4.『飲みすぎ注意。落果ビールは、火を灯してから飲みましょう』
「という訳でカンパーイ!」
「か、かんぱい……です」
「……いただきます」
メハジキは、健吾の強い、非常に強い妖精で、落果の高級個室居酒屋に入り、ビールのグラスをお互いにぶつける。
アオケシは、ボソッといただきますとつぶやいた後、そんな二人を席の恥で、冷たい目で見ながら、タブレット端末の新聞記事を読んでいた。
「本当に分からない。なんで人は酒やら煙草みたいな体に害しかないものを摂取するの?」
「ごくごく……ぷはぁ! アオケシさんはお酒の楽しさを知らないんですね!」
「知る必要はない……あむ。まあ、お酒のおつまみは好きだけど」
新聞を片手間で読むアオケシは、ヤキトリの串をつまらなそうにつまみながら陽気に笑う健吾に目も合わせることは無かった。
「なはは、本当にアオケシさんは勉強家ですね! 将来は学者か何かですかね!」
「いや、領主様も聞いていたと思いますがこいつはただのシリアルキラーですよ」
アオケシを見て、メハジキと健吾の意見が真っ向からぶつかり、健吾は笑いながら、メハジキに話し出す。
「いやあ、知識とは力です! 彼女はさぞ知的な魔女なんでしょうね」
「えと、こいつは笑いながら鉈を振り回す女ですよ。頭が良い訳……」
「鉈を振り回す女の子は、僕の世界じゃ中々可愛いヒロインで……正直、あのギャップが堪らなく可愛いんですよねぇ……」
「異世界って言うのは、なんだか変な人が多いんですね」
「いえ落果に比べれば少数で、より濃いだけです」
「最悪ですねそれ」
二人は、ヤキトリをつまみながらアオケシを眺める。
ただ普通に座っているだけなら、よくいる美少女の数倍綺麗な程度の人生稀に見る美少女。
「なに……。酔っぱらいの相手は面倒だし嫌よ」
アオケシは二人の視線を受け、珍しく本気の嫌悪感を出し二人を睨む。
「……ねね、メハジキ殿は、良く、こんな美少女と一緒に住んで襲うことが無いですよね」
「美少女って……、失礼ですが健吾さんは、ライオネルベアーと同じ部屋に住めます?」
「無理です」
「そう、つまり俺にそんな余裕はないです」
ライオネルベアー、たてがみが美しいクマで、全長10メートルある熊に例えられるアオケシであるが、彼女はそんなことを気に止めることは無くタブレットをいじり続ける。
「……うむぅ、個人的には、アオケシさんにお近づきに」
「やめたほうが良いです後悔しますよ」
「な、なら! 私がアオケシさんと付き合ってもいいという事ですね」
「ち、ちか、別に俺には関係ないですが……」
なんだか、いつもより俗っぽい感じの健吾は、酒を飲み干すとアオケシの隣に座り絡みだす。
「ねね、アオケシちゃーん僕と飲もうよー。ほら、僕より飲めたら好きなものなんでもあげちゃう!」
「……好きなものなんでも!」
「うん、なんでも!」
「け、健吾さんやめた方が……」
メハジキは、アオケシという女がどこまでも合理的で手段を選ばない女だと知っている。
だからこそこの提案は、完全な悪手だった。
「マスター! ビール! とりあえず駆け付け一杯だから! 四杯頂戴! 私二杯に、健吾さんに、ついでにこのいけ好かない男にも!」
「お、アオケシちゃん! 職場が燃えて無職なのに羽振りがいいね!」
「やだー。マスター、私は、優秀だからもう就職先は決まったよ」
「お、そうかい! なはは! なら祝だ! このビールは俺のおごりだよ!」
「ありがとうマスター!」
「おま! 俺は!」
アオケシは、陽気に笑う。マスターも。
落果では、人が死ぬのも放火で職場がなくなるのも日常茶飯事。そんな世界でもみんなは笑って過ごす。
だが今は、そんな、感傷的なことを思っている場合ではなかった。
「はい! アオケシちゃんの退職兼就職祝い!」
「きちゃあ!」
「アオケシ、おま、コレ! ふざけんな! 死ね! マジであり得ねえ!」
「?」
目の前には、アオケシの座高よりも大きいビールグラスが四つ。
落果名物、ビールのなんだか良く分からないアルコールマシマシエタノールカラメ割り。アルコール度数は、64度。
何故かビールなのに火が付くもので、飲めば一発二日酔いの代物。
貧困層が多い落果向けに作られた酒であるが、これを飲むのは、落果の中でもイカれたアル中層のだけであることを知っていたメハジキは、本気で、キレたが、異世界人の健吾は、どういうことか分かっていない様で目が点になっていた。
「では! アオケシいっきまーす! 名付けて、焔のみぃ!」
アオケシは、マッチでビールに火をつけ、そのまま自分の体の半分はあるであろう火のついたグラスのビールを一気に飲み干した。
「ぷは! そんじゃ飲みましょうか! マスター! 私はチーズささみみたいな肉と枝豆の揚げ物!」
「こ、これは……大きいビール?」
「健吾さん、こんなものを飲んだら明日の仕事は……」
メハジキは、健吾が落果ビールを飲むのを阻止しようとするが、アオケシは違った。
「健吾さん! 落果の元娼婦兼バーメイドを飲みに誘ったこと公開させてやります! 仕事ならいくらでも、飲んでやりますよ! ホレ! 一緒に! 火、つけます?」
「ぼ、僕結構です……」
「……俺はやってくれ」
メハジキとアオケシは、落果ビールに火をつけ飲みだす。
常人ならむせぶアルコール度数のはずなのに飲みやすい落果ビールを飲んだ健吾は、数分後にはトイレとディープキスをするハメになっていた。
そして、健吾がトイレの恋人になっている間メハジキは、冷たい目でアオケシを睨んだ。
「お前、最低だぞ。なんでもいいからって落果に来て間もない人にこの期の狂った酒を飲ませるなんて」
「えー、でもちゃんと火をつけるか聞いたよ?」
「健吾さんに説明しろよ。あとつまみも、落果ビールのアルコール分を分解するやつばっか」
落果ビールは、良く分からない工業産廃から漏れだすアルコールをふんだんに混ぜ込んだ酒であり、普通に飲むと、即日トイレの恋人になるため、地元民は、一度ビールに火を灯してから飲むのが当たり前である。
メハジキもそれを教えようとしたが、ほぼ無法地帯である落果にも、しっかりとした地元ルールがある。
その一つに落果ビールは、一度飲むまで誰であっても飲み方を教えてはいけないという鉄の掟があり、居酒屋で、落果ビールの飲み方を知らない人に飲み方を教えると、もう二度と朝日は、拝めなくなってしまうのであった。
「たく……で、明日以降の仕事だが」
「……ねえねえ、メハジキ、アルコールに強くない?」
「そりゃ落果で育ったからな」
「そうなんだ……うくん……ぷはあ! マスターおかわり! さぁて、健吾さんになにを貰おうかな!」
「お前って奴は……」
メハジキは、どこまでも自分の欲に忠実なアオケシをどうしてか少し羨ましいと思ってしまったのであった。




