加速! 停止!」
メハジキが、子どものゾンビを見つけた瞬間ものすごい速度で近づき、腹を突き破り爆散させた。瞬間、ゾンビたちは、まるで泥のように溶けていく。
「うわ……容赦なく子どもを殺すとか、引くわー」
「ゾンビだろう? 魔法で生み出された生物の奴らにそんなものに同情する必要はねえだろう。ゾンビは、子ども型が本体で周りのゾンビは、土から生まれた土くれだよ。てか、アオケシに子どもを大切に思う人の感性があったんだな」
「ひど! 私の友達は、ちっちゃくて、かわいいんだぞ!」
アオケシの口から、友達というワードを聞いたメハジキは、顔をしかめる。
シリアルキラーの本狂人であるアオケシの友達、それも小さい子。メハジキは、どうしてか事件の香りがしてしまった。
「お前、それ食料って意味じゃないよな」
「私をなんだと思っている。友達。フレンド! 分かる? さっきも一緒にライオネルベアーを狩り殺して、最後は、私の腹部まで貫くほどのマブダチ!」
「ついに頭がおかしくなったか……とりあえずこれ着ろ。そんで頭を冷やせ。どうせお前のことだ。服、破けるだろうと思って持ってきたから」
アオケシに服を投げ渡すメハジキ。
「おっと。あんがとね。ねえ、メハジキ。私ね、この後、友達の『収集の魔導書』グリモワール、マリーゴールドの家に乗り込んでマリーゴールドをぶっ殺そう(読みつくそう)としているんだけど来る?」
「うん? 『収集の魔導書』……。おい! オマエ友達が『収集の魔導書』ってマジかよ!」
「そ、そうだけど。どうしたの? 大きな声出して」
アオケシのトンデモ発言にメハジキは、目を飛び出しそうなほど驚く。
「おいアオケシ、着替える前にそこに座れ」
「う、うん。どうしたの?」
アオケシが座ると、メハジキもその場に座り少し声を小さくして話し出した。
「お前、とんでもないものと会ったぞ……」
「とんでもない? 収集なんて可愛い魔導書じゃない。クロちゃんみたいに明らかに強そうな魔導書じゃなそうだし」
「あー。コイツには国際手配書も読ませるべきだったか……」
メハジキは、今更ながら、アオケシは賢く頭もいいが、それ以上に世間知らずだった。
『収集の魔導書』についてメハジキが説明する。
「良いかアオケシ、この国の指名手配のグリモワール『収集の魔導書』。そいつがお前の友達。そういえば伝わるか?」
「お、おお! マジか! わぁぁぁ! すごい!」
メハジキは冷や汗を流す。
中央監査機関で危険視されるグリモワールの中でも『収集の魔導書』は、悪辣の塊であった。
「いいか、そんないいもんじゃねえ。『収集の魔導書』の確認されている魔法は、収集のみ、内容は、無限収納と取り出し」
「なに? しまって出すだけでしょう。そんなの弱い……」
「馬鹿……本当にバカ。『収集』の怖い所はそこじゃない。あれは、物体はもとより、生き物、魔法も何もかも収納するんだよ。しかも一度、収納すれば、『収集』が取り出す以外の脱出の手段はない。アイツに収納されればそれで終わりってことなんだよ。別名は、悪食。今救援要請を出す。本部から一週間もすれば援護が来るからそれまで」
「……よし、今からあの子を読みに行こう」
アオケシは、貰った服をその場において速足で、マリーゴールドの向かった方向に走ろうとするのをメハジキは慌てて止める。
「馬鹿! だから……援護が来るまで待て!」
「絶対ヤダ! だって、その人たちが、マリーを倒したら私があの子を読めないじゃん!」
「当たり前だろう! 『魔王の魔導書』と同格の危険度だ! そんなもの封印……」
「だったらなおさら友達の私が読んであげないといけないじゃん! 本は読まれるために生まれたの! その生まれた意味を無視するなら、私、クロちゃんの記録能力に抵触しない限りで大暴れするよ! そしたらメハジキだって面倒くさいでしょう!」
アオケシは、言葉ではいいことを言っているが、その目は、明らかに、憲兵を虐殺した時の笑顔そのままであった。
「……ああ、分かったよ! 行けばいいんだろう! 行けば!」
「そう言う事~。じゃあさっそく……」
「待て! せめて服は着ろ! 服は!」
「戦うたびに服は破れるもん! 着ても意味ないしもったいない!」
「着ろ!」
メハジキは、あきらめて、アオケシに付いて行くことにすると、アオケシは、毛皮をまとったまま進もうとしたので、腕を、掴み服を渡すのだが、アオケシはいたずらな顔で、メハジキをからかった。
「えー、服。着るのは良いけど、今度はちゃんと下着も買ってきてね。私、戦うたびに全部、破けて復活しないのが悩みだし」
アオケシは、メハジキの前でその場で身にまとった毛皮を脱ぎ、来た時と同じ紺色のジャケットにズボンを履いた。
「オマエな……貰えるだけありがたいと思えよな」
メハジキは、呆れて頭を抱えたのであった。
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「さあて……チーターの攻略法ですけれど。うーん、不死の書のプレイヤーは、ゲームオーバーにはなりませんと思いますの……あのプレイヤーを攻略するには、私もあのチーターと同じ能力が必要と思いません? お母様」
「琴子! もうやめて! お母さんはもう!」
ゲーミングチェアで胡坐をかくマリーゴールドは、前世での名前を転生後の母親と思われる自分と全く同じ顔の少女に気さくに話しかけるが、少女は、怯えや恐怖からか、冷たい床に這いつくばり、悪いことはやめるように懇願する。
「ちぃ……なんだよ! いきなり前世での名前を呼んで母親面かよ! 前世でも使えねえ給仕係が、転生しても使えねえのかよ! 私は勝ちたいんだよ! あの女に!」
「琴子、これはゲームじゃなくて現実! 言っているじゃない! 現実から逃げ……」
ばん。
マリーゴールドは、前世での名前を普段の口調から前世での口調に戻り、虚空から取り出したリボルバーで、少女の足を打ち抜いた。
「やめ……やめてください……ごめんなさい! ごめんなさい! もう、もう殺さないでください! 私はもう死にたくない」
「そうだよな! 不死系のチート持ちは、普通こういう反応するよな! バグってるのは、やっぱりあの女なんだよな。なあ、お前さ、死ぬってどういう感じ? 『無限』の魔女様」
「やめ………うぅぅ、痛い! 痛い! 直ったのに痛い!」
マリーゴールドは、少女の額を銃で打ち抜くと、少女は、一度死に、軽快なラッパ音と共に少女は、全身が元の傷のない状態に戻り、怯える。
「だよな、死ねば痛いし、苦しい。変態貴族に魔女様を売り渡して恥辱の限りを尽くさせたときは精神崩壊もした。けど……あぁぁ、あのアオケシめ! 多分あいつ、死ぬほど変態だぞ! ウチの魔女様みたいに恥辱攻めしても、楽しみそうだし……無限リスポンだし!」
マリーゴールドは、余裕を見せていたが、正直内心では、アオケシにこのままでは勝てるビジョンが全く見えなかった。
ライオネルベアーとの戦闘では、笑顔で何度も死んだ。そして蘇っては何度も鉈を振り下ろす。その姿はまさに、アメリカホラー映画に出てくる殺人鬼のように執拗で執念深い。
それでいて、過激すぎるスプラッタ。
「そうだな……けどああいったスプラッタはどうやって死ぬ? おい! 魔女様!」
「ひぃぃ。すみません!」
「お前、今から全力で私を殺しに来いよ。これやるからさ」
少女の前にはチェンソーが一台現れる。
マリーゴールドは茫然としてチェンソーを眺める少女を軽蔑した冷たい目で見て話す。その要求は到底、常人では考えられないものであった。
「……」
「なんだ? お前、私にされたこと忘れたのか! 何回殺された、何回尊厳をふみにじられた? それでもお前はお母さん気分かよ。あー、琴子、泣いちゃうなーままー!」
それは、完全に相手を馬鹿にする話し方。
少女の本質は『無限の魔女』。
触れるものに無限の性質を与える。
現在の少女は命や生命が無限のため死ぬことは無い、疑似的な不死……むしろ性質付与がある分アオケシよりも確実に上位の魔女。
そんな少女は、魔女に転生してから、今まで、前世の娘に虐げられ、殺され、おもちゃにされ、稼ぎの道具のように扱われた。
「……くまめ」
「なにー? きゃはは、聞こえなーい! 森のくまさん? かわいいよねー」
だが目の前にいるマリーゴールドを少女は睨み付ける。転生前の面影なんてないマリーゴールドを見て『無限の魔女』の中で何かが切れた。
「あくまめぇぇぇぇぇ! 優しい琴子を返してぇぇ!」
「いいね! 良いですわ! 魔女様ぁぁぁ!『収集』」
「え……」
刹那、少女は、文字通りマリーゴールドの中に『収集』されていった。
「そして……『簒奪使用』のページ! あーははは、そうよね! そうだったわ! 『収集』ばかり使っていたけど、これなら、不死だって殺せるじゃない! 『簒奪使用』良いね! 収納物の存在を完全に奪い取り自分のものにする力! 『無限』さえあれば、弾切れ心配ナーシ! そして、即死チートのハメ技! なーんだ。アオケシ殺せるじゃない。できる!これで勝つる! ……悲報、不死のナーフ決定てか、おもろ!」
そして、無音を引き裂く孤独な勝利宣言。
マリーゴールドは、前世の母を殺し、孤独になっても、何も感じない。彼女にあるのは勝利への快楽だけであった。




