16.『胃薬。いい薬です』
「ボス……準備は万端です。ですがあっちも、用心棒……落果の知識狂人を護衛に付けたようです」
「……問題ない」
落果の違法建築街のどこかの雑居ビル。
黒装束を着た菫三色の幹部は、椅子に座る20代後半の華奢な男に話すが、男は、自信満々に一言で会話を終わらせる。
「ですが、知識狂人は、死んでも蘇るという噂まで……」
「大丈夫だよ。僕の生成チートに敵はないから。とにかく人を集めて、強襲は、明日の夜だよ」
「か、かしこまりました」
そう言い、部下の黒装束は、後ろに下がると、ボスと呼ばれた男は、一人嬉しそうに声を上げた。
「やったー! ついに僕、阿久津世界の義族としてのファーストステージだ! このスキルでまずは町にはびこる悪、そして、知識狂人とか言ういかにも序盤ボスをどうやって倒そうかな!」
男……阿久津は、ローブを脱ぐと嬉しそうに床にダイブするとそこには、突然や柔らかいベッドが出てくる。そのままベッドにダイブをすると嬉しそうに喋りだす。
「くふふ、異世界と言ったらこれだよな」
「ごしゅじんさま……」
「おお、ニャミ、なんだそんな遠慮しなくても入ってきなよ」
「は、はい……」
お嬢様の様な服を着た白い長い髪と猫の耳をピコピコ動かす、小さな少女ニャミは、四肢に付いた輪っかのあざを隠すように阿久津に近づいてくる。
「も~ニャミは、可愛いんだから。もっと、こっちきて」
「で、ですがこれ以上は奴隷の私が……」
「いやいや形だけだから、奴隷の証を消す魔法を僕は探して君を家族の所に返してあげるから……。遠慮しないで隣、座りな」
「あ、ありがとうございます!」
ニャミは、恥ずかしそうに阿久津の隣にちょこんと座ると、緊張からか体を震わせており、阿久津はその緊張を和らげるようにニャミの小さな体を抱きしめる。
「ニャミは自由だ。何も難しいことは考えなくていい。君は、今、自分がしたいことをやると良いよ」
「……ううう。いいんですか? わ、私はこんな幸せで」
「ああ、もちろん」
「では……」
ニャミは、そう言うと勢いよく阿久津の唇を奪いベッドに倒れこんだ。
「ご主人様にお礼を……」
「もうニャミは全く……」
阿久津は、嬉しそうに笑うが、その目は落果でも目を見張るほど黒いものであった。
***********************************************************************************
落果のネオン街の奥、貴族エリアに佇むエデン教会は、落果からは異常に見えるほどきれいな庭園と金の噴水と神様と思わしき金の像がある成金丸出しな教会の前、メハジキ達は、司祭の使いに庭園の中に案内されていた。
「いやー、お金を摘むとやはり幸福が訪れるのですね」
「……そうなんですね。無知ですみません」
「……」
「……」
アオケシは、中央にしかないと本を、マリーゴールドは、新作のゲームとそれをアオケシと一日中邪魔しない権利を条件に余計なことをしゃべらない様にメハジキが口止めをしているおかげで話はスムーズに進んでいた。
「いえいえ、あなた達、貧乏人も持ちうる財産を投じればエデン教会に入れるのでいかがです? 今なら入会セールとして食品用洗剤も付けますが」
「結構です。俺たちは、それなりに普通の幸せな生活をしているので」
「「……ぷ!」」
使いの人とメハジキの会話を聞いて、アオケシとマリーゴールドは噴き出してしまう。
メハジキは普段から、自分たちの行動に頭と胃を痛くしている癖にどの口がと思い笑ってしまうと使いの人は不思議そうに二人を見る。
「そう言えば後ろのお二人は、喋らないですが何かご事情でも?」
「ああ、こいつらは、この黒髪は、本や知識にしか興味のない狂人で、金髪の頭の足りなそうな女の方は見た目通り、頭の足りないバカな好色家ですので、必要時以外はしゃべらない様です……気にしないでください」
使いの人は、ピースしてアピールするアオケシと、変顔をするマリーゴールドを見るとメハジキと見比べてしまう。
「いや! メッチャ気になるわ!」
そんなくだらない話をしているうちに教会の中に入っていくメハジキ達。
教会の中には椅子と教会神父が立つ祭壇その前には、司祭のカネノムシーンが葉巻を吸って立っていた。
「やあやあ皆さん! 良く来てくれました! 私は……」
カネノムシーンは、偉そうに振り返ると、旧友に合うかの如くフランクなアオケシを見て表情が固まってしまっていた。
「や、カネノムシーン。久しぶり~。お店燃えちゃってそれ以来あってないよね。ごめんね~。ちゃんと転職した子と伝えればよかったよ」
カネノムシーンは、使いに目を向けると一言だけ言い放つ。
「……君、ちょっと外に出ていなさい」
「わ、私ですか」
「早く出ていきなさい!」
「ひゃい!」
怒鳴られたつかいは慌ててその場を後して走って逃げていく。
そして扉が閉まるとカネノムシーンは疲れたようにその場に座り込む。
「ボディガードを依頼したら、推しの娼婦が来た件について……ど、どういうことか。あの新人領主は、わしになぜこんな嫌がらせを」
「いやいや、カノムシーン、私いまは娼婦やめて中央監査機構の雇われをやっているんだ」
「……いや、カネノムシーンさん。分かりますよその頭を抱える気持ち」
カネノムシーンとメハジキは、アオケシを見て溜息をつくが、アオケシは一人ポカンとしていた。
「うーん、それは良いんだけどさ。今のお仕事。私は、カネノムシーンの護衛に来たわけだけど、どういった状況? 普通のレジスタンスならあなたならお金の力で解決できるでしょう」
「いや、今回の暗殺者は、転生者で生成の魔法使い……アクツという者なのじゃが……きゃつめ、金を生成して、ワシの外堀からうめてきおった。さらに……暗殺しようとしても獣人の奴隷がおって……正直領主を頼りにするしかなくなって訳じゃな」
獣人、その言葉を聞いて、アオケシは目を輝かせた。
「やだ! 獣人って動物の耳の生えたあの獣人! すごい、中央や落果じゃ全然見ない山にしかいない希少種族がなんでこんなクソみたいに汚い親父を殺そうとする小物に……」
一瞬空気が凍る。
汚い小物と言われたカネノムシーンは、アオケシを睨むが諦めたようにため息をつく。
「まあ、ええわ……アオケシ、お前は、ワシを守ってくれ……メハジキさんは、そこに居る狂犬とその従僕に首輪をしっかりつけておいてくださいね」
「ま、まあこいつらは、言えばちゃんと話を……」
メハジキは、二人を見る。アオケシは、好奇心が収まらないのかそわそわとしており、マリーゴールドは、ずっとカネノムシーンを睨んでいた。
「獣人……獣人!」
「……ぐるるる。よくもご主人様を汚して平然と……任務じゃなきゃ殺すのに」
「あー。はい、ちゃんと見ておきます」
欲望に忠実過ぎる二人を見てメハジキは、最近買った胃薬を飲むのであった。




