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音響のところで横並びに座っていた二人はビクッと体を震わし、驚いた表情で僕の方を振り向く。
一人のふくよかな男が「な、なに」と声を出す。どうやら音声はオフになっている。
声的にふくよかな男が西田で、眼鏡をかけたパーマの男が河本だろう。僕は放送室の扉を閉める。
「頼みがあるんだけど……」
「な、んでしょう、か」
西田は戸惑ったまま、答える。河本の方はまだ状況を上手く把握できていないようだった。放送室から流れている曲は二回目のサビへと入った。
あと少しで曲が終わる。
「少しだけ放送時間を僕にくれませんか」
僕はそう言って頭を下げた。沈黙が続く。心臓が壊れてしまうかと思うぐらい緊張している。これで断られたら、どうしよう、と違うプランを頭で練り始める。
「いいよ」
やっぱり、ダメか…………、え?
僕は思わず頭を上げる。河本が僕の方を楽しそうに見つめながら「どうぞ、いくらでも使って」と言ってくれた。
まさか承諾してくれるとは思わず、僕の方が困惑してしまう。
「面白そうだし」
河本はそう付け足した。西田も目を輝かせながら口を開く。
「大学はそういう青春をしにくる場所でしょ」
「そうそう。それに、最近同じ内容ばっかりでつまらなかったし、刺激を求めていたところだよ」
「やばい内容だったら、こっちでいくらでも放送切れるしさ」
西田はニコッと誇らしげに笑みを浮かべる。
ラジオ部のパワー凄い。これからはしっかりと放送を聞いておこう。
「恩に着る」
「おう。それで、用途は?」
河本は興味津々に僕にそう聞いた。
「……最愛の人へ送るラブレター」
「ダサくて最高だ」
河本はニカッと歯を見せて笑った。彼の隣で西田もニヤニヤと「熱いねぇ」と呟く。




