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「てめぇ、私、ゴミを出しとけって言ったよな?」
母は僕のことを「てめぇ」とか「お前」と呼ぶ。「琴」と呼ばれた記憶など、もはやない。
母は家に帰ってきて早々、僕を怒鳴る。僕は「すみません」と小さな声で謝る。謝罪に気持ちは込めていない。ただ、そう言わなければ母の機嫌が更に悪くなるから、そう言っているだけだ。
「ったく、使えねえな」
舌打ちをしながら、彼女は自室へと向かった。僕は軽く息を吐いて、冷静になる。母の悪態に対応するには体力がいる。
僕は家のパソコンの電源を入れた。久しぶりに使う。パソコンが起動するまで少し時間がかかる。
僕はスマホの画面を見る。島崎順子という名前が目に入る。
付き合ってから、彼女と連絡先を交換した。僕は元々あまり連絡を取らないから、何を話せばいいのか分からない。
業務連絡みたいにならないように気を付けないと、と思いながらやり取りをしている。
何してるの、に対して、くつろいでいる、と返す。
島崎にそう送ったのと同時に、パソコンが立ち上がった。
僕はキーボードに手を置いて、「カエル味の飴玉」と検索する。
……何も出てこない。情報が何一つない。
僕は別のワードを入れる。「記憶を失くす」と「飴玉」の二つのキーワードを打ち込む。
検索結果をスクロールして、順番に念入りに確認していく。
あの時、僕はどうやってカエル味の飴玉を手に入れたのだろう。当時のことを良く思い出してみる。
飴玉を欲しいと思ったのは………………。
僕は死のうと思っていた。




