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カエル味のあめ玉  作者: 大木戸いずみ
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4

「えっと……」

 あまりに唐突すぎて、返答に困ってしまう。

「もしかして、モンゴル返しができたさゆりの方がタイプだった?」

 いや、そういうわけではない。

 …というか、島崎順子は相当面白い女の子かもしれない。柔らかな雰囲気で、大人しい子だというイメージを勝手に抱いていた。

「琴、って名前は、琴線から来てる?」

 琴線、そうきたか。この子は紛れもなくさゆりの友達だ……。

 僕の存在が島崎の琴線に触れたのかもしれない。……っていうイタイ言葉を口に出そうかと思ったが、やめておいた。

「はずれ」

「教えてくれないんだね」

「いつか当ててみて」

 一番面倒くさい返答をしておいた。決してあたるはずのない僕の名前の由来。今までも、これからも、誰にも教えることはない。

「というか、僕の何が好きなの?」

「存在に惹かれた」

「答えになってない」

 少しふざけていた島崎が急に真剣な目で僕を捉えた。僕は彼女の視線から逃れられなかった。

「手の甲のほくろが牡羊座だったから」

 ほくろがおひつじ座……?

 僕はあまりにも想像していなかった回答に首を傾げてしまった。

 島崎は僕の右手をギュッと握り、自分の方へと引き寄せた。人差し指から付け根から、手首までをゆっくりとなぞる。

「ほらここ、ほくろが四つ並んでる。牡羊座」

 本当だ、と言えないほど僕は星座に詳しくない。というか、手の甲のほくろに牡羊座があって好きになるのもおかしな話だ。

「牡羊座なの?」

「そう、四月十七日生まれ」

「そうなんだ」

「来年は彼氏として祝ってね」

 彼女が明るい声で楽しそうに笑う。

 よく笑う子だ。この少しの間で彼女に抱いた印象はそれだった。

 島崎順子という人間に少しだけ興味が湧いた。恋愛感情というよりも、人として気になる。

「考えとく」

「え~~、じゃあ、近々良い返事待ってるね」

「ポジティブだなぁ、振られるって選択肢は島崎の中でないのか」 

 清一が口を開く。島崎は「ないよ、そんな選択肢」と柔らかく微笑んだ。

 その笑顔がとても魅力的だった。前言撤回。沢山の種類の笑みを持つ子、と印象が変わった。

「じゃあ、私たちはそろそろ行くね」

 島崎は席を立った。肩までかかっていた彼女のベージュカラーの髪がサラッと揺れた。

 今、初めて、彼女の髪色がベージュだったことを認識した。

 ブリーチ、何回したんだろう。

「あ、沖原が興味を持った」

 ボソッと清一が呟いた。清一の僕に対する観察力には驚く。

 興味がないと髪色など気にもとめない。こういうのが恋の始まりなのかもしれない。

 さゆりも席を立つ。彼女の石鹸の香りが漂う。……五感全てが昔の記憶を思い出させる。

「あ、そうだ」

 島崎は歩き出そうとして背を向けていたが、僕の方を振り向いた。

「沖原くん」

 僕の名を丁寧に呼んでくれる。

「はい」

「恋愛は決断とタイミングだよ」

 島崎の言葉が真っ直ぐ僕の心に突き刺さった。

 恋愛はタイミングとよく言うけれど、そこに「決断」が加わった。この二つが恋愛の軸となると断言するのなら、僕は島崎に賛成だ。

「数えきれない選択肢から一つ選んだら、もう何も選べないから慎重にね」

 それだけ言って、島崎はその場を去った。

 早すぎてもダメで、かといって、手遅れになる可能性もある。そこに決断と言う己の意志が必要となる。

 恋愛の本質を改めて気づかされたのかもしれない。

 この短い時間で、島崎順子が人気な理由がいやというほど分かってしまった。

「沖原にとって正しい決断が見つかるといいな」

 清一は最後に俺が残しておいた唐揚げを横取りして、口の中を頬張った。

普段なら、絶対に文句を言うが、僕は島崎順子と岡峰さゆりのことで頭がいっぱいだった。


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