12.『ポピーのやさしい野望』
アオケシは、マリーゴールドとの戦闘が終わり、落果図書の一室で人間体になったマリーゴールドを抱いて寝ていた。
「くう……」
「な、なんで、今日殺しあった相手をこうもこのご主人さまは、抱いて安眠ができるの?」
記憶が戻ったマリーゴールドは、全身を何度も引き裂かれた恐怖で逃げ出したいが、契約により服従。それは絶対で逃げることも許されず裸で眠るアオケシに抱かれ困惑していた。
「うぅぅ……」
「この人……夢を見ている?」
マリーゴールドは、アオケシの思想もない苦しそうな表情に疑問を持ち、額を合わせる。
「こ、怖いけど、契約した主従関係ならできるはず。『夢の同化』」
マリーゴールドは、アオケシとの契約を利用し、アオケシの夢の中に入り込んでいった。
それをマリーゴールドが後悔するのは、次の朝だった。
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日差しが指す花畑、一人の見知らぬ少女は、花を摘んで楽しそうに花の冠を作っていた。
穏やかな日常のようなアオケシの夢にマリーゴールドは、衝撃を受ける。
「こ、これがご主人様の夢……もっと血みどろな世界かと思ったのに」
そこに座る黒髪の少女は、アオケシと似ても似つかない少女。
声をかけたいが、夢の同化は、あくまで相手のみている夢を見るだけの魔法。
マリーゴールドは、この経緯を見届けることにした。
『ポピー! お昼ご飯よー』
『わーい! ご飯だー! ママー、いつもありがとう!』
「はあぁぁぁぁぁぁぁ! でもあれ完全にご主人様だよね!」
ポピーと呼ばれた少女は、花畑から、母親の方に向かって走っていく。
その横顔は、どこかアオケシの様な純粋さがあった。
そして、マリーゴールドは知った。この少女は、アオケシが、この世界に転生する前の姿だと。自分も前世の記憶を一度奪われたから分かる、この感覚。
アオケシの前世。
ポピーは、アオケシの前世なのだ、マリーゴールドは感覚的にそれを理解してしまう。
そして場面が変わり、木造つくりの日の射す暖かな食卓。
ポピーは、母親と食卓を囲み、手を合わせた。
『いただきます!』
『いただきまーす!』
ポピーは、元気にパンとスープをほおばると口が汚れ、それを見た、母親と思わしき人はポピーの口を優しく拭いてあげた。
『もー、ポピー。元気なのは良いけど、慌てないの』
『ママのごはんがおいしいんだもん』
『も~この子ったら』
『あ、ママ、これあげる!』
母親が苦笑していると、ポピーは何かを思い出したのか椅子に掛けていたカバンから、花の冠を取り出す。
「ひゅ!」
マリーゴールドは血の気が引いた。
アオケシなら、優しい顔で、目の前の女性をだまし討ちして、知識のままにその首をもぎ取ろうとするだろう。
トラウマがよみがえるが、そんなことは起きることもなかった。
『ママ可愛い!』
『も~ポピーは、本当にイタズラが好きね』
『えへへ』
「う、嘘だ! ご主人様がこんな優しいわけない! あの人は、冷酷で残虐、純粋なシリアルキラーなのに」
マリーゴールドは、目の前の現実が受け入れられず叫ぶが、その声は二人に届かない。
笑いあう二人の食卓の間に一匹の青い鳥が飛んでくる。
『あれ、鳥さんだ』
『ほんとうね。迷子かしら?』
『ねえねえ、鳥さん! アナタはどうしてここに来たの?』
「ひゅ!」
ポピーが青い鳥に興味を持った。
再度マリーゴールドのトラウマがよみがえる。
興味を持ったものにアオケシは容赦がない、この鳥もきっと……殺されるだろうそう思ったが、ポピーは、パンをちぎると、青い鳥の前に置いてあげる。
『鳥さんにもあげるー。幸せのおすそ分けぇー』
『ちゅんちゅん』
『あら、ポピーちゃんは本当に優しい子』
「へ」
ポピーは、青い鳥にパンくずを分け与えると笑顔で笑う。
『えへへへ! だって、パパとママは、みんなに優しくって言うもん!』
『本当に優しい子ね』
目の前の光景にマリーゴールドは混乱した。
ありえない、あの狂人に穏やかな日々なんてあり得るはずがない。
マリーゴールドは、アオケシとの戦闘時よりも動揺して震えが止まらない。
「ありえない」
「そうね、人の夢に入り込むなんてありえないわね」
「こ、この声は、ご主人様!」
マリーゴールドが、振り向いた瞬間、そこにアオケシがいた。
刹那、世界は、暗黒に包まれ、マリーゴールドとアオケシだけの冷たい世界に変わる。
「やっほー、契約って結構色々あるのね、マリー」
「ご、ご主人様……いえ、ポピー、あなたはいったい」
震える声で、マリーゴールドは、アオケシにアオケシという存在を問うのだが、アオケシも困ったように首を振る。
「いや、私、前世の記憶とか今までなかったし……マリーと契約したからかしら、これはまるで過去に本当にあったような……」
「え、ご主人様は前世の記憶が無いのですか?」
「ええ、死んで不死になるまで自分が転生者だなんって知らなかったし」
これは、アオケシすら分からない過去の記憶。
マリーゴールドは恐る恐る聞く。
「ご主人様、あなたはどうしたいです? 過去を知りたいですか?」
「……」
アオケシは、一瞬考えるが、マリーゴールドと目が合うとその目は、狂気を秘めたアオケシの知識欲、識欲に染まった表情だった。
「ええ、知りたい! 気になる! なんで私はこの世界に転生したのか、過去の自分は何なのか、全部気になる! だから手伝いなさいマリー」
「それはもちろん私のご主人様に従います。まずは何をいたしましょう」
マリーゴールドは、アオケシの表情を見る。
その勝利に揺るぎのない目。
マリーゴールドは、アオケシに跪き、忠誠を誓うとアオケシは、叫んだ。
「私は、全部を知りたい! マリー! アナタを倒して一つ分かったわ! 私がなんで魔導書を欲しいていたのか! 殺して記憶を奪うのか。魔導書や殺しは、私の過去! それを集めて、私はもう一人の自分、ポピーの最後をしっかりと見たい! 推測するに私の殺す相手は、同じ転生者か、魔導書……マリー地獄までついて来てもらうわよ」
「もちろん」
そして、その残酷な目標。
転生者を欲望のまま殺すというあまりにも欲しいトロフィー。
マリーゴールドの世界に勝利の他に出たのはアオケシへの愛。
アオケシは、マリーゴールドに同意を求め、マリーゴールドも頭を下げる。
「殺そう! 転生者を! 私の為だけに!」
「ええ! 殲滅! 虐殺!」
ああ。私は、この人に付いて行けばきっと誰も手に入れたことのないトロフィーを手に入れられるのだろう。
マリーゴールドの愛は、狂気であった。
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そして、二人の目は覚め、落果の朝がまた来る。
裸で抱き合うマリーゴールドとアオケシ。アオケシは静かに宣言をした。
「これからも二人で魔導書や転生者を殺して回りましょう。私の過去を知るために」
「おおせのままに」
二人のひそかな宣言、密約が小さなベッドの上で結ばれた。
「お前ら……朝から、なんていう格好を」
しかしここは現実、裸で抱き合う二人を見て、メハジキは、頭を押さえる。
「ヤッホー、メハジキおはよ~」
羞恥心をどこかに置いて行ったアオケシは朝の挨拶を飄々と行うのだが、マリーゴールドは、前世から今まで一切の男性経験が無い。
「青い空、白い雲だよ!」
「アオケシ、落果にそれはあり得ない」
二人は風に会話をする。
「……」
マリーゴールドは故に裸など見られたこともない。
「今日は、トーストだ」
「えー、納豆食べたい」
「……」
排気ガスとクラクションが落果を包む。
マリーゴールドは正気に戻る。
顔を真っ赤に染め上げると収集していた枕を手に取り、メハジキに投げつける。
「見るなボケエェェェェ! おんどりゃ、ラブコメの主人公かワレエェェェェ!」
「ばか! グリモワールとビッチの裸になんか興味……わぷ!」
メハジキは弁解をする暇もなく、無限に出続ける枕に窒息死しかけ、アオケシの笑い声が落果に響く。
落果にとってのいつもの日常はこうして今日も始まるのであった。
マリーゴールド編これにて終幕です。
自戒の行進をお楽しみに。なんかいろいろ、ブクマとか、評価があると頑張れます!




