30.『落果のヘイワナニチジョウ』
「おい、アオケシ……飲んで来るなら言えよ……晩飯多く作っちまったじゃないか」
「たらいまーへへへ。アクタと吞んでたー食べるよー」
「酔いすぎだ。アクタさんにも迷惑かけやがって」
マリーの居ないメハジキ家、アオケシはほろ酔い状態なのかいつもよりテンションが高くメハジキも困り果てていた。
「あへへへ~酔ってないぴょ~ん。それにアクタは私のこと大好きだからセーフ」
「それは名寄っている奴の言う言葉だ……たく、そのセリフ、マリーが泣くぞ」
「明日も昼からのむぴょ~ん。マリーもくればいいのに~」
「たく、来い……酔いに効くスープ準備しているから」
「ありがと。うへへへへへ」
アオケシを背負うメハジキ。
リビングに連れていくまで酒臭いアオケシを背負いながら、メハジキは悪態をついた。
「たく……普段から笑顔で働き詰めの癖して、こうやって休むと人に迷惑をかけるなんて」
「ぎゃはは、良いじゃねえか。アオケシの姉さんの酔った姿んてベストショットだろう『収集』が見たら大興奮だぜ。押し倒せよ」
「デリカシー! それに俺は、もっと大人な女性がな……」
メハジキは、嫌そうに文句をクロノワールに言うのだがクロノワールとアオケシは、それを見てみて大爆笑をする。
「「ぎゃははははは! 童貞がなんか言ってるわ!」」
「うるさい、あと、言ってなかったか? 別に俺にだってそう言った経験はある」
「……まじ? 相手は? 今はどうしてるの!」
アオケシは、メハジキの過去を知らないだから興味津々に聞くがメハジキはどこか楽しくなさそうにつぶやいた。
「……もう別れた。と言うかそんなことどうでもいいだろう。ほら、椅子だ座れ、水も持ってくるから飲め」
メハジキはアオケシを座らせるとキッチンに水を汲みに行った。
「ねえクロちゃん、メハジキって全然昔のこと喋らないよね」
「だな。まあ俺は知っているが、アイツと契約するときに過去は話すなと言われているから話さねえぜ」
「ふーん」
アオケシは、メハジキを見つめると、どんどん好奇心が湧いてくる。
どういった人生や過去を送って来たのだろう。それを考え出すとアオケシのワクワクした感情が止まらなくなっていた。
「ねえ、クロちゃんこれは恋かしら」
「恋じゃねえのは確かだな。と言うか、好奇心だろう」
「あーね。そう言う奴かーはつたいけーん!」
アオケシは自分に生まれた好奇心に喜びを感じ叫ぶ。
「うるさい。騒ぐなアホ……で、スープ飲むか? いらないなら別に構わないが」
「飲みます~へへへへ~」
「なんだよ。気持ちわりぃな。マリーめ普段はうるさい奴で鬱陶しいがこう面倒な時のアオケシを押し付けるには最適なんだな」
いないものを思いメハジキは温めたスープをアオケシの前に置く。
「お、スープ! これは何のスープ?」
「シジミ。酔ったらこれが良い」
「小さい貝だけどおいしいのかな……ごく……うま! なにこれウマ! おかわり!」
アオケシはおいしそうにスープを飲み干すと元気よくメハジキにスープを要求する。
「たく……酔っても食欲は旺盛なのか……。満足したら寝ろよ……あと、飲むのは勝手だが、任務も忘れるな」
「あーい。ふへへへ。ありがとう、メハジキ」
「…………うわ」
珍しくお礼を言うアオケシにドン引きするメハジキだったが、アオケシはそれを見て爆笑し、結局夜が更けるまで二人はしゃべりながら気が付いたらお互いの寝室で寝ていたのであった。
空になったスープのはいっていた鍋は、深夜、アオケシの嘔吐により混沌と変わっていた。
メハジキは、これを見て、アオケシを優しくすると不幸でも起きるのかと戦慄するのであった。
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「「かんぱーい!」」
アクタとアオケシは、昼間から賑わうバーで高いビールを乾杯した。
落果のバーは、事件は起きないほうが珍しい場所のはずなのに、バーにいる客は、お互いが笑いながら酒を食らっていた。
まるでそれが当たり前のように。
「ぷはー、昼から仕事をさぼって飲むお酒は最高!」
「そうですよね! 私も仕事ばかりで……ですが大人になってこうやってアオちゃんとお酒が飲めるようになるなんて」
「それー、アクタに関しては死んでたと思っていたし」
「うわ、ひどいですね。アオちゃんらしいですが……ぎゃははは」
二人は、ビールを飲み笑っていた。
「おっと、ごめんなさい」
「いえいえこちらこそ、ボーとしていたので」
酒を持って歩いていた男が、他の客にあたり、酒をひっかけてしまう。
お互いはにこやかに笑って許しあい、席に戻っていく。
「いやー平和は良いですね。昼からゆっくりとお酒が飲めるんですから」
「まー、私は、仕事が減って上がったりなんだけどね」
「えー、たまには休まないと、アオちゃんは、休まなすぎだよ」
「そーう?」
テーブル席では、夫婦が笑顔で喋っていた。
「私、いい加減あなたの借金のために風俗で働くのにはうんざりだからやめるね」
「そっか、分かった、じゃあ、お金なくなるしどうしよっか」
「どうしようもなくね。死にましょうよ」
不穏な会話をしていた夫婦であったが、そんなバーを静かに開けるカタギではない男が、店内に入るとマスターが嬉しそうに声をかける。
「いらっしゃい!」
「ああ、マスターごめん。今日は、飲みに来たんじゃなくて、そこの夫婦に用があるんだ」
「はいよ。じゃあ、いっぱいだけサービス入れておきますね!」
マスターは、ウィスキーのロックを作るとカタギではない男に手渡す。
「ありがとな……。やあ、お前たち今月の返済滞っているけどどんな感じ?」
「あ、クザヤさん、すみませんコイツが風俗をやめてしまって」
「そそ、もうキモいオッサンに体売るのとか無理と思って~。死にまーす!」
「そっか、じゃあ、どうするのさ。返せる分でも返して欲しいんだが」
「おれは、高跳びしますねー」
「おお、分かった。覚悟しておけ~。捕まえたら、内臓売ってやるから」
「なるほど~。じゃあ折角ですし……かんぱ~い」
「「かんぱ~い」」
そして男と夫婦が同じ席で酒を飲みかわす。
「……」
「アオちゃん、どったん? 急に黙って」
異常な落果のバー。
喧嘩が不自然に少なく、互いが笑顔で笑いあう世界。
アオケシは、そんな世界を見て、とことん……。
「つまらない」
つい、親友の前で本音つぶやいてしまった。
「アオちゃん、きゅ、急にどうしたの? え、えと私なんか変なこと言った?」
「ああ、ごめん。たださ、この気味の悪いほど平和な世界が気持ち悪くて」
「……」
「「「……」」」
瞬間、バーの客やマスターが、動きを止めアオケシを睨みつける。
アクタも、つい黙ってしまったが、笑顔を崩すことは無い。
「えー、なんで? 静かにお酒が飲めるんだよ。最高じゃない? それに今のこの落果なら、私とアオちゃんは死ぬまでずっと静かに二人で楽しくお酒を飲めるし」
「いや、今日だって、このバーに来れば、入隊試験に必要な事件の解決に一役買うかな、とか思ったけど……それ以上に仕事とか関係なしにこの状況は楽しくない」
「えー、アオちゃんは相変わらず休み方が分かっていないなー。仕事はもうずっと忘れていればいいのに。別に私と行動を一緒にするなら、特殊部隊へ入隊する必要もないし。それくらい私はえらくなったので! 任せて、一生静かに本が読めるよ」
「……別に私は本だけを読みたいわけじゃない」
「でも昔は本ばかり読んでいたじゃん」
アオケシは、本が好きだ。
自分の知らない知識が手に入るからだ。
アオケシは、ゲームが好きだ。
違う自分としての行動原理が知れるからだ。
アオケシは、電子機器端末がすきだ。
気軽に知らない世界の知識を集められるから。
アオケシは、人間が好きだ。
自分の理解できない行動で、新たな知識を生み出すから。
アオケシは、アオケシは不変の平静が嫌いだ。
何も変わらない世界、何も動かない世界は停滞しなにも生み出さないから。
「私は……」
「アオちゃん。この世界素敵でしょう?」
アオケシは楽しいか否か、それでしか物事が判断できない。だから。
「この世界は、つまらない。楽しくないから、元に戻しなさい。『アクタ』だったなにか」
「アオちゃん、ヤダな私はアクタだよ」
アクタ……のような何かは笑いながら酒を飲み、カタギではない男のウィスキーを一気に飲み、ふー、とため息をつき。
「だから、アオちゃん。私とずっと、毎日、お酒を飲もう」
「いやだね」
沈黙。
そしてアクタは、空になったグラスでカタギではない男の頭を思いっきり殴りつけ、男の頭は、吹き飛び血を流し倒れるが、誰も叫ばずそのまま酒を飲み続ける。
「アオちゃんは、血が好きなの? それなら定期的に『私たち』を殺しても良いよ」
「やっぱり、アクタ。あなたはもう、私の知っているアクタじゃないのね」
「やだなー。私たちは、ずっとアクタだし、アオちゃんが望めば、別の私にもなれるよ」
アクタは、落ちていた空のグラスで吹き飛んだ男の頭からたれる血を飲み干す。
アクタの姿は、男の姿になる。
「私たちは、全員、私たち。アオちゃんが望むなら、もっと私を増やすけど」
「……そう、じゃあ、全員死ね」
アオケシは、グラスをアクタだった何かに投げつけようとするが、体が動かない。
「やだな、アオちゃん」
「暴力はダメだよ」
「私たちの一部を飲んだんだから、動ける訳ないじゃん」
「まあ、不死は、私として浸食はできないみたいだけどしょうがない」
「そうだねしょうがない」
バーにいた全員の顔がアクタに変わるとアオケシに優しく注意する。
「……そう。で? 私が動けないから言う事を聞けと」
アオケシは動じない。目の前にいるなには、もう自分の知るアクタではないのだ。
それに比べればもう何かで驚くことなどない。
アクタたちが、揃った声で言った。
「ちがうよ」
「ずっと一緒に暮らそう」
「「「「アオちゃん」」」」
「……すぅぅぅぅぅ」
アオケシは、こっそりと通話中にしていた旧式の携帯電話に向かって大声で叫んだ。
「助けて! マリィィィィィィぃィ!」
「かしこまりましたご主人様あぁぁぁぁぁ!」
刹那、バーの窓ガラス突き破り、マリーがアオケシに抱き着いた。
そして、マリーは、アオケシを抱えるとアクタを見て嫌味な顔で笑った。
「おまえは」
「あのくだらないグリモワール」
「アオちゃんをカエセ!」
マリーは、アオケシの体を収集すると立ち上がり、アクタの一人につばを吐きつける。
「気持ち悪いですわ~。ご主人様の自称親友がこんなにいっぱい。このロクデナシなサイコパスにこんなに多くの友人がいる訳ないじゃないですか!」
「カエセ! カエセえぇぇぇぇ!」
アクタたちは、マリーに向かって雪崩のように突っ込んでくるがマリーは慌てない。
「『収集』『取り出し』」
アクタの雪崩を一度すべて吸収し、自分の後ろにすべてのアクタを吐き出すと全力で外に向かって逃げ出した。
「塵も積もれば山となるでしたっけ? ですが所詮はちり芥! 積もろうがゴミはゴミ! と言う訳で戦略的撤退ですわ!」
町中に増えるアクタが真理を捕まえようとするが、マリーは、収集と収取したものをそのまま掃き出し足場として空中を走って逃げていく。
「カエセえぇぇぇぇぇ」
「いやですわー! 天才の私、道徳の授業で習いましたの! 悪い人には付いて行っちゃいけないのですわー! と言う訳でさようならぁぁぁ!」
アオケシを抱えたマリーは、アクタの目をかいくぐるため、トリカブトの指定したルートを走り、アクタから逃げだした。
「カエセ! カエセ!」
町中に跋扈するアクタ達は、カエセと同じことを叫び続けるだけであった。




