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14.『R18版はじめてのおつかい』

「らっしゃい! 良いもんあるよ! 一錠一発ガンギマリ!」

「お姉さん、どう? ウチで働かない?」


 昼間なのに排気ガスで薄暗い落果の市街地、マリーゴールドとクロノワールは、二人で、街を歩きながら話していた。


「どうだ、落果の街は、何でもあって、何にもない最高の街だろう!」

「ええ、排気ガスと明らかにヤバいお店がひしめくこの感覚は、元居た世界じゃ味わえな……きゃ! ごめんなさい!」

「こっちこそ、ごめんなねーちゃん!」


そんなマリーゴールドにぶつかって走り去る青年を見て、クロノワールは、マリーゴールドをあざ笑った。


「ぎゃははは! 早速落果の洗礼を受けたな! どうだい! 財布を見てみろよ」

「ああ、財布がすられている奴ですよね」

「お、おう。そうだけどさ。お前ならもっとムキになるかと……」


マリーゴールドは財布をすられても平然としており、クロノワールは少し戸惑う振りをする。


「えへぇ……」

「な、その財布! 嬢ちゃんのじゃないよな!」


にやけるマリーゴールドの手の中には、来た時とは違う財布が手元にあった。


「いやいや、この街をロスサントス……ギャングがひしめく街と考えればこれぐらい当然……『収集』。ね、財布だけポケットに入れて、現金やその他重要物を『取集』で取られないようにすれば完璧でしょう。むしろ、すりから私にお金を貢いでくれますわ」

「あー、そうだった。嬢ちゃんもアオケシの姉さんとタメを張る狂人だったっけ」

「何を言うのですか! ご主人様と比べたら私なんてゴミのような物! 私、昨晩ご主人様に、文字通り無茶苦茶にされながら気が付いたのですわ! ご主人様は、私を本として愛している! 人として見ていただけていない! そんなあの目を見るたびに身が震え喜びだすのでございます! ああ、ご主人様! 私、貴方様に本気で挑み負けたことで、思い知らされましたの! ご主人様は私に勝利以外の愉悦。勝てない相手に挑み続ける理不尽と絶望という愉悦! あれは、ご主人様だけしかできないもので……」


あまりに長いセリフで、アオケシを称えるマリーゴールドをクロノワールは止めた。


「ちょいちょい! お嬢ちゃんが、アオケシの姉さんにおかしくされたのは良く分かったからちょっと待てて! か、買い物、買い物しに来たんだろう。あまり待たせるとアオケシの姉さんに悪いぜ!」

「おお、言われればそうですね。では、続きは買い物をしながら語らいましょう」

「結局、話すのね」


クロノワールは、マリーゴールドの話を聞きながら落果の街を歩く。

違法建築が入り乱れ迷路のようになった建物の間を渡り、マリーゴールドは、手元のメモ用紙を見ていた。


「ここだと思うのですが……」

「なんだそのメモ」

「ご主人様から、いただいたメモです。晩御飯の食材を書くようお願いしたのにほとんど、本や新聞、タブレッド専用の本が入っているソフト……これは、しっかりとお店の場所まで書いてあったのでいいのですが、肝心の食材メモは、あまりにアバウトで」


メモには、この本を買えなど色々細かい指示が入っているが、食材のメモは肉、野菜とかなりアバウトであり、食材のお店が見やたらずマリーゴールドは困り果てていた。


「ああ、落果食材飯店ならここだぞ」

「いやいやこのボロ小屋が落果食材飯店なんてありないです! 食品衛生法!」

「食品……衛生? まあ、ここなら口に入れても問題ないものしか売っていないぞ」

「いやいや、口に入れてはいけないものを売っているお店なんて」

「おー、オジョチャン。イカガ? 一錠でぶっ飛ぶヨ」

「あー。結構です~」


落果に売っているものはまず違法と疑え。

買い物前にアオケシに言われたことをひしひしと感じたマリーゴールドは、妖しい売人を無視して落果食材飯店に逃げるように入っていく。


「いらっしゃい」

「……」


そして、マリーゴールドの思考は一瞬止まる。

目の前にはホッケーマスクをかぶった血まみれエプロン姿の大柄な3メートルある男がマリーゴールドを見下ろすように声をかけた。


「いらっしゃい……いい肉、捌いた」

「……」

「じょ、嬢ちゃん」


マリーゴールドの思考は止まった。血まみれのマスクに鉈を持った姿は、まるでアオケシの様で前日の戦闘のトラウマを思い出し、そのまま気を失っていた。


「お客様……倒れた」

「ああ、ジャイコブ、悪いけどうちのお姫様を休ませてくれないか」

「分かった」


クロノワールはやれやれと、大柄な店員ジェイコブに頼みをいれ、慣れたようにジェイコブは、マリーゴールドを運んで行った。


そして数分後。


「は、ここは!」


 マリーゴールドは、目を覚ますとそこは見知らぬベッド。


「おきた……何を買う?」

「……」

「何買う? さっき捌いた肉。おすすめ」


眼の前には、前世で見たシリアルキラーが鉈と謎の生肉を持って話しかける。


「……あ、あの。私も同じようなお肉に……」

「何を言っている……これ商品。新鮮、まだ心臓動いている」

「おいおい、ジェイコブは、超絶人見知りなんだ。それに見た目もかなり気にしているガラスハート。驚いてやるな」


クロノワールが、ジェイコブの後ろから出てきて悲しそうに目を伏せる。

マリーゴールドは、脳みそをフル回転して、考える。

そして一つの答えに至る。


「も、もしかして! 本当に一般人!」

「うん……肉、中央にある農場から直接契約したミニタウロスの肉」

「紛らわしい!」

「ごめん……」


こうしてマリーゴールドは、食材メモをジェイコブに手渡すと、ジェイコブは嬉しそうに、走り出す。


「なに、作るか分かった。待っていて」

「……人って見た目によりませんね」

「嬢ちゃんだけには言われたくねえよ、ジェイコブも」

「そうでしょうか?」


端正な見た目とは裏腹に、勝利に固執し笑顔で人を殺そうとするマリーゴールド。

彼女ほど、見た目が可愛く、中身は残酷な人などいないだろうとクロノワールはひそかに考えていた。


***********************************************************************************


「か、買ってきました」

「帰ったぜー」


 クロノワールとマリーゴールドは、買ってきたものを体から全部だすとエプロン姿のアオケシが興味深そうに出てきた。


「おかえりー。いや、やっぱり『収集』って優秀な能力よね。これならいくら買っても荷物にならないし」

「帰って早々、人を考察するような目で見ないで欲しいのですが……ってあれ? なぜご主人様がエプロン姿に?」

「そりゃあ、私が料理するから」

「……遺書を書いていいでしょうか」


マリーゴールドは衝撃的な言葉を聞き固まってしまう。

アオケシが料理するという言葉が、明らかに怪しい食べ物の生成に思えてしまい怯えるが、アオケシは不服そうに頬を膨らませた。


「失礼ね。私だって普通に料理ぐらいできるわよ」

「いや! 紫色のメシマズシチューを料理とは言いませんが!」

「マリー、アンタは私をなんだと思っている」

「至高にして崇高なシリアルキラー! 触れるものは等しく臓物に帰る私のご主人様ですが」


本気の目で言うマリーゴールドにアオケシも少しイラっとしていた。


「……よし、こうなったら、私の得意料理を見せてあげるんだから」

「ふ、不安です」


マリーゴールドは不安な気持ちを抑え夕食を待つことにした。


「……おい、マリーゴールド。お前は何買ってきたんだ?」

「肉と卵……あとは聞いたことのない調味料」


 マリーゴールドとメハジキは二人で冷や汗をかきダイニングテーブルに座り話す。

メハジキも、アオケシが料理をするといった時は、ついに一般人を殺したかと思うほど、アオケシと料理は、遠い存在であった。

もちろんこの状況を見てクロノワールは、メハジキの中に隠れ休眠モードに入っていた。


「で、ですが、お肉は、ミニタウロスで、卵も鳥の卵だそうです……」

「へ、変なものは入っていないな」

「当たり前です! 私も食べるのですから普通の物しか買いません」

「……食材は安心するとしても」


二人は、キッチンに目をやる。


「ひっきにくは~優しく空気を抜いて~」


上機嫌に歌いながら料理を進めるアオケシ。普段は、本か臓物、凶器しか握ることのない物騒な手を効率よく動かしていた。

調理担当のメハジキは、手伝おうとしたが、アオケシにそれはダメと言われマリーゴールドと一緒にダイニングで死刑執行の時間をひっそりと待っていた。


「で、ですが……ご主人様はきっとどうにかします。彼女は、俗にいうなろう系俺ツエー系ですし」

「いや、結構死ぬぞ。その分蘇るが……そのなろうけい? の様な自分の強さを表現するような奴でもなさそうだし」

「いや、それマジで強いですよ。戦ってみてください。殺すたびに強くなって蘇る無限の敵……しかも脳筋ではなくしっかりロジカルなタイプ。勝てるビジョンがあると思います?」

「……いやだな」


二人は、アオケシの強さについて話し気を紛らわせていたが、次の瞬間、二人の鼻には、肉の焼けるいい匂いが入ってきていた。


「……け、結構良い匂いがするな」

「で、ですね……なんというか懐かしい」

「懐かしい?」


その匂いをなぜかマリーゴールドは、懐かしさを感じていたが、その懐かしさがどこから来るのかは、分からず戸惑っていた。


「ささ、最後にソースをかけて……完成! さあ、二人ともとりに来て!」

「「……」」


二人は生唾を飲み、覚悟を決め、キッチンにできた料理を見に行くと、そこには茶色いソースのかかった美味しそうな普通のハンバーグと付け合わせがあり二人は目を丸くする。


「ほら、言ったでしょう。私にも料理ができるって」

「こ、これは……普通だ」

「ですね。料理がド下手でなければ、驚くほど上手な訳でもない普通のハンバーグです。ちょ……ちょっと味見しても良いですか?」

「良いわよ」


アオケシは自慢げに小さなフォークで半バークの一部を切り取りマリーゴールドの口に近づける。メハジキは慌てて止めようとするが、マリーゴールドは止まらない。


「あむ……」

「どう? 昔は、本を買うのでお金が足りなかったから結構自炊はしてたんだ」


マリーゴールドは、そんなアオケシの言葉など耳に入らなかった。

懐かしい感覚。

これは、この世界にマリーゴールドが転生する前に、母親が良く作ってくれた手作りハンバーグそのままなのだ。



似ているというレベルではない、全く同じなのだ。



「ご主人様……この味付けは?」

「うーん、結構戦って記憶を奪ったからその中に美味しいハンバーグの作り方の記憶があってね……再現してみたのだけど……ま、マズかった?」

「い、いえ、とても美味しいのです」

「よかったー。じゃあみんなで食べようか」

「……アオケシ、料理普通にできるなら、家事の当番表つくりかえるぞ」

「えー、メハジキの鬼!」


メハジキとアオケシは料理をもってダイニングに歩いていくが、マリーゴールドは、恐怖から、その場に立ち尽くしていた。


「このハンバーグ、前世でお母さんが作っていた味そのまんまだ」


マリーゴールドは、アオケシに一度、何度も殴殺され、廃人人あるまで記憶を奪われ、戻されただから分かる。これは、間違えなくマリーゴールドの前世の知識で作った物だった。


「殺した相手の記憶を再現している……な、なんていう化け物なの……本当に、救いはご主人様が不死の魔法の副次効果に気が付いていない事だわ」


アオケシの『不死』をマリーゴールドは、死なないだけとなめていたが、そんな生易しいものではなかった。

死ねば死ぬほど強くなる肉体、殺せば殺すほど増える記憶と経験の再現する器用さ。

自分が敵うはずがないとマリーゴールドは改めて自覚した。


「死ぬほど強くなるし、殺すほど賢くなり経験が手に入る。それってもう一歩的な搾取でしかないじゃない」


不死によるパワーアップ、殺した相手の記憶を奪う力それは、あまりにも一歩的な理不尽の塊でしかなかった。


「本当……私の所有者様は怖すぎるわ……私どうなっちゃうんだろう」


結局、普通に美味しい食事のはずなのに、マリーゴールドの頭にはもやもやした気持ちが残ることになってしまった。

香る懐かしい香りは、マリーゴールドにとっては恐怖でしかなかった。

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