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私たちは喫茶店に来て、クリームソーダを注文した。
きっと、加奈子とこの店に訪れるのは、これで最後だろう。
「私たち、もう一度友達になれる?」
加奈子は不安げな目で私を見つめた。変な感覚だ。友達は「なろう」と言ってなるようなものではない。自然と一緒にいるようになって、いつの間にか友になっている。
それなのに、加奈子から改めて「友達になろう」と言われると、言葉に詰まる。
「……無理かな?」
「分からない。加奈子は加奈子のままなのに、私の中では加奈子じゃなくなったの」
自分でもよく分からないことを言っているは自覚している。
いたたまれない雰囲気の中、加奈子はスゥッと軽く息を吸って、話し始めた。
「私、まつりのこと相当好きだったんだと思う。写真見ても、まつりの隣にいる私、本当に幸せそうだもん。どうしてまつりのことだけ忘れちゃったのか本当に分からない。けど、私は本当に貴女を一番大切に思っていたんだと思うの」
知ってるよ、加奈子が私のことを大切に思ってくれてたの。
だから、今、苦しいのは私だけじゃない。私のことを忘れてしまった加奈子も同じぐらい苦しいと思う。加奈子、今にも泣きそうな表情しているから。
「ありがとう、加奈子」
「何が?」
「私の高校生活、加奈子のおかげで楽しかったから。どうにでもなれって思っていた人生、少しだけどうにかしたいって思えたから」
「……私、まつりのこと助けることができた?」
「うん、とても」
「それなら良かった」
そう言って、彼女は静かに涙を流した。その笑顔はどこか吹っ切れたような明るい笑みだった。
……加奈子だ。
この笑顔は私の知っている加奈子だった。どうしてそんな表情、と言おうとした瞬間、店員さんが私たちの前にクリームソーダを置いた。
「お待たせいたしました。クリームソーダです」
私は、すぐにクリームの上に乗っている赤い果物が目に留まる。
「ど、うして、チェリー」
目を見開いて、ジッとチェリーを見つめた。私の反応に店員さんは微笑んで答えてくれる。
「やっぱりサクランボを乗せた方が特別感がでるということで、店長の意向により変わったんです」
それだけ伝えると、店員さんは戻っていった。
チェリーの乗ったクリームソーダ。
「どうかしたの?」
加奈子が心配そうに私の顔を覗き込む。
…………特別になった。
クリームソーダを注文するのは今日で最後だと決めていた。加奈子と一緒じゃないとこの喫茶店に通わないから。
それなのに、今日、チェリーが乗っているなんて……。
ここのクリームソーダは私だと思っていた。谷沢くんが脳裏に過る。
徹くん、私、チェリーを手にしたよ。




