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生き抜く為に

 数十メートル離れた先に居るのは、狼の姿をした魔獣だ。逆立つ毛並みは黒く、黒い液体に漬けたかのような双眸に赤く鋭い瞳孔。大型犬程度の体躯でありながらも、今まで見た事も無い異様な容姿。


 そして、口から微かに漏れる唸り声、伸びた鉤爪が歩く度に地面を削る嫌な音。離れてても伝わる強烈な獣臭。視覚・嗅覚・聴覚を通して得た、純粋な恐怖がニヒルの生存本能に遅すぎる警鐘を鳴らす。


 魔獣三匹が血を嗅いで捕食対象だと認識し、右往左往しても尚、ニヒルは諦めてなどいなかった。両の眼で三匹を捉えながら、勝つのではなくーー生き抜く(・・・・)為の方法を考える。


 自分の持ち札を俯瞰(ふかん)し、冷静に分析。


 ・扱える魔法は雷属性。

 ・聖女の血を引き継ぎ可能としているのは【無詠唱】【多属性魔法同時発動】

 ・唱えられる魔法は【放電】の一つのみ。

 ・異世界人が書いた本による知識。

 ・装備は腰にぶら下げた短剣のみ。

 ・防具はブァニス達が絶対に護るとの事で、長袖長ズボン。だが、穴からの転落でボロボロ。


 これらを鑑み、ニヒルは考える。短剣は、正直使えそうにない。理由としては、今自由に辛うじて動かせるのは右腕のみ。それに、壁に寄りかかっている体を動かせるだけの余力も無い。


 ーーと、するなら扱えるのはたった一つの魔法のみ。


【放電】

 手から雷を放出するだけの魔法。本来、後衛を務める魔法使いにとって、一番必要の無い魔法。詠唱必須な魔法使いが接近戦をしたがる訳がないからだ。


 ニヒルはこの【放電】を多属性魔法同時発動の効力によって、左手と右手から扱える。扱えた所でって結果に収束して今に至る訳だがーー


 明らかに俊敏な動きをするであろう、眼前の魔獣に対して【放電】は、確実に不利だろう。しかもこの現状では、飛び掛ることもできやしない。


 ーーなら。


 ニヒルは何もしない事に徹した。魔獣が警戒を解き、ただの肉の塊でしかないと理解をし襲いかかるその時まで。


 三匹をじっと見つめ、刹那を待ち続けた。


「「グルァァァアグァァア!!」」


 三方向からの同時攻撃。ニヒルは臆する心を殺し、冷静に努める。


 三匹が同時に体に噛みつき、鋭い牙が肌を突き破り肉を突き刺した。身も悶える程の痛みを唇噛み締め耐え、表情を苦悶させながらも、ニヒルは腹部に右手を添えたまま言葉を走らせる。


「放電……ッ」


 全身を雷電が這い、魔獣達は口を通して感電。暴れ回るも、ニヒルの体から離れる事が出来ずに肉は焼かれ、血液は煮沸されてゆく。鼻腔に肉の焦げた臭いがつくのとほぼ同時に息絶えた。


 だが、ニヒルの気が休まる事はない。魔獣達が音や臭いを辿り群れを成して集まってきたのだ。


 ーー何かを掴めそうだったのだが。


 迫り来る地獄の波を目の前に、ニヒルは右手に放電を纏わせた。



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