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カエル味のあめ玉  作者: 大木戸いずみ
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「……まつりが一番誰かに期待しているんだね」

 そう言った加奈子の声はとても優しかった。

 心の底ではずっと、私の世界を染めてくれる色を求めているのかもしれない。

 チェリーの乗ったクリームソーダになりたい。

「沖原~~、元木教授のテスト範囲ってどこだっけ~」

 私たちの後ろの席から若い男性の声が聞こえてきた。「教授」という言葉で、大学生だということが分かった。

 今年、大学受験を控えている私たちにとっては「大学生になる」ということが目標であり、憧れである。

「貰った教材全部覚えときゃなんとかなるよ」

 思わず振り返りたくなった。

 そんな風に返答する沖原という男性を見てみたいと思った。加奈子も私の様子を察したのか「凄いね」と呟く。

「俺が悪かった。沖原に聞いたのが間違いだった」

「勉学に励め、清一」

「はぁ~~~、なんのために勉強してんだろ、俺たちって」

 清一という男の盛大なため息が聞こえてくる。ため息だけで憂鬱な気持ちなのが分かった。

 大学生になっても勉強に追われるんだ……。

 私と加奈子は沖原の返答を静かに待っていた。会ったこともない男子大学生二人の会話に私たちはどこかときめいていた。

「勉強したら、優しくなれるよ」

 一瞬、思考が停止した。

 優しくなれる……?

 想像の斜め上なんて回答じゃなかった。全く知らない世界に飛ばされた気がした。彼とは違う惑星に住んでいるのかもしれない。

「ん?」

「優しい人になれる」

「ごめん、これは、俺は悪くない。お前の言ってること分かんねえよ」

 良かった清一の方は私と同じ星の人間だった。

「自分の知らない世界の知識を身につければ、違う価値観や思考を持つ人間の立場を想像できるだろう。そうすれば、少しでも『誰か』に寄りそうことができる。言葉の表現が広がり、誰も傷つかないように思いやれる」

「すげえな、お前」

 今度の清一のため息の種類は感嘆だった。

 勉強する意味を考えて、そこにたどりつける人はそういないだろう。みんななんとなく「しなくちゃいけないもの」として、勉強している人が多いはず。

 もちろん、新たな知識を得る悦びを感じて勉強している人もいるけれど……。大半が「勉強ってなんのためにするんだよ」と一度は口に出しているような気がする。

 だからこそ、沖原の回答が私には衝撃だった。この人と関わってみたい……。

 私は姉に「知識は望遠鏡」と教えられた。

 見えないところが見えるようになる。そうすれば、自分の世界を広げることができる。 「勉強は優しさを手に入れることができるのかぁ」

 加奈子はそう呟いて、私の方をじっと見つめた。


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