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少しの間、贅沢をさせてもらったのだから、満足しないと……。
私は自分にそう言い聞かせる。これ以上は望んではいけない。だから、もう終わりにしないと……。
このままでは私が耐えられなくなる。
「お待たせ」
沖原くんの声に私はスマホから顔を上げる。
待ちに待ったデートが始まる。天気にも恵まれて、この日のために買った服を着て、完璧に化粧をした。最高に可愛い私を見てもらえるように……。
「髪の色、変わった?」
私を見るなり沖原くんは変化に気付いてくれた。ベージュからグレーの暗色にしたのだから、気付いて当たり前なのだけど、それを指摘してくれるのが嬉しかった。
「昨日染めてきたの。似合う?」
デート前の美容院はいつもと違ってワクワク感が倍増する。美容師さんと「明日は大好きな彼とデートなんです」って話す時間が好きだ。
「うん、可愛い」
好きな人からの「可愛い」ってどうしてこうも幸福感に包まれるのだろう。その一言が聞きたいがために女の子は必死に努力する。決して自分磨きを怠らない。
「闇堕ちちの色です」
私がそう言うと、沖原くんは表情を崩した。
「順子には似合わない言葉だね」
一瞬だけ言葉に詰まり「やっぱり?」と私は微笑む。私は落ち込んだりしない。人生短いのだから、落ち込んでいる暇なんてない。
ずっと、前を向いて、楽しい日々をすごしているんだもの。
「てか、どうして今日の待ち合わせ場所がここなの?」
私は河川敷を指定した。私のガーリーなデート服には似合わない場所だ。スカートでなくジーパンで来るような所。
けど、今日は私にとって勝負の日だから。
穏やかな川の流れを隣に私は真剣に沖原くんを見る。彼は私の意図が分からずに不思議そうにしている。
「私とタイマンを張ってもらう」
「は?」
沖原くんは顔を顰めた。




