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『もしも~し? 沖原くん? いる?』
何も返せないでいると、電話越しに島崎が僕の存在を確認する。
「いるよ」
『………どうかした?』
「ううん、なにも。なんで?」
『なんか元気がないように思えて』
「そうかな?」
『なんかあった?』
「大丈夫だよ」
『それなら良いんだけど。なんかあったら言ってね。足のマッサージぐらいはするよ』
思わず吹き出してしまった。
母が死んだというのに、笑えている自分が気持ち悪かった。
島崎のキャラに僕は救われた。彼女がふざけてくれるおかげで、僕は普段と変わらずにいられる。
「なぁ、島崎、今から会わない?」
こんな夜遅くに女の子を外に出すなんて男の風上にも置けないかもしれない。それでも、僕は今すぐ島崎に会いたかった。
これで会ってくれるか否か、それで僕は島崎を試した。歪な愛情の確かめ方だっただと分かっている。
『いいよ、会おう。どこへだって行くよ』
彼女は僕の無茶な誘いにすぐに乗ってくれた。
まさか承諾してくれるとは思わなかった。驚きで何も言えずにいると、島崎の方から提案してくれた。
『終電はもうないから、車で近くまで行くよ』
「え、いや。それは悪いよ。それにこんな時間に女の子をあんまり移動させたくないから」
『大丈夫だよ、よくこの時間にドライブしてるし』
「てか、車持ってたんだ」
『中古だけどね。バイト頑張って買っちゃった』
島崎の運転している姿を想像出来なかった。
『じゃあ、そっち行くね』
「ごめん、ありがとう」
『どこに行けばいい?』
「住所送る」
『は~い』
電話を切って、僕は家の近くのコンビニの住所を送った。先にコンビニで何か甘いものでも買っておこう。
僕が住所を送って数分後に、十五分ぐらいで着く、と返信が来た。意外と家近いんだ。
母に会いに行かず、今から彼女と会うなんて不謹慎かもしれない。けど、それぐらい僕にとって母の死は心に響かないものだった。むしろ、地獄から解放されたような心地に近い。
人は簡単に野垂れ死ぬことはできないのに、死ぬ時は一瞬なのだと思った。こんなにもあっさり命が燃え尽きてしまうのかと……。
今という時間を噛みしめながら生きていこう。
僕はそんなことを思いながら、サンダルを履いて家を出た。コンビニへ行く前に、少しだけ寄り道をする。
幼い頃、いつも僕が隠れていた公園。母が死んだ今、ここに来ることはもうないのだろう。錆びた遊具が夜に溶け込んでいる。僕も錆びた遊具の一員だった。
遊具があったら寂しくなかったわけではない。僕はあの時……、本当に一人だったのだろうか。
ここに来ると、曖昧な記憶と妙な感覚に陥る。
もうすぐ着く、という島崎からのメッセージに僕は公園を後にした。
コンビニでカフェオレと小さなマフィンを買った。島崎の好きな食べ物は知らなかったが、基本的に好き嫌いはないということは聞いていた。
駐車場で待っていると、赤い軽自動車がコンビニに入ってきた。運転席には完全にオフモードの島崎が見えた。




