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決死

 小さく緑色をした魔獣は、ブァニス達と行動を共にしている時に現れたゴブリンと言うやつか。後は、ゴブリンをそのまま大きくしたような魔獣や、四本の腕を持つ赤い鬼のような物なども居る。


 流石にこの化物達全員を相手にしたら数秒足らずでこの世とおさらばだ。上手く隙を見て、数メートル先にある穴に逃げ込めればーー


 ニヒルが息を呑み、覚悟を今一度した時。眼前の魔獣達は想像を超える行動をし始めた。


「共食い……を、してるのか??」


 四腕(しわん)を持つ赤い鬼が他の魔獣を襲い、殺して食い散らかしている。眼前で行われる一方的な蹂躙。デカイゴブリンですら、その巨腕(きょわん)を容易く引きちぎられ、ゴブリンは一口で真っ二つに食いちぎられている。


 ニヒルはこの光景を共食いだと思ったが、全くの別物だとすぐに理解した。これは単なる捕食。ただの餌狩り。魔獣だと一括りにしていたが、彼等にも種があり、他は単なる餌や脅威なのだろう。


 群れを成して現れたのではなく、一つの餌場にたまたまこれだけの種類が集まったにすぎない。


 ーーこの機に乗じて。


 ニヒルは魔獣同士が戦っている隙に逃げ込む事を決め、ゆっくりと穴に向かう。決して、魔獣達から目を離さずゆっくりゆっくり。目的の場所まで後数メートルの場所まで差し掛かった頃だった。


 ドチャリと液体の入った風船が割れる音がした瞬間、ニヒルの目に痛みが生じる。涙で目を洗い流し、音の方を見れば魔獣の皮が壁にこびり付き、臓物があちらこちらに飛び散っていた。


 警戒はしていた。魔獣達の行動だって目でしっかり追っていた。驕りも慢心もない。慎重に徹していた。つまり、ニヒルの瞳力(どうりょく)を超えた速さで魔獣は投げられた事になる。


 嫌な予感がし、魔獣の方向に視線を向けると確実に赤い鬼と視線が交わっていた。奴にとって、ニヒルは最初から捕食対象であり、怪我などを考慮し後回しにしたに過ぎなかったのだ。


 ーーやっぱり、アイツを倒さなきゃ駄目なのか。


 だがどうやって。あの黒い狼の時とは異なり、勝てるビジョンが思いつかない。


 一瞬生じた迷い。一瞬の恐れ。時間にしてコンマ数秒。


「……ガハッ……ッ!?」


 その数秒が招いた激しい痛み。


 咄嗟に抑えた腹部から伝わる激しい熱と痛み。指の隙間から溢れ出る血は、腕から流れていたような真っ赤な血ではない。黒色が混じったような血がニヒルの腹部から流れ出ていた。


 ーー致命傷だ。


 医学本で読んだことがある。臓器の血は酸素が少ない分、赤黒くなると。正にこんな血の色だった。


 自分の現状を判断出来る程に不思議と冷静で居られたニヒルは、立ち上がると魔獣の元へ歩いていた。


 冷静と無謀。交わる事のないであろう矛盾の中、ニヒルが抱いている覚悟は決死(・・)。何もせず、ただ無駄に死ぬぐらいなら、せめて巨大な敵に挑んで死ぬ。


 今まで父や母。そして兄に逆らうことせずに、自分の不運を認め受け入れてきたニヒルが自らの足で最期まで抗うと決めたのだ。


 赤い魔獣はゴブリン達を貪り喰らいながら、ニヒルが近ずいて来ているのをただ見ている。警戒も威嚇もする様子一つ見せていない。


 言い方を変えるなら“強者の余裕”と言うやつだろうか。


 強者だろうが何だろうがどうだっていい。雷を纏わせた右手で、渾身の一撃さえ食らわせられたなら。


 ニヒルは歩き続けた。血を流し左足を引き摺り激痛に顔を歪ませ、浅い呼吸を不規則ししながら。その一歩は重く辛い。魔獣までの距離が果てしなく遠くに感じる。


 だが、それでもーー


「まったく……うぬは死にたいのかのぅ」

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