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「別れってしんどいね」
三人前ぐらいのパフェを平らげて、沙知は天井を見上げながら呟く。
「友達にすら戻れないんだもん」
そう付け加えた彼女に私は「そうだね」と相槌を打つ。忘れたり、忘れられるより、ちゃんと別れた方が良い。
「さゆりはさ」
「うん」
「今、楽しい恋をしていないんだね」
沙知から発せられた言葉に私は驚いた。今日はよく沙知にびっくりさせられる。
「なんで?」
「恋愛の話をしてると、さゆり、ずっとどこか後ろめたさを感じてる顔してるもん」
私は沙知のことを侮っていた。意外と人のことをしっかり見ている。
「今の彼氏と上手くいってないの?」
「ううん」
今、私に恋人がいれば、もう少し気が楽だったのかもしれない。
「罪であっても、結果が良ければ立派とされることもある」
「……セネカの言葉を自分の言葉のように言わないで」
「あれ? バレた?」
沙知は、てへっ、と舌を出す。彼女のセネカ信仰ぶりは見ていて面白い。
けど、純愛な沙知に今のセネカの台詞は似合わない。今の言葉は不貞行為を肯定するようなものだから。
「幸せを追い求めた先が皆の幸せなんだと思う。気遣いとか遠慮をしすぎると、大切なもの見失いそうじゃない?」
「利己的になりすぎると、皆不幸になるよ」
「なんか陰鬱な発想! ……けど、そういう人がいるおかげで世界は平和なのかもね。ありがとう」
「どういたしまして」
沙知は「は~~~」と大きなため息をつく。
「……沙知は幸せを追い求めたの?」
私の質問に彼女は少し固まってから、「うん」と笑顔を作った。
「清ちゃんと一緒にいることが私の幸せだと思っていたけれど、そうじゃなかった。それに気付いたから、大好きだけど別れた。だから、これから私の人生は圧倒的に幸せに満ち溢れているの!」
沙知の前しか向いていないところが好きだ。ポジティブ過ぎる人と一緒にいると、疲れるが、彼女はちゃんとネガティブも持っている。だから、一緒にいる。
「幸せになりたいね」
私がそう言うと、沙知は「私はね」と私の方を射貫くように見つめた。
「死してなお愛される女になりたい」
この世に少しぐらいは爪痕残さないとね、と私は笑った。




