11.『=決着』
「……なんで! なんで死体の一部の収集しか……」
「ばあ、驚いた~? 今の私は、メハジキとクロちゃんを介して、マリーに『収集される前にメハジキは私を殺す』って言う契約をしているの……」
「お前マジで! お陰で俺が、馬鹿みたいな魔導書の前に……停止!」
メハジキによって飛ばされたアオケシの生首は愉快に笑ってネタバラシをするが、マリーゴールドは間髪入れずに銃を乱射。
メハジキは、停止のページで身を守り、アオケシの生首は、肉片になるが、その体は見る見るうちに元に戻る。
「ざんねーん。あなたの収『収集』は、防御ができないし、多分収集後に使う『使用』みたいなスキルで存在ごと奪われることは想定済。そのうえで私は、戦いに挑んでいるの」
「私は、『収集』以外の能力をあなたに教えたつもりなど!」
『簒奪使用』は、収取した相手を関係なく存在ごと奪いとる。だが、その対象は『収集』した相手だけ。
不死に対して唯一の対抗策がアオケシによって奪い取られる。
「それにその『収集』、自分が優位であると思わないと起動しないわよね」
「そんな訳……」
図星であった。
『収集』は、コレクションする能力。自分よりも優れていると思ったものを『収集』はできない。本来は格下を確実に封じるスキル。
「森であった時、私と手をつないだのに『収集』しなかったのは、私が、どういった力を持っているか見定めるため。格下と決めつけ『収集』するために森のライオネルベアーやゾンビで私の力量を見た」
「な、なんのことかしら」
虚勢。すべてがその通りであった。
格下と決めるには、相手の実力をある程度知る必要があり、不可侵の森を一人で歩くアオケシの実力を見定めるために収集していた、ライオネルベアーやゾンビをアオケシにけしかけたが、アオケシの不死は思いのほか強力であった。
「その『無限』の力は、見るに一緒に転生した母親のスキル。それを奪ったことにより、マリーは私を殺せると確信して、『収集』をした」
そう、前世の母親『無限』の魔女がいれば死ぬことが無いマリーゴールドであったが、『無限』の魔女は、正常な思考ゆえか、彼女の意図とは違う行動をするため、二人でアオケシと戦っても勝てないと思い、母親を『収集』『簒奪使用』をお行い自分のスキルに変換した。
「けど残念。私は、『収集』されかけれかければ、メハジキが私を殺す。そして復活。メハジキを殺そうとすれば私はその隙を逃さないでその前に殺す。つまり詰み」
「……そ、そんなこと『収集』『収集』!」
マリーゴールドは、慌てて、アオケシに飛びつき、『収集』を行おうとする。
だが彼女の心はすでに折れ、アオケシを隠したと思うことはできず、収集は起動しなかった。
「あは!」
「や、やめ……きゃああああ」
アオケシは、満面の笑みでマリーゴールドの顔の皮を本のように引きはがす。
マリーゴールドは、悲鳴を上げ、彼女の記憶がまた奪われる。
『お母さん! 前!』
『きゃあああああ!』
マリーゴールドから、前世の記憶がすべてなくなる。
だが彼女の体は『無限』により再生。なぜ自分が誰なのか、前世の記憶は何なのか。もう何も分からずマリーゴールドは、走って逃げようとする。
「ヤダあぁ逃げるなんてえ」
アオケシは、手元に落ちていた斧を片手に、マリーゴールドの背中を切りつけ、脊髄を引きずり出し、しぼむマリーゴールドの体をアオケシは、本を見るように眺める。
『異世界転生! すごい私たち転生したんだ』
「やめ……もうヤダ『無限』廃棄」
この後の、一方的な虐殺を想像し、恐怖のあまり、『無限』のスキルを捨てようとするが、『無限』のスキルは、冷酷な機械音をマリーゴールドの脳内に響かせる。
『無限のスキルを廃棄……獲得、スキル無限。無限のスキルを廃棄……獲得、スキル無限』
無限ループ。
コンピューターウイルスのように無限のスキルは、マリーゴールドの体を呪いのようにめぐる。廃棄した途端増殖する無限のスキル。
マリーゴールドの無限は、解除ができなくなっていた。
「な、なんで」
マリーゴールドは、アオケシがケタケタと一歩にじり寄る間に何度も無限スキルの廃棄を試みるが結果は同じなのに、違う声が脳内を駆け巡る。
『無限のスキルを廃棄……獲得、スキル無限。無限のスキルを廃棄……獲得、スキル無限。カエセ、返せ、カエセ! 私の子ども、琴子をカエセ、化け物! 無限のスキルを廃棄……獲得、スキル無限。無限のスキルを廃棄……獲得、スキル無限』
それは母親の怨嗟の声。絶対に逃がさないという恨みの籠った言葉。
「ヤダ……やめて、やめて!」
「あは、それじゃ……ぜーんぶ頂戴!」
アオケシは、マリーゴールドの体を、手斧で真っ二つにするとマリーゴールドの記憶が流れる。そして復活し、殺され、奪われる。
「やだ! やめて、や……」
「ああ、いい! 母親はあんなに優しかったのに、あなたはなんて下品な!」
アオケシは蘇るマリーゴールドを何度も引き裂き内臓をえぐり、復活しては、それを繰り返す。死にたい。
そう思うマリーゴールドは、常に耐え難い、文字通り体を引き裂く痛みが走る。
「あはははははは!」
「やめやめ……」
鼻をもがれ胸をつぶされて、手足を裂かれ髪を引っ張られ、そして、復活。脳みそを、二つに割られ、右目と左目を失い、指を一本一本着られる。そして復活する。
「アナタは、だれ……」
「あは、最高の本!」
引き裂くたびに全身は破れたページに変わり、マリーゴールドは、記憶を失っていく。
そして、自分がなぜ今、こんな目に遭っているかすら、記憶は奪われる。
「ああ、良い恐怖。なんで自分が死んで、蘇って殺される。これを繰り返すのか、それがずっとずっと続いて……」
「あ、アオケシ! もうやめろ! 『収集』のグリモワールはもう!」
あまりに一方的な搾取。
メハジキは、敵ながら、マリーゴールドの今のありさまに同情してしまい、アオケシを止めようとする。
アオケシの手が一瞬止まる、その顔は、仮面が落ち、素顔が見える。頬を赤らめているのか返り血なのか、分からないほど赤く、それは到底、人には見えなくなっていた。
「アオケシ、その本から何が読める?」
「私への恐怖」
「それが何ページだ?」
「……」
アオケシは、考える。
自分への今日だけがつづられた本。それが、何章にもわたりループする本。
永遠の不変。
それは、アオケシにとって退屈なもので仕方なかった。
「……そっか。もう、ここに新しい物語はないんだ」
「そうだだから……もうこのグリモワールを封印しよう」
もう楽にしてあげたい。
メハジキに残った理性は、アオケシを説得しきった。
そう思っていたのだがアオケシは、廃人同然でその場に座り込むマリーゴールドの頭に手を置く。マリーゴールドは、目の前の殺人鬼に肩を震わせ怯える。
「マリー。私たちは友達」
友達。
呪いの言葉。
「あ、ああ……やめ……」
「だから、アナタの記憶は全部返してあげる。その代わりあなたは、私の魔導書、グリモワールとして、クロちゃんみたいに契約するの! 断っても良いけど……ねえ」
「ひゃああああ!」
その笑顔は、何もないマリーゴールドに恐怖を与え、マリーゴールドは、子どものように泣き叫ぶ。
「契約しましょう。私と……全部返すから」
「します……契約します……」
そして燃え尽きたようにマリーゴールドの体は燃え、宙には一冊の魔導書。
人の皮でできた表紙には、叫ぶ女の顔が表される『収集』の生きた魔導書、グリモワール。
『収集』の魔導書は、おもむろにページを開き、中から出る紙がアオケシを覆う。
「ああ、私の中に入ってくる」
幾度もの死によって、裸になっていたアオケシの体にページは張り付き、いつもの紺色のスーツ姿のアオケシ。
「契約完了」
「おま! なに契約してんだよ! ふざけんな! 『収集』の魔導書は、封印対象! それを契約するなんて! なんでそんなこと! お前はこの世界を壊す気か!」
『収集』の魔導書との契約は、それだけで国を一つ滅ぼせる代物。
メハジキは、アオケシがテロを起こすのかと思い警戒して構えるが、アオケシは嬉しそうに服をメハジキに見せびらかす。
「『収集』と『無限』でできた、何度死んでも復活する服! これで、多分の後も私はおしゃれができる! 悩みだったのよね、戦うたびに服は元に戻らないから、でもこの魔導書があればそんな問題も解決! って思っただけなんだけど。テロなんてしないわよ」
「……お前は」
アオケシが、『収集』の魔導書を欲しがった理由が、興味、好奇心の他があまりにくだらなく。メハジキはため息を吐いた。
この狂気はいつまでは続くのか。アオケシは、約束通り、マリーに記憶を返し見事契約をしたのだが、この報告は、どうやってしようか。
メハジキの頭痛の種は日々増える一方なのであった。




