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カエル味のあめ玉  作者: 大木戸いずみ
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「尾形先生」

 私は登校してすぐに保健室へと向かった。尾形先生は一瞬驚いた表情をしたが、フッと表情を崩し「おはよう」と私の方へと近づいて来る。

「どうかしたのか?」

「先日はありがとうございました」

 私は頭を深く下げる。彼女は優しく頭を撫でてくれた。この安心感は一体なんなのだろう。心が少し暖かくなる。

「あの」

 私は顔を上げて、尾形先生の双眸を真っ直ぐ見つめた。

「カエル味の飴玉って医療として使われたりするのですか?」

 私の質問に尾形先生は眉をひそめた。カエル味の飴玉がどこから現れたのか分からないが、もしかしたら保健の先生なら詳しく分かるかもと思った。

 しかし怪訝な顔をする尾形先生を見て、すぐにその存在は知らないのだと察した。

「なんかめちゃくちゃマズそうな飴玉だな」

「……知らないですよね」

「聞いたこともない。そんな味の飴玉が医療として使われるようになったら世も末だ」

「尾形先生は奇妙な……理屈で説明できない出来事って信じたりしますか? 科学的に絶対あり得ない事象が起きたり……」

 カエル味の飴玉の存在など論理的に解明できない。しかし、実際に現実に実際起こっているのだ。

「世界は説明できないことで溢れているからな」

 尾形先生は真剣に答えてくれる。からかわれるかもしれない、笑われるに決まっている、と覚悟してきたのに……。

 やっぱり、尾形先生が生徒に好かれる理由が分かる。

 彼女は話を続けた。

「この世に魔法使いがいたって不思議じゃない。もしかしたら、妖怪もいるかもしれない。人間が作り出した創造物かもしれないが、いないと証明できたわけではない。だからこそ、世界は面白いのだと思うよ。各方面の研究者が血眼になって新しい発見を求めるのも分かるよ」

「全力で抱きしめたいですね、この世界」

「おう、抱きしめることができる間に沢山抱きしめておけ。明日には地球が宇宙人に支配されているかもしれない」

 尾形先生は豪快に笑う。私の話に真面目に回答してくれて、尾形先生の視点を知ることができた。広い視野で物事を見ていて、自分の意見を持っている尾形先生を素敵だと思った。

 多くを学んで、その中で私も確固たる自分の意見を見つけよう。

「もし、世界で一つだけ何か変えることができるなら何をしますか?」

 私の質問に尾形先生は目を丸くする。まさかそんなことを聞かれるとは想像もしていなかったのだろう。

 もちろん、私も自分でそんなことを聞いた自分に驚いている。けど、ふと気になった。尾形先生の意見を知りたかった。

「……良い質問だ」

 アメリカ人のような返答をする。グッドクエッションと頭の中で再生される。

「そうだな……。自分の顔を名前にプライドを持つ世の中にしたいね」

「どういうことですか?」

 首を傾げる私に尾形先生はフフッと笑みをこぼす。

「今のネット社会にもっと脅威を抱いておいたほうがいい。匿名で簡単に誹謗中傷できる世の中だ。容赦なく人を傷つけることができる。言葉の刃とは怖いものでね、身体の傷はいつか治るが、心の傷はなかなか治らない。だからこそ、一生ものの傷を負うことになる。それなのに、誹謗中傷は犯罪にならない。それが恐ろしいのだよ」

 可視化されない傷に気付く者はあまりいない。ネットは誰かの避難場所にもなるが、その逆になり得る。

 この保健室は心を傷つけられた人たちが多く逃げてきた場所なのかもしれない。そんな子たちを尾形先生は沢山見てきたからこそ、心の傷の深さを知っているのだろう。

「……なんか、ちゃんと先生みたいですね」

「私って、先生だから」

 尾形先生は誇らしげに笑った。


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