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覚醒

「貸す……って、そのまま乗っ取るつもりなんじゃ」


 ニヒルの疑問は至極真っ当なものだろう。疑問を真正面から受けたゼ=アウルクは間髪入れずに口を開いた。


「当初は、な? うぬを内部から侵食してやろろうとも思っておった」

「ならなぜ?」


 普通ならきっと、その発言に恐れを抱いたりするのだろう。ゼ=アウルクの行動一つで、神楽=ニヒルと言った個の存在がーー人生が奪われていのかもしれないのだから。


 しかし、ニヒルはそんな事すらも受け止めていた。寧ろ、侵食されていた方が余っ程楽だったかもしれないとさえ思っていた。故の無表情。


 真顔のニヒルを見てゼ=アウルクはキョトンとした様子を浮かべる。が、すぐさま納得がいったかのように表情を変え、口を開いた。


「うぬの人生に興味があった。それにのぅ? うぬの体は勇者と聖女の神聖も多少は受け継いでおる。朕との相性はどうやら最悪のようじゃ。故に朕はこの空間に長い年月、追いやられていたってわけじゃな」


 なるほど。だから今の今まで内に居ながら干渉は出来なかったのか。この状況。ニヒルにとって絶体絶命の事態がゼ=アウルクとの対話を可能としたのだろう。自分なりに解釈し納得し、その上でニヒルは口を開く。


「分かったよ。なら、契約をしよう」

「疑わぬのか?」

「疑う? 違うよ。君が僕を乗っ取るなら、それはそれで構わない。多分、君が僕の体にいるのは復讐したいから。ーーそうでしょ? 僕が生き延びたいのも、復讐心に限りなく近い反抗心。だから、どっちでもいいんだ。ただ、この場から生きて帰れるなら」


 自暴自棄にも似た寛容心がゼ=アウルクの存在を受け入れ認めていた。


「うぬと言うやつは……よかろう。なれば、契約に移ろう」


 淡々と口にして立ち上がり、数歩近づくと爪で指を切り血を滴らせる。行動を理解できたが、意図が理解できないニヒルは椅子に座ったままゼ=アウルクを見上げた。


「この血を呑むんじゃよ。さすれば、うぬと朕は繋がる事が出来る」


 魔王と恐れられた魔人から零れ落ちる血は、人と同じ赤い血をしていた。霊体にも関わらず血が出るのは何故か、そんな小さな疑問もあったが、それらを振り払ってニヒルは舌を滴る血の下へと伸ばす。


 ポツンと、舌に落ちた血を喉を動かしゆっくりと呑み込んだ。が、別段何かが変わるとかはない。これで契約が済んだのか、そんな疑問すら生まれる現状でゼ=アウルクが行った行動はニヒルの額に指先で触れる事だった。


「これで契約は済んだ。あとは朕に任せて今は眠るがよい」

「眠っ……君が助けてくれるの……に、眠……る、なんて……」


 起きようと働きかける脳とは逆に体は酷い脱力感に見舞われ、徐々に視界は霞み狭まってくる。迫り来る闇に抗おうと伸ばした手は宙を切り、とうとうゼ=アウルクをニヒルは見失った。


「ふむ。これは思ったよりも酷い有様じゃな」


 十数年ぶりに叶った生身での覚醒は、思い描いていた感動ではなく激しい痛みを伴って訪れる。


 散々な有り様を目にしていた分、覚悟はしていたがここまでとは。ましてや、このような痛みとは無縁だったニヒルが精神の鍛錬も無しに耐えていた事にゼ=アウルクは驚いた。


 一般人だったならショック死はしていただろうし、仮に助かったとしても生き抜こうとは到底思えない絶望的な体をしている。


「ーーとは言え、授かったこの身じゃ。朕が責任をもって約束を果たそうではないか」


 そう言ったゼ=アウルクの体からは漆黒の魔力(オーラ)が滲み出す。光すら呑み込む魔力を目の当たりにした魔獣は、前進ではなく一歩後退する。


「おぬしらの生命力ーー頂くぞ」

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