29『昼から破戒尼と』
「おかしい……あれから3日たったけどこの落果で起きる事件が驚くほど減っているわ」
『いい事じゃないですか、平和なら、戦う必要もなく、ご主人様は、死ぬまで読書ができますし……私ものんびりとゲームでもして……』
「いやこの3日で解決した事件は7個、残り3個なのにその3個が全然見つからない。このままじゃ私たちは、特殊部隊員になる事なんてできないじゃない、そうしたら……封印されて……まあ、困るでしょうにお互い」
『まあ、多少は』
「『はぁ……』」
落果の中にあるカフェ『薬膳』、本来は、紅茶の茶葉に麻薬を混ぜ販売する落果でも有名な麻薬売買が行われているカフェ。
落果の住民でも治安が悪いが悪いと言い寄り付かない『薬膳』であったが、なぜか今日に限って麻薬の売人が全くおらず平和な日常を送っていた。
「うーん、『薬膳』で事件が起きないなんて……ねえマリー、アンタ、そこら辺のチンピラに喧嘩売ってきなさいよ。そうすれば、そいつを捕まえて事件解決に」
『なんというマッチポンプ……良いですが……』
マリーは、アオケシから離れ、メイド服の美少女に戻るといっぱいの紅茶を啜る。
「あ、美味しいですわ……と、きゃあ!」
マリーは、収集でしまっていた激熱の紅茶をわざとらしく通行人にかける。
「……」
「すみません……手元が狂ってしまい……あら、失礼!」
そして見知らぬ相手に全力で回し蹴りを入れようとした瞬間、そのシスター服の彼女は、マリーゴールドの回し蹴りを受け止める。
「な! デカ女!」
マリーゴールドは、驚いて、その顔を見ると、一瞬見たことある優しそうな……そして、どこまでも深い慈悲のある女性……アクタであった。
「もう……私じゃなかったら大けがよ……マリーちゃん。アオちゃん」
「ふ、ふにゅうぅぅ……」
「あ、あああ、ああ!」
アオケシは、そこに居るはずのないアクタをみて変な声を出してしまう。
アクタは、アオケシを見て優しく笑う。
「あう、こ、これは……マリーをけしかけて事件を増やそうとしたけど……」
「だと思った! アオちゃん、やるって決めたたらズルだってしてたしね」
「そりゃ……私だって封印は嫌だし」
「うーん、だとしても自分で事件を起こしてそれを解決するって言うのは、絶対にやっちゃダメだよ……」
「ぐぬ」
アクタマリーを人形のように抱きしめ優しく笑うが、その体術は、普通の人間の動きではなかった。魔王の書を討伐したパーティーとは聞いていたが、ここまで強いとは、あおけしもおどろいていた。
「……おーい。お前ら見ていたぞ。なにお偉いさんに茶ぶっかけているんだ」
「あ、トリカブトさん」
「と、トーちゃん!」
二人の間に突然、トリカブトがくわえタバコをして間に入っていった。
トリカブトの冷たい目は、アオケシに向かっていた。
「おい、トーちゃんか無しいよ。市民の平和を守る僕たちが、市民に手を上げようとするなんて」
「あらトリカブトさん、お上手ですわ。子供の癇癪くらいで私は怒りませんわ」
「ですがねー、大人として部下の不始末にはペナルティを与えなければいけないのですよ。さてアオケシ今回のペナルティは……次、アオケシが死ぬまでマリーは俺の元で道徳学習だ」
「な! 道徳の無いやつから教わったラマリーが悪い子に!」
「……別に、ここで死んでもいいが。どうする?」
トリカブトは、銃を構え片手でマリーを背負うとアオケシもまいったと手を上げる。
「はいはい降参……まいりました」
「…てんならいい。アクタさん、服の請求は、どうぞ我が部隊にお願いします」
「あら~良いですよ」
アクタが、そう言うと、トリカブトは、マリーを抱えて一瞬でその場から消えていった。
「……」
「ねえねえ、アオちゃん。一緒にお茶でもしない?」
「は、え……うん」
急な展開にアオケシは、付いて行くことができずに茫然とその申し出を受けてしまったのであった。
そして急に始まった女子会。
すでに30分以上アクタが一人で話していた。
「でね~その時健吾ったら」
「……うん。へー」
「あ、アオちゃん、露骨に興味が無いのはどうなの? 折角、旧友の私とのティータイムなのに、面白くなさそう。せっかくの休日楽しもうよ」
「いや、私は、仕事中なの……事件が無くて困っているんだけどね」
薬膳でお茶を飲みながら楽しそうにアクタは話しているが、どこかアオケシは上の空だった。
「うーん、アオちゃんって真面目だよね」
「この私が! あ、アクタは、目、ちゃんとある?」
アオケシは、自分が言われたことのない評価に驚き、目を見開くのだがアクタはそれを見てつい笑ってしまう。
「あははは、だって、仕事で悪い人を捕まえているんでしょう。旧友の私にあってもそのことは頭から離れていないし、休み、取っている?」
「いや、休みを取っている暇なんて……」
「いや、一週間あったら、二日は休んでも問題ないじゃない!」
「はぁ……」
確かに最近はノルマのことで頭がいっぱいで休むことはしていなかったアオケシ。
だが、あと四日で犯罪防止3回……アオケシの頭にあることがよぎる。
「あれ、落果なら、別に休んでいても問題なくない?」
「うん、アオちゃんって、昔から本を読みだしたら止まらないし、自主休暇というかサボることもなく何でも全力というか……そんなんじゃ壊れちゃうよ」
「うーん、そうだけど休みか……この前の休みもマリーの方が出かけたりして楽しんでいたし……あれ、私って俗にいう仕事の虫って奴?」
アオケシは、自分がまともに休んだのが牢屋の中で何もせず本を読んでいただけだと思うと急に将来が不安になってしまっていた。
「そそ、だから今日はお休み~。私と昔できなかったことでもしませんか?」
「昔、できなかったこと?」
「うん! マスター! お金置いておくね!」
アクタは、お金をテーブルに置くとアオケシの手を引き落果の街を走り出す。
「ちょ! あ、アクタ! 待って! 私は……」
「行くっていてないけど私が行きたいので行きましょー!」
こうなったアクタは、絶対に譲らない、アオケシは諦めて、アクタに手を引かれ落果の商店街を走っていった。
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落果の出店街、落果の中でも珍しく行政からっ許可を取り営業される落果の中では安全な屋台街、違法な食材は出ない、味もそれなりと、落果の中では異質なほど普通な屋台街。
それゆえ犯罪も起きそうなのだが……。
「お、アクタ様にアオケシちゃん! 二人で来るなんて珍しいね。食っていく? ヤキトリ」
「うん! いっぱい下さい!」
「ちょ、ちょいアクタ、私、あまりお金……」
「安心して! 今日は私が奢るから!」
おごりという言葉にアオケシは、つい心が動き、店主の厳ついおじさんに勢いよく注文を追加する。普段はやさしいが、泥棒に対しては容赦のない元傭兵たちが運営するため、泥棒をしようものなら、憲兵より厄介な集団を相手にしないといけない為犯罪が少ない商店街。
アオケシも安全な商店街でつい気が緩んでしまう。
「鳥ホルモンにレバー! あと、ハツ! 追加で! あと、おっちゃん! これに合う飲み物……」
「なら、ビール! 落果ビールじゃない普通の奴! 私とアオちゃんに」
「あいよ! 準備するよ! 一万ゴルドーね!」
アオケシの頭は一瞬フリーズする。
昼間からお酒、それも注文したのは現役シスターのアクタ。本来シスターとは、禁酒禁煙禁性。中々教義が堅苦しいものなのであったが、アクタからその堅苦しさが無いのだ。
「あ、アクタ、昼からお酒なんて……」
「うーん、アオちゃんはね……休み方を知らないんだよ。私がね、教えてあげる」
「う……」
知らない。
その言葉は、知識を求めるアオケシにとっては、体験して知りたいものであり、知らないことを知ってしまうとアオケシは止められなかった。
「あいよ! ビールに焼き鳥お待ち! あっちに椅子あるからあっちで食っていいよ!」
「ありがとーマスター! じゃ、行こうかアオちゃん」
「え、あ…………知らないか。……行く!」
アオケシとアクタは、ベンチに座ると焼き鳥を置き、キンキンに冷えたビールを持つと二人で乾杯をする。
「「かんぱーい!」」
そして二人は、勢いよくビールに口をつけごくごくと飲みだす。
「「ぷっはー! ウマいそして!」」
ヤキトリ、甘辛いたれのかかった炭火の焼き鳥には、炭ならではの香ばしい匂いが二人の嗅覚を刺激し、口に付ける。
刹那あふれる肉汁に広がる香り、脂っこいと思うがここに追加でビールを一気に飲む。
「カー! 仕事を休んで飲むこの感じ、これが良い!」
「分かる! うーん、仕事をさぼって飲むビールは最高だね!アオちゃん!」
「ちょ! 仕事サボってるのアクタ! ……ごくごく、ま、いっか、おかわりしていい?」
「ぎゃはは、いいの、いいの! ごく! パー! 私も飲みほしたから一緒に頼もう!」
二人でビールをおかわりして追加で来たビールに口をつけて飲みだす。
「というか、仕事サボって飲むなんて、アクタはとんだ破戒僧ね」
「まあ、破戒尼だけどね! ぎゃはは! て、あれ?」
二人は気分が上がり美味しくお酒を飲んでいると、食べようとしたヤキトリがなくなっており、路地の奥を見ると、兄妹が二人のヤキトリを持って逃げていく。
「あー、持ってかれちゃったね。まあ、これも落果名物……ってアオちゃん!」
「8件目の事件み~っけ!」
アオケシは、驚くほどの速さで、飛び出し、兄妹の前に立ちはだかる。
アクタは、アオケシの行動理念である目的のためなら何でもするというものを思い出し少し慌ててしまうが、アオケシの表情を見て、心配する必要が無いと分かったのか足を止めてアオケシを見ていた。
「やあやあ、泥棒とは感心しないね。落果とは言え、盗みを働けば犯罪、それは分かるかな~僕たちぃ?」
「な、なにが犯罪だ! こんな腐った街! 大人はもっと悪いことしているじゃないか! 大人がやっているのに僕たちがやっていけない理由なんてないだろう!」
「お、お兄ちゃんお腹すいた……」
「やだぁ~子どもだから許されるとか、大人がやっていいとかないよねぇ~!」
アオケシは、手元にあった鉄パイプを持つと地面に叩き二人を脅す。
妹は怯えて兄の後ろに隠れるが、兄は妹を守ろうと震える手を握りしめる。
「ぼ、僕はどうしてもいいけど……妹のアサガオには何もしないでくれ! するって言うなら、僕はお、お前を倒す。僕はお兄ちゃんだ!」
見るからに孤児の兄妹。腹も好いているのだろう。だがアオケシは、このまま二人が過ごしたらどうなってしまうのか、そう考え、悪役を続ける。
「ふーんじゃあ、私がこんなに強くても!」
アオケシは鉄パイプで路地の壁を思いっきり破壊する。しかし、少年は引かない。
「お、大人はいつもそうだ! 殴れば僕たち子供が言う事を聞くと! けど子どもだって言いたいことは一杯あるんだ! ぼ、僕は屈しないぞ!」
「ふーん。確かに大人は、腐った子ども以下の奴もいるけどさ……だからって子供まで同じ道をたどる必要はないと思うのよね。大人が腐って、子どもが腐りだす。それで生まれた子供に居分のうけた苦痛を与え……あ~ら不思議、この世界はさらに腐っていきました! 君が、この腐った世界で腐る理由にはならなくない!」
「けど、お金はない!」
「別に私はお金なんて欲しくない。なんだって私には何でも奢ってくれる親友がいるもんね! この世界でも腐ることなく楽しめますぅ! さあ、君たちは何をくれるのかな! あーははははははは!」
二人を脅すアオケシ、兄は、怯えてしまうが、後ろに隠れていた少女が、兄の前に立つと一輪のタンポポの花をアオケシに持っていく。
「私、これを見つけたの……綺麗なお花がね。お家の近くに生えていたの。これ、なら、あげられ……ます」
「……お、おい、アサガオ」
タンポポの花を受け取ったアオケシは、二人を品定めするように眺める。
「うーん。買った! この花は薬にもなる花よ! そうねお代は……そのヤキトリでどう?」
「いいのかよ……こんな花食えもしないのに!」
兄は、アオケシを睨むが、アオケシは笑って答える。
「いい大人はね。花を愛でる余裕があるの。だからアンタたちも、現状に腐らないで、ちゃんとした大人を頼りなさい、ちゃんとした大人にちゃんとしたお金の稼ぎ方を教わって、次はお金で食べ物を買いなさい。ちゃんとしていればいいことあるから……そうだ、コレ落果食材飯店って言う私の行きつけの店、ここの店主は、落果一顔が怖いけどちゃんとした大人。この手紙を見せればいいから……」
「けど……」
「ほら行け! 悪い大人の気が変わる前にさっさと決断しろ」
アオケシは、ジェイコブ……見ると卒倒するほど恐ろしい見た目で優しい大人への紹介状を少年に手渡すと少年の背中を叩く。
「行こうアサガオ」
「うん! お兄ちゃん!」
少年は妹の手を引き走っていくとアオケシは風とため息をついた。
「疲れた~」
「あ、アオちゃん、どう? 宗教とか興味ない?」
「それ友達に言っちゃいけないセリフよ、アクタ~」
アクタの以外層に驚いた顔を見てアオケシはふと本音を漏らしてしまい二人は元のベンチに戻っていった。
「けど以外、アオちゃんが人助けなんて」
「いやいや、これで残り二回事件を防げばいいの! 私は良い大人ムーブができるし、試験も進められる! そして、親友がその分奢ってくれるから、なんと一石三鳥なのよ!」
アオケシは少し顔を赤くして笑うがアクタは、知っていた。
自分達の子ども時代は最悪であったから、今の子どもに同じ目に合わせる訳にはいかないというアオケシの優しさと照れ隠し。
「アオちゃん……照れている?」
「て、照れてない!」
「ぎゃはははははは! アオちゃんサイコー」
「まったく……シスターがその笑い方ってどうなのさ」
二人の昼飲み街道は、二人の笑顔で続いていくのであった。




