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カエル味のあめ玉  作者: 大木戸いずみ
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 あの日、心臓が止まるかと思った。

 また彼と邂逅するとは思いもしなかった。

 沖原琴、彼は私の元恋人だ。私は彼を覚えていないふりをして、岡峰さゆり、と自己紹介をした。

 そして、琴という名について、昔一度したやり取りと全く同じことを繰り返した。

 お互い鮮明に記憶が残っているのに、と思いながら、不思議な感覚だった。

 順子が「気になる人いる」と言っていた相手が琴だったとは……。運命のいたずらにも程がある。

 私はカエル味の飴玉をかなり前から知っていた。だからこそ、琴が私にそれを渡してきた時は驚いた。戸惑いと怒りと、悲しみ、色々な感情が湧き出た。

 けど、彼が私に自分の存在を忘れてほしいと願うのなら、受け入れるしかなかった。

私は、愛に殺された。

……結果、私は琴を忘れなかった。

 琴も私も、岡峰さゆりは沖原琴を記憶から消す、と思っていた。

 しかし、私が忘れたのは、岡峰まつり、大切な妹だった。

 昔の自分の日記を読み、アルバムを見て、妹の存在を認知はしたが、何一つ思い出せなかった。

 私の中で突然現れた「妹」という存在を愛おしいと思えず、変な距離感が生まれた。今では随分と仲良くなったが、きっと前のような姉妹ではないのだと思う。

 両親を亡くし、私は姉兼親になった。日記を読む限り、私は本当に妹のために生きていた。両親の分まで彼女を愛そうと、自分の時間を全て妹に使っていたようだ。

 私が一人になれる時間と言えば、妹を寝かしつけた後ぐらいだった。よく夜道を散歩していた。夜の記憶はある。

 記憶を失う、というのは妙な感じだった。

 カエル味の飴玉の効果をまさか自分が実感することになるとは思わなかった。

 彼に飴玉を渡された日、ついに自分の番が来たのかと悟った。もしかしたら、こうなる日が来るのかもしれないと覚悟はしていた。

 私はかつての罪を償わなければならないから……。



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