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カエル味のあめ玉  作者: 大木戸いずみ
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 私は駆け足で教室へと向かう。自分の教室ではない。谷沢くんの教室だ。

 未だに彼と連絡先を交換していない。だから、実際に学校に赴き、直接話をする以外に彼と会話をする手段はなかった。

「徹くんはいる?」

 私は慣れない教室の風景に緊張しつつも、近くにいた谷沢くんのクラスメイトに話しかける。その男子生徒は突然現れた私に困惑しつつも答えてくれた。

「谷沢……、今日はまだ見かけてないかも」

「そう、ありがとう」

 私はお礼を言って、教室を後にする。どこを探せばいいのか分からない。私はあてもなく歩き始めた。その時だった。聞き覚えのある声が私の耳に響く。

「徹なら、がっちゃんのところだよ」

 私はその声の方を振り向いた。周りの女子たちよりも随分とスカートが短い女子高校生が私をじっと見つめていた。

 ……莉子。

 まさか彼女が谷沢くんの居場所を教えてくれるとは思わなかった。私は驚きのあまり声が出なかった。

「徹、意外と臆病者だから」

「そ、うなんだ」

 私は戸惑いを隠せない。未曽有の出来事と言っても過言ではないぐらいに衝撃だった。彼女は私のことを嫌いだと思っていたから。

 谷沢くんが臆病だということが頭に入ってこない。

「まつりん」

 彼女は私の名を呼び、暫く私をじっと見つめた後、深く頭を下げた。

「あの時はごめんね」

 あまりにも真摯な謝罪に私は「え」と声を出してしまう。

「カラオケで莉子……、私最低なことした。ずっと徹が好きだったから、嫉妬しちゃった。本当にごめんなさい」

「とりあえず、顔を上げて」

 私がそう言うと、彼女は頭を上げた。

 正直、莉子が私に言ったことなど、そこまで気にしていなかった。むしろ、莉子の立場であれば私のことを蹴落としたいに決まっている。自分の好きな人の好きな人なんて邪魔な存在でしかないのだから。

「無責任にまつりんのこと傷つけたって反省してる。発してしまった言葉は取り返しのつかないものだってことも分かってる。だから、莉子のことはいくらでも嫌って。……ただ、本当に謝りたかった」

 宮川さんの友達だな、と思った。類は友を呼ぶのは本当なのかもしれない。

莉子は別に捻くれた性格をしているわけではない。それは最初から分かっていた。

「関係を壊したくなくて私は徹に告白する勇気なんてない。それなのに、まつりんと徹の距離が近くなって、彼をとられてしまうのが怖くなったの」

 ごめん、と言った方がいいのかどうか分からなかった。申し訳なさはあるけれど、きっと莉子は私からの謝罪はほしくないはずだ。

 私が黙っていると、莉子は眉を八の字にさせて口角を上げた。

「徹のこと臆病者って言ったけど、私も大概臆病者だね」

「臆病なんかじゃないよ」

 私は静かに声を発した。莉子は私の言葉に固まる。

「徹くんを想うからこそ、告白を「しない」っていう勇敢な決断をしたんだと思う。だから、貴女は強くて優しい人だよ」

 彼女の瞳が少し潤うのが分かった。今まで谷沢くんに向けていた感情が報われたような目だった。

「……ありがとう。徹がまつりんに夢中になる理由が分かった気がする」

「そうだったらいいけど」

「絶対にそう。大好きな徹を近くでずっと見てきた莉子が言うんだから間違いない!」

 莉子の強い口調に私は「それはたしかに間違いないね」と微笑んだ。

 それと同時に一限が始まるチャイムが鳴った。周りの生徒たちがぞろぞろと教室へと入っていく。

授業を受けている場合じゃない。私は谷沢くんに会いに行かないといけない。

「まつりん、徹を頼んだよ」

「任して」

 私は覇気のある声で答えて、保健室へと向かった。

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