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深呼吸をしてから、インターホンを鳴らす。
玄関の花壇には綺麗に花が手入れされている。この辺りでは少し珍しい水色の家。遠くからでも加奈子の家はすぐに見つけることができる。
『はい』
加奈子のお母さんの声。
何度かこの家にお邪魔したことがある。この家でご飯をよばれたこともある。
「加奈子さんと同じクラスの岡峰まつりと言います。加奈子さんはいらっしゃいますか?」
『あら、まつりちゃん、ちょっと待ってね。 加奈子~~、まつりちゃんよ』
『まつりちゃん?』
『ちょっと、何をとぼけているの。仲良かったでしょ』
『あ、うん、そうだった』
インターホン越しに聞こえてくる会話。
加奈子は戸惑っているのだろう。私の記憶が抜けたことを認識し始めているから……。
私の姉の時もそうだった。姉は私を忘れたということに対して、割とすぐに順応していたが、やっぱり、前の姉ではなくなっていた。
ガチャッと玄関の扉が開く。
加奈子が少し気まずそうに出てくる。
「加奈子」
「……まつり、ちゃん」
「まつりでいいよ」
私は苦笑する。
もう私の知っている加奈子はいないのだ。改めてそう実感する。
「私、まつりのことどう頑張っても思い出せないの。部屋から貴女との写真は沢山見つかったし、仲が良かったのにどうしたの、って今日学校でも言われた。……それなのに、まつりだけを思い出すことができなくて」
「……ちょっと、ゆっくり話さない?」
「うん、もちろん」
「喫茶店にでも行く?」
「どこの?」
「私たちがよく行ってたところがあるの」
「そこに行けば何か思い出せるかな」
無理だよ、と心の中で呟きながら「そうだったらいいね」と口にした。
カエル味の飴玉を舐めれば、どれだけ思い出そうと頑張っても何も思い出せないことを知っている。……私の姉がそうだったから。




