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カエル味のあめ玉  作者: 大木戸いずみ
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視点が変わる物語です。

 どこで人生を間違えたのだろう。

 最近の私はそればかり考えている。

  こんなはずじゃなかった、と何度呟いたのか分からない。ただ普通に生きていただけなのに……。

傷つけられて、人は成長するというが、私は逆だった。傷つけられて、廃れてしまった。

地に落ちていくのは簡単だが、這い上がるのは困難である。それが分かっているからこそ、私は落ちるところまで落ちようと思う。




「ねぇ、人間関係で一番大切なことってなんだと思う?」

 放課後、毎日のように通っている喫茶店で今日も加奈子とクリームソーダを飲む。

 ここの喫茶店のクリームソーダの上にはチェリーがない。だからこそ、私は好きだ。

 チェリーがクリームソーダを特別にしている。さくらんぼじゃなくて、チェリー。

 クリームソーダが一番輝くために必要なチェリーがないこのクリームソーダは私に似ている。私は特別にはなれなかった。

「ちょっと、まつり、話聞いてる?」

 眉間に皺を寄せながら、加奈子は私の顔を覗く。

「あ、ごめん。チェリーに想いを馳せてた」

「チェリー? 童貞でも狙ってるの?」

「チェリーボーイは私になんか捕まらない方が良い」

 私がそう言うと、加奈子は声を上げて笑った。彼女の豪快な笑い方につられて私も笑ってしまう。

「それで、人間関係で一番大切なことについてだって」

 私は話を元に戻した。

 高校三年生など、世間から見たらまだまだ子供かもしれないが、子供は子供ながらに必死にもがきながら生きている。この足掻きなど知らずに、大人は「若い者はいいね」なんて簡単に言う。

「誰との人間関係?」

「オールオブゼム」

 加奈子のカタコト英語に私も「アイシー」と答える。

「人に期待しないこと」

加奈子は真剣に私を見つめながら、「人に期待しないこと」と繰り返す。

そう、それが一番大事。

「傷つくから」

 私がそう言うと、加奈子は黙り込んだ。加奈子はストローであと一口のクリームソーダをすすった。

 絶対に美味しくない一口。氷で薄くなって、炭酸も抜けたソーダ。

「私ね、このまっずい一口が好きなの」

 思わず「え」と声が漏れる。

 加奈子もソーダの最後の味について考えていたのか……。類は友を呼ぶとはこういうことなのかもしれない。

「美味しかったものが不味くなる瞬間」

 加奈子の口から出た言葉に私はキュッと心臓が痛くなる。加奈子から目を逸らしたくなった。

「人に期待するな、傷つくから。……間違いじゃないと思うけど、傷つくから人として厚みが」

「知らない方が良かった傷も沢山ある」

 私は加奈子の言葉を遮った。

 彼女の言いたいことは分かる。けど、今の私はその言葉を素直に受け取ることができない。ただの綺麗事にしか聞こえない。世の中はもっと醜く、汚いものだから。

 ずっとモノクロの世界で生きているような気がする。……いつから、私の世界に色がなくなったのだろう。

「誰かに染まりたい」

 私はポロッと無意識にそんな言葉を口にしてしまった。


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