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26『こども』

「よし揃ったな。新人ども。お前らにはこの腐った最低なゴミ虫として、ゴミ拾いだ。一日に落果で起こる事件を死者0人で解決。これを一週間続けろ」

「それだけですかとーちゃん様。そんなの余裕じゃないですか? ぎゃ!」

「マリーが死んだ! いや、トーちゃん。けどそれじゃ、私は死なな……ぎゃ!」


 翌日、誰もいなくなった廃ラブホテル、暫定中央監査機構の事務所のロビー、スーツを着たアオケシとメイド服のマリーゴールドは、トリカブトに自分の意見を話そうとすると、どこからか出てきた剣が二人の喉元を切り裂いた。


「はいアウト。おじさん、死者0人って言ったよね。それ『お前たち』も含めてだ。ちなみに、事件の合間で俺達、中央管理機関特殊部隊がお前たちを殺しにかかるからな。一週間、死者0人なら合格。1か月以内に達成できなかったらお前ら、封印して魔王の書と同じ処理な」

「り、理不尽ですわ! そんな、体内から武器で切り裂いてくる相手に死者0人なんて! 私だけなら『収集』でどうにかなりますが、死ぬ前提の戦い方をしているご主人様込みだと、難しいです! せめて、せめて! 私は、死にませんので封印はご主人様だけに!」


マリーゴールドは、無限の性質付与で蘇るとトリカブトに抵抗、そして自分だけこの無茶ぶりから逃げようとするが、アオケシは、よみがえり、一人でぶつぶつ喋りだす。


「……武器が体を引き裂くまで約1秒。条件は……。それに、この条件なら、少なくとも『達人』『武器』『罰』……そして『時間』が敵という事。条件をまとめて死なない為には」

「ご、ご主人様! どうしたのですか! ついに本当に頭がおかしく!」


動揺するマリーゴールドだが、トリカブトは、それを見て無表情な顔が少し感心したような顔に変わる。


「いいぞ。お前ら二人とも。まずマリーゴールド。お前は、性格が終わっている。現実を正確に理解して心の底から愛している主人すら見捨てて生きて、任務達成をしようとする気概。勝つために負ける可能性を排除できるのは良い。俺達みたいな頭のおかしい連中には適任だ」

「ほ、褒められている気がしません」


マリーゴールドは、どうしてか褒められているような気がせず、苦笑いをするが、トリカブトは次にアオケシを見る。


「未知である、『達人』『罰』に関しては、失敗前提で一度死んで撤退……これをして」

「おい、新人。上司が話しているんだぞ」

「……」

「あーご主人様は、本を読みだしたり、考え出すと人の話しなどそっちのけで……」


マリーゴールドは、悪い予感がして、トリカブトに取り繕おうとするが、すでに時は遅く、トリカブトは、アオケシに手をかざす。


「先生の話はちゃんと聞きなさい『斧』」

「今!」


アオケシは、トリカブトが斧でアオケシの首を跳ね飛ばそうとした瞬間、マリーゴールドには何が起きたか分からなかった。

アオケシは、トリカブトの股下をスライディングで背後を取ると、斧は、アオケシが座っていた場所に出てきてアオケシの体を裂くことは無かった。


「……」


そして、トリカブトを背中から、押し倒し拘束に成功する。


「よし勝った! やっぱり、『武器』は、視界内の空間に武器を無理やりねじ込む魔法! つまり、視界外に出れば、体内から武器が出ることは無いってことじゃない!」

「うん。お前も最高だ、アオケシ。判断力、現状を打開するための知識と考察。戦い方は脳筋だが、その内は恐ろしいほど冷たく冷静。その矛盾は、ウチで一番大事だ……だが、原石。詰めが甘い『銃弾』」

「な、視界外から……」


アオケシはトリカブトの背中から飛んできた銃弾での脳天を吹き飛ばす。

力なく倒れたアオケシをどかして、トリカブトは立ち上がる。


「スーツが汚れた。あーあ、こりゃ11回目に別れた妻からもらったやつなんだけどな」

「……てて、トーちゃん。な、なんで」

「? いや、視界云々の話は正解だが、『武器』の本質は視界内の空間と自分の身体の武器化……『収集』のグリモワールと一緒。『収集』『簒奪使用』があるようなものだ。それに手の内は、隠したもん勝ち常識だぞ」


アオケシが立ち上がると、マリーゴールドは、アオケシの隣に立ち支えるように肩を貸すとトリカブトは、二人の問題点を話した。


「アオケシ、お前は、不死に頼りすぎ。マリーゴールドお前は、勝利に固執しすぎて、真剣な場でも遊びを入れる。この欠点、1か月以内に克服しろ」


アオケシの不死禁止、マリーゴールドの勝利への固執。それを封印された訓練の内容。

アオケシとマリーゴールドの背筋は、自然と伸びる。


「「……ヤダ!」」


そして、本心をトリカブトに伝える。それは拒否。だがトリカブトも動じることは無い。


「否定か。んで理由は? 理由次第じゃ、かなしいなー。封印だ」

「だって! 中央監査に入って何を目指すか、トロフィーが分からないもん! それに私は、弱くないですわ!」

「そそ! 私は、ただ本を読んで平穏に暮らしたいだけ! この前のエデン教会での

事案もそうだけど、結構危険な職場に私の永遠読書ライフのビジョンが見えない! 後、別にここで働くアドバンテージなんて普通に本を読んでいけるだけの生活ができる。休みがある! それ以外にいい所なんてない! 仕事なんてないほうが、個人的にはベストだもん!」

「……」


トリカブトは、二人の頭に手を近づける。

二人は、反抗した報復で殺されると防御の姿勢を取るが、トリカブトは意外にも普通に二人の頭をなでた。しかし目は笑っていない。


「花丸。いい回答だ。簡単に従わない人材なら中央監査機関の全部を話す価値がある」

「「は?」」


二人は、茫然とするが、トリカブトは、二人の頭から手を離すと中央監査機関の目的を話し出した。


「俺達、中央監査機関は、魔王の書を完全にこの世から消す。そして次の魔王の書を産まない為の組織。それが目的だ」

「ま、魔王の書!」

「ご、ご主人様」


魔王の書と聞き目をキラキラさせるアオケシにそれを見てマジかと頭を抱えるマリーゴールドをよそに話トリカブトは続ける。


「さらに完全に消滅させることのできない現存する魔王の書を消す方法を調べるため、全世界に監査という名目で世界に行く。つまり、勝負し放題、グリモワール読み放題」


勝負、グリモワール読み放題その言葉を聞いた瞬間、アオケシとマリーゴールドは、トリカブトに向かい敬礼をした。


「「欠点の克服、委細すべて了解いたしました!」」

「よし、じゃあ始めようか。新人いびりを」


こうして、トリカブトの一言で

アオケシたちは、廃ラブホテルを全力で駆け出す。

落果の街は相変わらずの天気、外走る二人は、その間に一体化でマリーゴールドが服になった。アオケシはふと、マリーゴールドに聞く。


「ねえ、マリー。私と勝利、どっちかしか選べないならどうする」

『ご主人様、それは、目の前に読んだことのない本が二冊だけど、一冊を手に取るともう一冊が一生読めないという質問です。答えられません』

「あーね。それなら分かるわ」


人は、二者択一を選ばない。どっちも手に入れるため考え、子どものように足掻く。

それがアオケシと、マリーゴールドなのであった。


「あ、さっそく事件だ」

『行きましょう! ご主人様!』


選択を拒む子どもの様な二人は、叫び声の聞こえる方向へと駆け出していった。

この時二人は気が付かなった。

どこか落果の様子がおかしいということに、小さな狂気は確実に街に根を張りだしていた。


***********************************************************************************


「健吾! 久しぶりです! アクタ、ただいま到着いたしました!」

「おかえり! アクタ待っていたよ! 道中大変だったでしょう!」


 アクタは、健吾に抱き着くと健吾も少し恥ずかしそうに照れてしまうが、しっかりとあいさつをした。


「ええ、でも、どの町も全部、勇者パーティー僧侶の私が平和にしてきたの」

「うん、平和は良いことだ。僕の求める世界に争いはいらないからね」

「本当にどの町も大変だったのよ。中央の人たちに見つからないように動くのは」

「良かった。気取られていないという事だね」

「ええ! それに『私』のアオちゃんも最高に私好みだった!」


アクタは、健吾から離れると踊るように執務室を踊りだす。

それはまるで、花畑を走る女の子のように。


「ああ、アオちゃん。私のアオちゃん。どんなに落ちて、壊れても懸命に生きて知識を求めるアオちゃん。常人じゃ理解できない考え方と発想。全部が愛しい……あはははは。ああ、エデン教会と菫三色の破門集団を潰した時のアオちゃんの活躍もちゃんと見たかったのに」

「……本当にアクタの女の子の趣味はどうにかしたほうが良いと思うよ。好きな子を喜ばせるためだけに元とはいえ自分と同じ信者を差し向けるのは」


アクタ……勇者パーティーの僧侶にして、中央教会……菫三色教会総本山の教皇に次ぐ大司教。

中央に根付く、国教である菫三色。

アクタ大司教、信仰のグリモワールを持ち魔王の書を打倒した彼女は、どこか歪んだような、笑いをしていた。


「あははは、ヤダな。健吾君は、好きな子にプレゼントを渡すし、ちょっと相手が嫌なことをやって気を惹くでしょう。私だって同じじゃない!」

「……小学生ですか」

「しょうがくせい? 分かんないけどそれでいいや。とにかく私はアオちゃんが欲しいの! 私が欲しいのは、壊れた今のあの子! だから私はこの落果を平和にしてあげるの! そうすればあの子は、私だけを見てくれる! 流石は、私! 天才!」

「まあ、僕も仲間ですし手伝いますよ。落果を平和にしたいのは同じですし」

「じゃあ計画なんだけど」


アクタは、自分が子供のようだと言われていることに気が付いていたが、何でもいい。

彼女にとってはアオケシがすべて。

そのためなら何にだってなれる、彼女の話す話の内容は、あまりにも幼稚で。


「……頭おかしいでしょう」

「ありがとう健吾! よろしくね」

「よろしくお願いいたします」


どこか的のはずれたものなのであった。


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