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9.『トロフィー:11日の木曜日を獲得しました』

 大きなピアノが置かれた音楽を演奏するための部屋に付いたアオケシとメハジキ、ここに来るまで色々な部屋を回ったが、マリーにつながる道が見つからずメハジキはいらいらしていた。


「なんだよ……さっきから、鍵の閉まっている部屋は、全部アオケシが扉ごと破壊して進めたは良いものを……手詰まりかよ」

「……うーん、行った部屋の中に何かギミックでもあったのかな」

「全部壊して進んだどっかの馬鹿のせいで他の部屋を調べなおすことなんてできねえぞ」

「どこにいるのよ、そんな馬鹿! ……って私?」


メハジキは、もう突っ込む気もなかったのか、呆れて近くにある椅子に腰を掛ける。

アオケシは、自分が馬鹿にされたと思い、メハジキを見るとその目は、アオケシを馬鹿と言っているのが分かり、ムッと頬を膨らませた。


「私だって知的な所を見せますよ。どうにも、メハジキは私のことをスプラッタの登場人物と思っている節があるみたいだし」


そう言うとアオケシは、マスクを外し、ピアノの席に座ると鍵盤を触る。


「おい、お前がピアノなんて」

「ふぅ……」




普段は凶器や死体を握る細いアオケシの指は、鍵盤に優しく触れると、心地の良い牧歌的な農場を思わせる音楽を弾き出した。

鍵盤から流れる音は力強く、メハジキも一瞬、言葉を失いポカンとアオケシを眺めていた。




「~ん」




鍵盤は、穏やかな雰囲気から不穏な夜に、そして地獄の様に牧歌的な雰囲気を壊すのだが、耳が話せないメハジキは、音楽を聴き続ける。

五分ほどの演奏であったが体感は一分に感じられるほど短く感じられる。

今、自分たちが敵の陣地ど真ん中にいることすら忘れてしまい、アオケシの演奏は終わる。

アオケシはピアノを閉じると、メハジキに向かい綺麗なお辞儀をする。




「以上、ラルフィー作曲『11日の木曜日』でした。ご清聴ありがとうございます」

「……おお」


つい、メハジキは拍手をしてしまっている自分に驚き、恥ずかしそうに拍手をやめた。


「へへーどうだった? 私だって結構女の子らしいところあるでしょう」

「意外だ……お前みたいなクソビッチにもそんな才能が」

「おい、そうだけど。私、BARで働いてた時は、カクテルを作ったり、お客様の要望には、肉欲から芸術まで全部答えるため、読み書き算術、その他芸術などありとあらゆることを覚えさせられるのよ。それに落果で教育を受けたいなら、『男は、反社。女は、娼婦』って言うほど。正直中央の普通の学校よりも色々教わるのよ」

「そんなの知らねえよ」


基本的に秩序が崩壊している落果においては、学校も命がけ、安全に学問を学ぶなら、自ら秩序を乱す闇に染まる方が安全であり、実際、なんでも器用に覚え習得するアオケシは、仕事であれば、あまり興味のない音楽や絵画などもこなしていた。


「それよりもお前、この腕前なら、中央でも通用するぞ」

「いや、中央じゃ、私は即逮捕だから……」

「ああ、ごもっともだ」


中央……首都でも通用する腕前があろうと、シリアルキラーであれば、即逮捕。

そんな当たり前をメハジキは忘れており、自分も落果に染まったなと思っている時であった。

ごごごごご。

何かが引きずられる音がすると本棚が動き、地下へ続く通路が姿を現した。


「……あ、あれ。ピアノ弾いたらなんか地下通路が開いたんだけれど」

「これ、そう言う仕掛けだったのか。アオケシは、そこまで見抜いて」

「見抜いている訳ないよね。たまたまだよ……そ、れ、よ、り」

「ここの下行くんだろう。分かっているよ」


もう慣れたのかメハジキは先頭に立ち、現れた通路を通り、下へと向かい歩いていく。

アオケシもワクワクしながら、後ろを歩く。


***********************************************************************************


こつこつ。

靴音だけが響く地下への階段、長く感じる時間もすぐに終わり、通路の先には、謎の液体に浮いた人の形をして目には手が生え腹に口のある化け物や、犬の体を持ったカラスなど、生き物をくっつけたようなキメラが浮いていた。

それはさながら、地下研究所というのが正しかった。


「おまこれ……」

「おお! いかにもな施設! これは人間となんか良く分からないものがくっついているし! これは……」

「おまえ、良く陽気に見てられるよな」


斧を背負いながらアオケシは、楽しそうに研究資料や、キメラを見て目を輝かせ、メハジキは、そんなアオケシを無視して、研究所の先に行こうとした時であった。


「あああああ! なんでちゃんとゲームを攻略しないのかしら!」

「……お、おい、アオケシ」

「えへへ~この本、もーらい。きゃあこっちには、首都制定前の資料に……って、なによメハジキ、私、今すごく良い所なのに……」


メハジキが、震えた声をして、アオケシの肩を叩く。

アオケシも、最初は興味があまりなかったが、聞いたことのある声だからか、メハジキが指さす方向を見る。

そこには、怒りの感情を隠せないマリーゴールドが、宙に浮いていた。


「あら……私が今、一番欲しい本……ゴホン、友達」

「もう! 鍵のギミックは完全崩壊! まともに犬ゾンビトラップにかかったと思ったら、動物とのふれあいコーナーみたいに楽しむし、即死トラップは、無意味に攻略! 挙句、私の作った全ステージを攻略したうえでが楽譜を四つ手に入れ入るラストステージに行くギミックも楽譜なしで開けるし! ゲームを楽しめよ! 私が楽しくないんです!」


マリーゴールドは早口で切れだし、空中に地団駄を踏むのだが、それすらも愛おしそうにアオケシは、マリーゴールドを舌なめずりして眺める。


「あら、鍵を壊して進む過程で、一枚見つけた楽譜、これだけ見れば何を弾けばいいのか分かるし、鍵は壊せる程度の強度、道中のゾンビも弱いし……正直、あのシーンを全部本にしたら退屈じゃない。いやよ私、承が長すぎる本はクソ」

「まーたー、私の……ゴホン。失敬、少しお上品ではなかったですね。では、良く来ました。『不死の魔女』私は、魔女や転生者を殺して『収集』する転生したグリモワール、マリーゴールド。改めまして……そしてメハジキ様とそこのグリモワールは、初めましてですわ」


怒りから急な怒り口調。

感情の読めないメハジキは、ついマリーゴールドに聞いてしまう。


「お、おい。お前はなんで、転生者や魔女を『収集』して殺すんだ? お前の悪行も転生者で、力の使い方が分からない故とあれば、中央監査機関も温情での猶予が……」

「私の悪行でございますか」


メハジキは、転生者の中には自分の力を誤ってつかい捕まってしまった転生者を何人か見ている。彼らは決まって、何か自分の能力に自信を持っているのか、話も聞かず違法行為を犯してしまう非常識な転生者もいた。

中央監査機関は、そんな転生者の校正プログラムも行っているのだが……マリーゴールドはポカンとしていた。



「私、何も悪いことなどしておりませんが」



「は? お前は、転生者の殺害三件、現地人殺害数十件、窃盗盗難、その他にも多くの罪があり、それは強すぎる力の暴走なら、こっちも生かして捕まえてやるって言っているんだ」


メハジキは、優しい。

マリーゴールド相手にも温情を与え救おうとしている。だが現実はそこまで甘くなかった。


「いや『収集』……この世界の金トロフィーを私は、集めているだけじゃない。勝負に勝って『収集』それはゲームクリアの証でしょう? ゲーマーなら集めて当たり前だし」

「お前、人が死んでいるんだぞ。勲章なんて」

「いりますわ! 私は勝ちたい。絶対に負けたくない。どんな手を使っても絶対に私は勝ちますわ! そして、集めた金トロフィーを全部飾って勝利の余韻に浸りたいのですわ」


狂っている。

メハジキは、つい最近、ある人物から感じた悪寒をマリーゴールドにも感じる。

悪辣で辛辣、下劣で下品。そんな勝利に固執した承認欲求の塊。

この女とは、分かりあえる人類がいるのかとまで思ってしまう。


「あーははは! 最高に下品! そう言う考え方、私、大好き! 分かるわ! 欲しいものは絶対に集めたい、それで集めたものを眺めて感じる愉悦! 最高よね! 本当に大好き!」

「おま」


そしてもう一人、メハジキの中ので一番の狂人アオケシは、腹を抱えて笑い出す。

人類には理解できずとも魔女には理解ができた。


「でもさ、集めた後はどうするの? 何もなくない? 私は、知識が好き、本が好き! だからどんな手を使ってでも集めたい! でもなんで集めるか! それは?い道を解き明かしつくしたい! この世界の構造、神様はいるのか、異世界って何なのか! いくら、知識を集めても私は満足しない! 私は、集めた知識を使って、もっと色々知りたい。だからあなたの夢は下品で下劣! ゴールが決まっているし、集めて、その先は何がしたいのか全く分からない! だから私は最高にあなたが欲しい!」


肯定様な否定。

まさに煽りの極致であるアオケシに対して、マリーゴールドは茫然とアオケシを見る。


「ゴールが無い永遠って虚しくありませんこと? しっかりとした目的を決め、それに向かって進む。ゴールしたらさらに先のゴールをまた見つける。それが至高であって、未知は、最低最悪! そんなもの私の知る世界には不要です! だから私は、アナタにも処理してトロフィーにしてあげる!」

「やってみてよ。『収集』のグリモワール! 全部ぶっ壊してあげるわよ!」

「喚かないでくださいまし! 『不死』の魔女!」


アオケシは、仮面を被り、研究で使われたであろう大きな台車をマリーゴールドに投げつけ、斧で飛び掛かる。


「ぎゃあ!」


マリーゴールドは、投げられた台車を掴むとその小さな体からは想像できないほどの力でアオケシに投げつけ、アオケシは返り討ち、地面に叩きつけられるが、無傷で立ち上がり斧を構え、マリーゴールドも銃を構えると大きな声で叫んだ。


「さあ殺しあいましょう! 『不死』の魔女! さあ、私のトロフィーキメラたち! こいつらを蹂躙しなさい!」

「ぐぐぐぎゃ」


研究ポッドが割れ中で眠っていたキメラの大軍が、アオケシとメハジキを囲んだ。


「おいアオケシ! 『収集』は一旦後回し! このキメラたちを……」

「メハジキ! 私は、マリーと戦うから、そいつらはよろしくね」

「おい! アオケシ! 畜生! 『加速』『停止』……クロノワール! あの馬鹿には気にせず俺達だけでも生き残るぞ」

「あいあい……全く。結局こうなるんだよな。アオケシの姉さんは」


クロノワールは、メハジキの体に入り、メハジキは戦闘態勢を取る。



「全部読ませて頂戴! 『収集』のグリモワール!」

「アナタも私のトロフィーになって頂戴! 『不死』の魔女!」


こうして、不死のアオケシと収集のマリーゴールドは互いの武器を持ち、己の狂気をぶつけ始めたのであった。

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