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3.『新しい日常と転生者』

「……太陽光。まぶしい」

「起きたか……太陽光って、落果での晴れは、曇りみたいなもんだろう」


 ワイシャツにジャージのズボンを履いたアオケシは、鈍い光が目に入り目を覚ますとそこは見知らぬ布団の上。

眠気眼を擦るとキッチンでメハジキはコーヒーを淹れていた。


「……あれ、メハジキ。なに、私、いつアフターしたっけ」

「何言っているんだ。ここは俺の家、寝ぼけているのか」

「あー、そっか。私、遊び疲れて寝ちゃったんだ……って、服! ふーん」


買った覚えのない服を見てアオケシはにやにやとメハジキを見ると、メハジキは露骨に嫌そうな顔をした。


「なんだよ……。気持ち悪い」

「いやー、童貞君、私に服を着させてくれたんだね」

「汚い奴は家に入れたくない。しょうがないだろう」

「ねね、メハジキ」


呆れて溜息を吐くメハジキにアオケシ。

キッチンでコーヒーを啜るメハジキにアオケシは、楽しそうに詰め寄る。


「私の裸見た?」

「そりゃあ、血まみれシリアルキラーの体を洗ったのも服を着させたのも俺だからな。最低限の配慮はしたぞ」

「初めての裸、興奮した?」

「好きでもない女の裸なんて見て興奮するか……」


朝の落果は、工場からの機械音や車のクラクションで喧騒が広がる中、メハジキは、コーヒーを飲み終えアオケシを無視して、ご飯に味噌汁、納豆の健康的な朝食を二人分ダイニングテーブルに運んだ。

アオケシはそれを見て不思議そうに首をひねった。


「なにこれ」

「なにこれって、朝飯だよ……。異世界から伝来した朝食で悪いがお前も食え。午後は、落果の領主に会いに行って昨日の説明と根ご方針について説明するから」

「あさごはん? なんで朝からご飯食べるの?」


普段から食事は、栄養摂取としてしか考えていなかったアオケシにとって朝食とは新鮮なものであった。


「一日三食食べると健康になれるらしいぞ」

「落果の環境は、健康と真逆だし意味なくない?」

「食わないなら……」

「食べる! 食えるものは、食える時に食うのが美容の秘訣だし! ……て、痛い!」


アオケシは、飛び出しダイニングにつくと箸を取り、目の前の朝食にありつこうとした瞬間、メハジキは、アオケシの手のひらを箸で叩きそれを制止した。


「食べるときは、まず手を合わせて、いただきます。最低限の礼儀だぞ」

「えー、何それ意味ある?」

「良いからやれ。『いただきます』」

「うーん、いただきます」


二人で手を合わせ、簡素な朝食を二人は、食べだす。


「……ねえ、この腐った豆。メハジキ、お金ないの?」

「納豆だ。調味料をかけて混ぜて米にかけて食う」

「……ふむふむ」


アオケシは初めて見る納豆の食べ方を目の前のメハジキから見て学び、納豆をかき混ぜだすと声を上げて興奮する。


「す、すごい! ねばねばした! キモチワルイ! 可愛い!」

「……それぐらいで喜ぶな」


メハジキは、納豆をかけたご飯を、食べだすと、アオケシもそれを真似して、同じように納豆のかかったご飯を食べると目を輝かせる。


「なにこれ! うまい! ねばねばだ!」

「黙って食え」


騒ぐアオケシに、メハジキは、少し苛立ちながらも朝食を食べ終えたのであった。


***********************************************************************************


「メハジキーこの服きついー。ボタン開けていい?」


 落果自治領事館、違法建築と排ガスにまみれた落果には、不釣り合いな贅沢な邸宅の中、色々な国の鎧や内装がひしめき、異世界の様な風貌の通路。

アオケシは、ブラウスにレディース用の紺色のジャケットをきて息苦しそうに文句を言う。


「ここの領主は、最近、首都領から派遣されてきた異世界の勇者様だ。俺たちの代わりに世界を滅ぼさんとする魔王のグリモワールを倒した御方だ。無礼な格好はできないだろう」

「異世界とか、魔王のグリモワールね……魔王のグリモワールはあるのかな」

「ある訳ないだろう。倒して即禁書指定、封印送りだぞ。落果にそんなのがあったら、命がいくらあっても足りん」


魔王のグリモワールが無いと聞いた瞬間、アオケシは露骨に興味を失った。


「まあそっか……帰らない? 私、グリモワールが無ければ興味ないんだけれど」

「……お前は、昨日のこともあるんだ。来るのは強制だ」

「チェ……」


メハジキの後ろをつまらなそうに歩くアオケシ。

こんな時間があるなら本を読み進めたいそんことを考えながら歩いていると目の前で歩いていたメハジキが急に止まり、後ろを歩いていたアオケシは、メハジキの背中にぶつかってしまった。


「ちょっとぉ……いきなり立ち止まらないでよ」

「……ここが領主の部屋だ。いいかアオケシ、絶対に変なことをするな。ここでは寡


黙な部下を演じろ、いいな。お前が喋ったらろくなことにならん」

領主の部屋で立ち止まったメハジキは、アオケシにそう言いつけるが、当の本人は、あまり乗り気ではなかった。


「へーい」

「アオケシ。いいか、おとなしくしていたら、帰りに今日発売された本を……」

「はい! おとなしく致します!」


メハジキは、アオケシと少しの時間しか過ごしていないが、何となくアオケシの扱い方を理解した。


「(こいつ……本やら、知識を餌にすれば意外と扱いやすいのか)」

メハジキは、急にきりっとした表情になったアオケシを見て呆れたように両巣の部屋の扉をノックする。

「失礼いたします。中央監査官メハジキです。先日の件についてと新人の挨拶にまいりました。入ってよろしいでしょうか」

『あ、どうぞー』

「失礼いたします」

「失礼いたしまーす」


アオケシとメハジキは、部屋の中に入るとどこか中世ヨーロッパの執務室の様な内装の無駄に豪華絢爛な部屋、中性的なアオケシと同い年くらいの少年が机で書き物をしながら、メハジキ達に目をちらっと向け、書き物をやめて、手を振って二人を歓迎した。


「やっほー。初めまして、僕は、大須健吾おおすけんごと言います。異世界の日本から来た転生者で、先週から領主になったばかりの新参者だけどよろしくね」

「メハジキと申します。この度はお時間いただき誠にありがとうございます」

「ます!」


メハジキは礼儀正しくお辞儀をすると、アオケシもぼろが出ないようにメハジキの真似をし、背筋をピンと立てるが、健吾は苦笑いをして手を振った。


「ヤダな……。もうお二人とも敬語なんてやめてください。僕もいきなり地方の領地を渡されたばかりで何も分からない新参者ですし。これからは同じ町の住人として頑張ってこの落果を良くしていきましょう」


「は、はいお願いいたします」

「ます!」


立ち上がった健吾は、メハジキと握手をする。

その後、健吾は、アオケシの方を向き笑顔で手を差し出す。


「一緒に手を取り合って、みんなで良い街を作りましょう」

「……」


アオケシは、自分に差し出された手を眺めてから、両手を腰に当てしっかりと健吾の目を見た。


「落果は今でも良い街だよ。その手を取ったら、今の私の町は、最悪の町ってことになる。だから私は、その手を取らない。ねえ、領主様は、今の落果をどう思う?」

「おい! アオケシ!」


メハジキは、アオケシを咎めようとするが、健吾は、困ったように差し出した手で頭を掻くと困ったように答える。


「……そうだね。客観的に見れば、落果は、結構危ない街のように言われるね。でも僕は、個人的に好きだよ。だから、僕は客観的に見てもこの街を好きと言ってくれる人を増やして生きたい……これでいいかな」

「……」


アオケシは、何かを考えた後右手を健吾に差し出す。


「うん、まあそれなら……よろしく」

「はい、よろしくお願いいたします」


二人は、握手を交わし、そのまま、三人は、応接用の椅子に座ると、健吾は、口火を切った。


「それで、昨日の憲兵について聞かせてもらえますか?」


メハジキは昨日の憲兵が未確認のグリモワールに操られていたこと、アオケシが魔女として覚醒したことを話しだす。

興味津々で聞いた健吾は、忍ばせていた小さな文庫本を読みふけっていたアオケシに視線を向けると、アオケシもそれに気が付き健吾に目を向けた。


「魔女……見たのは、魔王のグリモワールを倒した時以来です……えっとキミは、魔女で良いのかな? ど、どうして人間に敵対していないの?」

「ああ、私? 良く分からないけど、どうやら、不死の魔女らしいよ。不死で、殺した相手の記憶を本として読める力だと思っているけど。あと、人間に敵対? それは良く分からない。別に私は、人間自体にはあんまり興味が無い……その情報には興味があるけど」

「えーと僕の知っている魔女はね……異世界から来た人間で、全員、自分以外の人間をいけにえや魔術の素材としか思っていなくて、目的のためなら殺しだって平然とするんだ。しかし君は、今まで普通の市民として生きていた……君は人間と敵対しないのか」

「うーん。普通とかはあんまり考えたことは無かったかな。私は結構、この街、好きなんだよね。色々飽きない街だし。あとは、別に私を襲ってきた相手に関しては、殺すのはあんまり抵抗がないくらいじゃない? アナタの言葉を借りるなら……普通の市民って奴ね」


健吾は、少しおびえたようにアオケシに、殺意や内面について聞くが特にアオケシは今までの生活も嫌いでなかったからか、健吾にぐっと親指を立てた。


「……すみません。アオケシは、まだ上の人との話し方を知らないので」

「いいって、むしろ、前の世界に戻った感じがして結構嬉しいんだ。こっちの世界に来てからは、勇者や英雄とたたえられて、みんな僕に敬語だったし」

「あ、ありがとうございます」

「ます!」


健吾は笑顔で笑うと、真面目な表情で二人を見ると、健吾は申し訳なさそうにある資料を机の上に置いた。


「それと、中央監査官のお二人にご依頼したいことありまして」

「……俺たちを頼るってことは、グリモワール関係ですか?」

「ええ、私はこの地で領主になったばかり、まだ、内務で手がいっぱいでして。申し

訳ないのですがお願いできますか?」


健吾が出してきたのは落果周辺に出没する転生したグリモワールの情報であった。

メハジキは、ごくりとつばを飲み込んだのだが、アオケシの目は一気に輝きだした。


「グリモワール! 魔導書だ! やった! 見せて! 見せて!」

「あ、アオケシてめえ! 静かにして居ろって!」

「メハジキうるさーい。ちょっとは静かにしてよ!」


結局アオケシが、静かにできたのは話をしていた十分であり、グリモワールの話を聞いた瞬間、いつものアオケシに戻り慌てるメハジキであったが、健吾はどこか嬉しそうであった。

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