15.『情報源と教会』
「転生者~! ぶっ殺そう~! そして手に入れよ~この世のすべて~」
「レッツ! 殺戮!」
「「いえーい」」
「お前ら! 領事館で物騒な歌を歌うなよ!」
落果領事館の通路、スーツを着たアオケシとメイド服のマリーゴールドは、あまりにも物騒な歌を歌い、メハジキに怒られる。
しかしアオケシと、マリーゴールドは反省をすることなどなかった。
「いや、健吾さん、勇者と言え相手は転生者! 殺して、また私の過去の記憶を……」
「そうです! 記憶を取り戻すのは非常に重要なのですよ」
「いいか、ちょっとでも変な事したら……」
「あ、アオケシさんにメハジキさん! それに……って、わあぁぁぁ!」
メハジキが警告しようとした瞬間、アオケシとマリーゴールドの前に落果の領主兼勇者の異世界転生者の健吾が資料を持って廊下からあるいてきた。
得物を見た途端、アオケシとマリーゴールドは、健吾にとびかかるが、健吾は驚いて資料を落とし二人に手をかざす。
「よっしゃ! その首! ……あ、資料が落ちているわよ……領主様、ご、ごめんなさい!」
「そうですわね……って! ご主人様! 私たちはこの領主をぶち殺そうとしたんじゃないでしたっけ!」
「は、そうだった……のに……うーん、悪い事しちゃったかな」
「ですね。資料を拾うの手伝いましょう」
アオケシとマリーゴールドが健吾の殺害をしようとした瞬間、二人は、健吾が資料を落としたことに対して急に反省をしだした。
「な……」
反省とは無縁な二人の反省に驚くメハジキであったが、困ったと言わんばかりに健吾は、頭を掻いて困ったようにメハジキの元に歩いてきた。
「す、すみません。どうにも俺のスキルが自動発動しちゃって……」
「ああ、領主様は、転生者ですからしょうがないです。それよりもウチの馬鹿共がすみませんでした!」
この世界に人間として転生した転生者は、スキルという魔法とは別の技術を持っており、健吾のスキルが発動した様なのだが、どういったスキルか、メハジキには、見当もついていなかった。
「あーそれは大丈夫ですよ。僕のスキルは『自戒』その相手に自分の行動に対して反省をするスキルですので」
「……ぜひうちに住んで欲しい! アナタがいれば、本の為なら人をも殺す狂人と、頭のおかしいサイコメイドの苦悩から解放される!」
「メハジキ様! 私は嫌ですわ! ご主人様がこんなことになるのならお断りです!」
「あ、私のせいでまた、床が汚れて……」
メハジキは、本気で健吾を家に誘うが、健吾は、床掃除をするアオケシとそれを見て慌てているマリーゴールドを見て気まずそうに断る。
「い、いえ……命がいくつあっても足りなそうなのでお断りしておきますね。そ、それより、ご報告と、次のご依頼がありまして!」
「そ、そんなことって……」
メハジキはどこか残念そうに肩を落とし、全員で執務室に入っていった。
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「はぁーやっぱり椅子って重要ですね~」
「そうね……」
「オイお前ら! いい加減ちゃんと座れ!」
メハジキは、マリーゴールドとの一件を報告している間、退屈になったのかアオケシとマリーゴールドは、椅子にグダッと座っておりメハジキに注意を受けていた。
それを見て、つい健吾は笑ってしまっていた。
「あははは……なんだか、転生前の大学サークルみたいで楽しいな」
「……おお、健吾さん、笑うとなんか人間みたい」
アオケシは、笑った健吾の顔を、興味津々で覗き言った言葉はあまりに独特で、健吾も少し困っていた。
「に、人間って、僕はもともと人間で……」
「うん、そうなんだけど……ほら、マリー、分かるこうー、私の言いたいこと」
「……うーん。私の中では、ご主人様と私以外は、顔の判別があまりつかないのですが……確かにこの顔面なら、裏で高い金額の取引がされますね」
「そうじゃないけど……うーん、もやもやする! 分からないのにその分からない理由すら分からない! 健吾さん! ちょっと一発やってみない?」
「「「な!」」」
アオケシは、胸元のボタンを二つ開け、下着がちらりと見える。そして輪を作った指の中にもう片方の指を入れ前後の運動を真似すると、その場にいるアオケシ以外の表情が固まる。
「いや、だからちょっと性交渉で成功! というか、うーん、男と女って、お互い全部さらけ出せばわからなかった本質も分かるというか…………ぎゃああ! やめ! マリー!」
「ごごご、ご主人様の以前の生業は、私も理解しておりますが! 理解しておりますがあぁぁ! そ、そそそそ、そう言うのは私だけに!」
マリーが慌てて、アオケシの肩を掴みぶんぶんとその行為をやめるように促す。
「め、メハジキさん」
それを見て、健吾は、目のやり場に困り、気まずそうに貧乏ゆすりをしたメハジキに話しかけると、メハジキは、イライラしているのか、目が少し鋭くなっていた。
「領主様……この馬鹿、処しますか? いつでも殺します」
「あ、い、いやいいんだ。そのうん……一応アオケシちゃん、僕を誘った理由を教えてくれないか?」
アオケシは、ポカンとして考える。その間にマリーゴールドは、アオケシの乱れた服を整えた。そしてアオケシは思いついたように手を叩いた。
「健吾さん、童貞みたいな顔して、結構ヤリ手というか……うん、女性を喜ばせるのが得意だと思ったから? ただ検証もしていないので自分の体で検証をと……」
「……転生勇者の苦悩は、今度話すので、次の依頼について話していいでしょうか」
「良いけど……もしたまっても有料だよ」
「結構です……それよりも次の依頼です」
健吾は何か嫌なことを思い出したのかアオケシの発言を止め、無理やり話題を逸らした。アオケシはどこかつまらなそうであった。
「……つまんな」
「つまらなくて結構です。では依頼ですが、正直ウケたくはなかったですので先に謝っておきますが……このエデン教の司祭の護衛を中央監査機関が来るまでお願いしたいのです」
健吾の出してきた資料と写真。
写真には、性格の悪そうな明らかにかつらをかぶった脂ぎった60代ほどの男性が映っていた。
「こ、こいつって……」
メハジキはその写真を見て露骨に嫌そうな顔をするが、アオケシは逆に嬉しそうにその写真を見て笑い出した。
「あ、私が、肉欲で働いていた時の常連さんだ。結構早漏でおだてれば調子に乗るし、結構扱いやすい良客だった人よ」
「……は、話が早くよかったです」
「……もう、何も言いませんよ。私、ご主人様のそう言ったデリカシーのなさにも慣れないといけないと思うので……思うので」
アオケシが娼婦として働いていた時の常連と聞き、マリーゴールドは自分の気を紛らわすようにコップを強く握るが、あまりの握力にコップは、割れてしまい、健吾も気まずい表情をしていた。
「え、えっとですね。まあ、僕が来るまで、エデン教会は前任の領主とずぶずぶな関係で……今回は、縁を切るため最後の依頼として、中央監査機関が来るまでの間の護衛をほぼ今日っ性的に受けることになってしまい……」
「いや、別に依頼ならうけますが、このエデン教の司祭、金と女が好きすぎて、落果ですら評判の悪い絵にかいた悪党ですよ。命を狙われているのだって日常茶飯事。なのになんで今回に限って領主様を頼って来たのですか?」
エデン教司祭、カネノムシーン。
中央から伝わる歴史が浅い新興宗教、金を一度手放し、ここで商売をすれば必ず将来は大金持ちになるという落果らしい怪しい団体だが日頃の悪行から、カネノムシーンを狙う暗殺者は多くいるため、周辺敬語はいつもガチガチのはずなので護衛の必要はないと思っていたが、健吾は首を横に振る。
「いや……実は、落果のレジスタンスの一つ。菫三色という、新興宗教を許さないという銘打った古代カルト集団の団長に転生者が就任したため、今回同じ転生者である僕に護衛を強要……いえ要請してきまして。ただ僕も忙しさゆえ、護衛ができず、同じ転生者であるアオケシさんにご依頼しようと思ったのですが」
「あーあのおじさん結構用心深いしね。私と寝た時も自慢話の中に絶対は、嘘が混ざっていたから、あれは、どんな相手にも警戒しているお客様の行動だしね。分かるわー」
「領主様……し、身辺捜査していただいて申し訳ないのですが、アオケシの情報があまりに正確すぎて……その……」
「い、良いですよ……ぼ、僕も忙しい時間をぬってやりましたが、アオケシさん達に事前にお話ししていなかったのが悪いので」
ぺらぺらとカネノムシーンの個人情報を話すアオケシ。
その情報は、健吾のまとめたカネノムシーンの情報よりも細かいものであり、健吾は、肩を落としていた。
「……という訳で。このオジの情報は以上かしら」
「ご、ご主人様の情報って、落果の有力者の情報を実は網羅しているのではないのでしょうか……正直命を狙われて文句が言えないようなレベルで」
マリーゴールドは、ボソッとつぶやくが、アオケシは思い出したように話し出す。
「ああ、そう言えば、BAR肉欲は、私の持つ情報が鬱陶しくなって偉い人に狙われて前のお家が全焼したんだっけ」
「おい、待て。なら今のお前を住まわしている俺の家もあの店みたいに燃やされる可能性があるのか!」
メハジキはあの惨状を思い出し、真剣にアオケシを追い出そうとするが、アオケシは笑ってその可能性を否定した。
「あーないない。私が初めて惨殺した自警団の中にその偉い人もいたし」
「……あ、頭が痛い」
いつの間にか自分の問題を力だけで解決していたアオケシにメハジキは頭を抱え、マリーゴールドは、アオケシを尊敬の目で見ていた。
「と、とにかく……お願いいたしますね」
「は~い」
健吾の困った顔に目もくれずアオケシは嬉しそうに手を上げた。
こうして、アオケシたちの護衛生活が始まったのであった。




