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プロローグ『不死』

「ああ、喉、乾いたな」


 セミロングの黒髪に固まった血液のこびり付く少女は、一糸まとわぬ姿で、持っていた鉈を死体の山の上に投げその上に座りため息をつく。


「はぁ……、とは言えあんまり顔は見られたくないよね……あ、何この人、良いもの持ってるじゃーん。あはははーいいかもー! 可愛いかもー」


少女は、緑色の鼻のない仮面を手に取ると嬉しそうにその仮面をかぶる。

鼻につく死臭には目もくれず、緑の仮面をかぶった少女は死体の上で踊り続けた。


***********************************************************************************


「ふぅ……今日もいい具合だったよ。アオケシちゃん」

「そう! ありがとうー。おじさんのモノ、すごく良かったから―」


 違法建築都市落果にある『BAR肉欲』表向きは、バーであるが、大金を払うと、そこの女性店員と奥の部屋で性行為が行われる違法風俗。窓が無く、ベッドだけの簡素な部屋。

ここがアオケシの家でもあった。

ベッドに座る中年は、アオケシにいやらしい視線で話しかける。


「ねえ、アオケシちゃん。この後、一緒に僕の家でどう?」

「アフター? なら、先払いねー」


アフター、『BAR肉欲』で女性店員が求めるものを上げる代わりに一日、女性店員を好きにできるというもの、アオケシのアフター条件は、魔導書……非常に高価な本であった。


「ま、魔導書は、その……あとで渡すから」

「駄目、アフターは先払いのみでーす」

「このアマ! 調子に乗りやがって!」


中年の男は、アオケシにのしかかり、首を絞めるが、アオケシは全く動じることもなく、ベッドに潜ませていた小ぶりな鉈で中年の男の首に振った。


「な、ち……血……なんで……」


男の首からは、鮮血が噴出し、アオケシの首にかけていた手の握力がみるみる無くなりアオケシに倒れこむ。


「重いな……はぁ……のど乾いたな」


アオケシはため息を吐き、店長の到着を待った。


「……アオケシまたやりやがって」

「あー、てんちょ~。この肉、重くて動けなーい」


黒服でガタイのいいスキンヘッドのロリコン店長、アオケシの好奇心で自らの花を落ちらした初めての相手は、頭を抱えるがその口調はとても冷静であった。


「はぁ……その肉は、どかすけどよぉ……金はしっかり貰ったか?」

「もちろん! 銀行に預けている金庫の番号もしっかり! それよりも早くどかしてー! やらせてあげるから早くどかしてー! おーもーい!」


アオケシの訴えを無視して、店長は、興味なさそうな目でアオケシを見ると数刻前まで人間であった肉片をどかした。


「俺は、胸のある女に興味はない。ほれ、金……金庫の中は俺のモノだからな」

「昔はあんなに……まあいいや、あんがと。うーん、10万ゴルドーか……」

「なんだ、足りないか? 一日の給料にしては良いほうだが」


アオケシは、お金を数え少し困ったような顔をする。


「うーん、これじゃ魔導書なんて買えないなって」

「馬鹿か、魔導書は、一冊で億単位だ。そんな渡したらウチが破産する」


アオケシは、孤児として過ごし、今は娼婦として『BAR肉欲』に身を寄せる。

本来であれば借金漬けの女性が最後に行きつく場所だがアオケシは違った。


「本の狂人は怖いね……もう二部屋分はお前の本で部屋が埋まっているんだ。整理しろ」

「えーその分稼いでいるし、許してよ」


彼女はただ一つ。

本を読み、知識を蓄えるためだけに『BAR肉欲』で働いていた。

見た目は、身なりを整えれば貴族令嬢、しかし床仕事に関しては、悪魔的な魅力がある彼女は、三人分の性奉仕を一人で簡単に稼ぐためある程度の自由はあった。


「まあ、金さえあれば何にも俺は言わねえ。んで、アオケシ、この後また本屋

行くんだろう……店のシャワー使っていいから、外出るときは、身なり整えろ。お前自身が商品なんだから」

「はーい」


アオケシは、裸のまま、その場を後にし、身なりを整えに行った。


「……たく」


店長は、彼女を見送る事しかできなかった。


***********************************************************************************


ネオンが輝く夜の町、落果。

BARや、違法風俗が立ち並ぶ繁華街にアオケシは、一切目もくれず一本の道を進む。


「ねえねえ……」

「……本! 本!」

「ねえ……ちぇえ……つれねえ美人だよ」


アオケシは、成金男の呼びかけにも答えず、走っていく先は、落果図書というネオンも何もない本屋。

アオケシは、本屋につくと扉を開け、無駄に元気な声で埃の舞う薄暗い本屋で声を上げる。


「メハジキぃー来たぞー。勝手に本見るけどいいよねー!」

「ちぃ……うるさい女がまた来たよ。勝手に見ていろ」


窓からネオンの光が射す奥の椅子で、一冊の豪華な装飾の本を読む眼鏡の美形、メハジキは、アオケシが来たのを知り、嫌悪感丸出しの顔で舌打ちをする。


「うわぁ、私、冗談抜きでこの町一番の美少女なのにこの対応……さすがは童貞。筆おろそうか? 可哀そうだし」

「うるさいぞ、このクソビッチ。静かに本でも読んでいろ。持ち帰るなら金は置いて行けよ」

「はいはーい。じゃあシツレーしまーす」


アオケシは、メハジキを無視して本屋を漁りだす。

……ふりをした。


「ふふ、ナニサガソーカナー」


あまりに下手な演技、男を食らう時とは比べ物にならない大根役者。

しかしそうする理由がアオケシにはあった。


「ちょちょいのちょい」


落果図書には隠し部屋がある。本棚の本を何度か出して、並び替えると本棚の一部が動き開く通路。人一人がようやく通れる通路先には、裸電球が吊り下げられた部屋には小さな本棚に放置された数冊の本……魔導書が眠っていた。


「売り物じゃないから持っていけないのは残念だけど、この不死の書……今日で読み終わるし、読み終わったら適当な本でも買って帰ろ……」


そこは明らかに異質な空間。

黒を基調とした本。

意思があった生きる魔導書魔導書、グリモワールの死体、つまり魔導書たちの一冊をアオケシは、終わりにかかったページを読む。


「……」


本を読みだしたアオケシは、先ほどまでの騒がしさはどこかへ行き、静かに文字の海に潜っていく。

入ってくる情報は、禁忌から残酷なものまで、全てがコンプライアンスなど無視して書かれる書物。アオケシは頬を赤らめ、興奮しだす。


「……ん」


鼻につく、血の匂いや、腐敗臭、清涼感に異世界に飛びそうな感覚。

全てが幻覚と知りつつもアオケシの体は、つい反応してしまう。


「あ……あうん」


体が悦び、跳ねてしまう。そして最後の行を読み切った瞬間、彼女の体は、なにか形を変えるような感覚と共に脳みそがはじけ飛び、感じたことのない快楽が彼女を満たした。


「最高ぅ……」


ものの数時間が、まるで数秒に感じる感覚。本を読む、知識を蓄える。

その瞬間が彼女にとっては、人生の何物にも代えがたい瞬間であった。

そして全身にいきわたる刺激と共に不死の書を読み返す。

一度読んだ本は、高速でページをめくっても内容が入っていき、アオケシの中には、禁忌の知恵がたまり蓄積されていき、そのまま絶頂と共に意識を失ったのであった。

 それから数時間が経った。


「……起きろ。閉店だ」

「あれ……メハジキ? ……や、ヤバイ! 秘密の部屋に入っていたのがバレ……」


アオケシは、目が覚めると目の前にいるメハジキに驚き、胸に隠したナイフでメハジキを殺そうとするが、メハジキは、それを知っていたのか腕を掴む。


「安心しろ。人間が読んでもグリモワールは、何も起きねえ。それよりも脊髄反射で人を殺そうとするのはやめろ。本狂いのその行動で落果のゴミ溜めが余計臭くなる」

「……あ、そ! そうですか! やっぱメハジキ! アンタは嫌いだわ! バーカ! 童貞! 見掛け倒し!」

「うるせえ! 今すぐ出で行かなきゃ出禁だぞテメエ!」


アオケシは喚くが、メハジキは、そんなことも意に返さず、アオケシに悪態をつく。

怒ったアオケシも隠し部屋を出ていった。


「たく……あの馬鹿」

メハジキは呆れたように散らかった本を片付け始めたのであった。

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