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「私も彼に飴玉を飲ませたから」
「…………なんで」
姉の言っていることの意味が分からないまま、ただ疑問を口にする。
「大好きだったの。本当に大好きだったからこそ、私の存在を忘れてほしかった。彼も私のことを想ってくれているのを知っていたから」
私は黙っていた。姉の言っていることが理解出来なかったから。彼女の次の言葉を待った。
だって、お互い好きなら、忘れなくてもいい。
「……小学生でね、共依存してるって怖いことなの」
「なんとなく分かるかも」
当時の姉の意図が読めた。……けど、それを小学生で気付けるのは凄い。精神年齢が高いことは分かっていたが、まさかここまでとは思っていなかった。
「もっと世界を知らないといけない。色んな人を知らないといけないって思ったの。このままいけば、私も彼も不幸になるから」
「うん」
私は「うん」としか言えなかった。姉の当時の覚悟に脱帽だった。私なら、きっと共依存し続けてしまう。未熟な小学生にそんな決断などできない。
「だから、もう少し大人になって、お互い自立して、いつかまた出会えた時は必ず傍にいるって決めたの」
何故か少しだけ胸騒ぎがした。
姉は遠い目で「結局ね」と言葉を付け足す。その表情は悲哀に満ちていた。
「彼の愛に私は殺されたの」




