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躍動

 限られた時間の中で分かったことは、ニヒルが最初から持っている属性魔法は扱えないと言うこと。


 本来なら詠唱の過程がある為等、様々な弊害がある為に出来るはずのない魔法同時発動が可能と言うこと。


 ハワ・アドラシオンを使いながら闇を貪り喰らう竜(ノクス・ドラグシオン)を扱う事も出来る。


 そして異世界人の血が濃いニヒルの体を動かすのは、この地への親和性がかなり強いゼ=アウルクにとって負担が想像の倍だと言うこと。


「……あれ? 僕は確か……」


 ニヒルが一言、静かに漏らしたのはゼ=アウルクが壁に寄りかかり目を瞑ってから数分後の事。過去を思い返し、抜けた断片を探すも見当たらない。


 気を失っていた。この表現が正しいかは分からないが、彼女が約束を果たしてくれたのだと辺りを見て一目で理解する。


「体も治っているし。凄いや」

『じゃろ?』


 声に身を竦めて驚くニヒルに対し「カカッ」と短く笑って、ゼ=アウルクは言う。


『契約によって、うぬと朕の繋がりが強くなった証拠じゃ。これからは意思疎通が完璧に可能という訳じゃな』

「なるほど。それはとても心強いよ」と、ニヒルが讃える少し前ーー地下迷宮出口では兄・神楽イロアスとブァニス達が顔を合わせていた。


「おー、お疲れ。で、上手くやってくれたのか?」


 ーー神楽=イロアスは剣士・魔法使いの部類で最も最強に近い男だ。周りが噂し称賛するだけではなく、イロアス自身も最強(ソレ)を自負している。


 多種多様な魔法を同時に無詠唱で発動出来る事に加え、父である神楽優輝(かぐらゆうき)から授かった【フィジカルギフテッド】により、身体能力も高く【聖剣】

【魔剣】の武技も扱えるのだ。


 イロアスを倒せるのは魔王か、あるいは魔王を倒した四大英雄ぐらいだろう。


「ええ。言われた通り、悪魔の嘆きに奴は落ちていきました」


 視線を伏せたまま、ブァニスは一切イロアスと目を合わせる事なく現状を報告する。聖女の顔立ちに少々似ているイロアスは、まさに眉目秀麗だ。少し伸びた茶髪に、呪いを打ち破ると言われている聖女同様、朱色の瞳【凰眼】。服の上からでも分かる、程よく鍛え抜かれた体。


 街中を歩いていれば女性達の目を奪う事間違いなしだ。しかし、冒険者で考えるなら大したことのないーー見慣れた体つきであり、屈強な大男が見たのであれば顔立ちも相俟って鼻で笑われるーーそんな程度(・・)の容姿だ。


 だが、ブァニスは。否。ブァニス率いるメンバーは眼前にて立つ、ありふれた容姿をしたイロアスに対し絶大な恐怖心を抱いていた。


 意図せず滲み出る絶大な力。ここら一帯の空気を呑み込むオーラを肌身で感じ、ブァニスは本能的に屈していた。


「そうかそうか」


 ブァニスが抱く気持ちは露知らず、イロアスは淡々と会話を続ける。


「助かったよ。俺だったら、多分加減しても殺しちゃうからさ」

「…………で、イロアス様」


 声を震わせながら、ブァニスは本題に入る。


「なに?」

「約束通りに俺達はやりました。だから……その、なので」


 ブァニスはイロアス達ととある約束をしていた。それはイロアス達の企みであり、この世界の純粋な住人との決別。


 即ち、新世界の構築。


「俺達をイロアス様達が創る新世界に」


 ブァニス達は新世界の住人になる話を特別に持ち掛けられていたのだ。


 苦渋の末に愛国心を投げ捨て、便利と平穏を選んだブァニスの言葉を何故か(・・・)イロアスは不敵な笑みで返す。


「あー、あれは嘘だから。因みにお前達はこの場で俺が殺す。先に謝っとくわ。すまんッ」

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